心ある人に、なろう。

レールなんか、自分が引けばいい。

お話を聞いたのです。花まる学習会の高濱正伸さんに。
日本の悪弊とも言える知識や加点ノウハウを詰め込む偏差値重視の受験教育ではなく、子どもたちが自ら主体的に考える力とその意欲を伸ばす学習教室を1993年にスタートした花まる学習会。野外体験スクールや音楽・運動教室、思考力育成アプリの開発や親御さんの子育て支援にも取り組まれながら全国で教室を展開されているのですが、メッセージとして掲げているのが、「メシが食える人」、「モテる人」を育てるよ、という想い。子どもたちが自立・自活できる魅力的な大人になれるように、という意図であり、時勢を問わず普遍的でありながら大変わかりやすくて単刀直入に腹落ちします。と、最低限の背景だけ記しておきますが、とにもかくにもファウンダーである高濱さんの話にシビれまくりなのです。東大卒ですからエリート街道まっしぐらと思いきや、3浪4留!でその後大学院にも“入院”をして、社会人を始めたのは30歳オーバー。え?えええ?え~っと、最高やないですか。


Blowin’ in the Wind.

麻雀にパチンコ、女の子にケンカと阿佐田哲也ばりの浪人時代に始まって、映画や落語にどっぷりハマったり、ジョンレノンにスーパー傾倒したり。何が心を震わせるか、何にビリビリくるか。自分が感動することを20代かけて探索していた、と高濱さんは言います。無頼、モラトリアム、どこ吹く風。答えは風に吹かれてる。ロケンローだよ、おっかさん。生きた勉強ってこういうことを言うのではないか。でもコレ、言うは易く行うは難しです。同調圧力の強いこの国では、特に。自分がバックパッカーの頃、激安のゲストハウスやバンガローで同じように旅する西欧の若者と話してて“そっか、常識なんてクソくらえだな”と思ったのですが、20代は世界を見て人生を考える時間でもいいと母国では考えられてると教えてくれたのを思い出します。それだけでなく、高濱さんは24歳の1年間を哲学に捧げると決めます。早朝に牛乳配達して、AMに考えて、PMに議論する。この生活で考え抜いた芯で今も生きてる、と。いいなあ、素敵だなあ。何よりも人の五臓六腑を撃ち抜くのが、そうやって詰まるところ「生きるって、何?」に真摯に向き合い続けた高濱さんの姿勢。回り道をしているようで、すべてを豊かな肥やしに全身全霊で子どもと向き合うナチュラルボーン教育者だと思うわけです。


心の声を聴け。

そんな高濱さんが情熱的に語ってくれたのが、心。もっと言えば、理性を司る大脳新皮質でない“古い脳”の声をちゃんと聴け、ということ。分かるか分からないかのみで世界を理解しようとすると不幸になる、と。より原始的な感情の源となる人間の“芯”を理屈で封じ込めるのでなく、悪さもするしトキメキもするその本能的な声を大切にすることが幸せへの道なんだ、と。心の震えるような感動こそが人生を深く豊かにするし、自分の心をちゃんとモニターしてそこから問いを立て、見えてない課題を見つけてやり切っていけば、必ず人生は前進する。だからこそ花まる学習会ではイメージする“見える力”と実践し抜く“詰める力”を育むことに砕身しているのですが、まんま大人にも通じる話です。否、むしろ忖度や妥協、根回しや策略など余計な知謀を身に付けている大人こそ、真剣に聞くべき話と感じてなりません。仕事や組織や利害の中で心ない所業が生まれることって残念ながら少なくない。でもそんな取り組みが人を幸せにすることはない。だって、人間だもの。心から、はじめよう。純真無垢な子どもたちを心から愛してコミットし続けてきた高濱さんの言葉は、軽やかでいながら本質的で、ユーモアに満ちながら実直で、聞くほどに僕の心は朗らかに震えるのです。


武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダーシップコース クリエイティブリーダーシップ特論/第7回/高濱正伸さんの講義を聞いて 2021/5/24

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