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文豪の家

また明治村の記事を書こう。
明治村は愛知県犬山市にある野外博物館で、明治期の建物を中心に日本各地から集められた建造物などが60以上移築されている。
開村は昭和40年なので、ぼくと同級生だ。
写真を撮ったりするにもいい場所なので、名古屋にいる頃は季節ごとくらいに通っていた。

中心に僕が座っている建物は明治23年森鴎外が借家し、一年余りを過ごした。
又、明治36年(1903)から同39年までは夏目漱石が借りて住んでいたものである。
当代きっての文豪が偶然かどうかは定かでないが、同じ家を借りていたのである。

元は医師が明治20年(1887)に建てた39坪ほどの東京都文京区千駄木にあった家屋。
ここで鴎外は「文づかひ」を、漱石は「我輩は猫である」「草枕」「坊ちゃん」を執筆する。
ぼくが座っている後ろには縁側があるが、この他に明治期の庶民の家には「廊下」がなかった。
全ての部屋は障子と襖で仕切られていて、部屋を繋ぐ用途の廊下は見当たらなかったのだが、この時代になると僕が座っている場所の、向かって右側にある女中部屋の前には僅かながら、その存在を見ることができる。
この「廊下」を機に各部屋が独立した存在になっていくのだ。
中流住宅の代表的な建築例だが、近代建築への礎が見て取れるのも興味深い。

写真のぼくは寒くて縮こまっているが、日当たりのいいこの部屋で漱石は鼻毛を抜いて綺麗に並べるという奇妙な癖を繰り広げていたかも知れない。

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