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真性S女 アトリエ・エス と行く万葉のたび

第二十七回 生駒山へ



   君があたり 見つつも居らむ 生駒山 雲なたなびき 雨は降るとも

          万葉集<一二・三○三二> 作者未詳


   君があたり 見つつを居らむ 生駒山 雲な隠しそ 雨は降るとも

          新古今和歌集<恋五・一三六八> よみ人しらず


さて、百人一首の2番や4番の亜流、万葉収録の別バージョンが後にできた歌です。
因みにこの歌は、伊勢物語 二十三段にも登場します。


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むかし、田舎わたらひしける人の子ども、井のもとに出でてあそびけるを、大人になりにければ、おとこも女も、恥ぢかはしてありけれど、おとこはこの女をこそ得めと思ふ、女はこのおとこをと思ひつゝ、親のあはすれども、聞かでなんありける。さて、この隣のおとこのもとよりかくなん。

筒井つの井筒にかけしまろがたけ過ぎにけらしな妹見ざるまに

女、返し、

くらべこし振分髪も肩すぎぬ君ならずして誰があぐべき

などいひいひて、つゐに本意のごとくあひにけり。

さて、年ごろ経るほどに、女、親なくたよりなくなるまゝに、もろともにいふかひなくてあらんやはとて、河内の国、高安の郡に、いきかよふ所出できにけり。さりけれど、このもとの女、悪しと思へるけしきもなくて、出しやりければ、おとこ、異心ありてかゝるにやあらむと思ひうたがひて、前栽の中にかくれゐて、河内へいぬる顔にて見れば、この女、いとよう化粧じて、うちながめて、

風吹けば沖つ白波たつた山夜半にや君がひとり越ゆらん

とよみけるを聞きて、限りなくかなしと思ひて、河内へもいかずなりにけり。

まれまれかの高安に来て見れば、はじめこそ心にくもつくりけれ、今はうちとけて、手づからいゐがひとりて、笥子のうつわ物に盛りけるを見て、心うがりていかずなりにけり。さりければ、かの女、大和の方を見やりて、

君があたり見つゝを居らん生駒山雲なかくしそ雨は降るとも

といひて見いだすに、からうじて、大和人来むといへり。よろこびて待つに、たびたび過ぎぬれば、

君来むといひし夜ごとに過ぎぬれば頼まぬ物の恋ひつゝぞふる

といひけれど、おとこ住まずなりにけり。

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と、なんか見たような歌も。
つまりは、河内(カワチ)の国の女が、大和の国の男を思いやって詠んだ歌、というかたちになっているわけですね。

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