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大阪のブルックリン「十三」で岡本太郎と出会った話

大阪に十三という街がある。淀川をはさんで梅田のちょうど対岸にあるのだが、ショッピングビルや高層ビルが林立する梅田に比べて、十三は下町風情たっぷりの街だ。

駅前はいつも人で賑わって、生き生きとしている。

みたらし団子の老舗「喜八洲総本舗 本店」は十三駅前徒歩20秒。長蛇の列でもひるまず並んでほしい。手際が良すぎてすぐ買えるから。手土産はもちろん、焼きたてを頬張る贅沢も良い。

駅徒歩3分、十三サカエマチ商店街には、エッジのきいたドキュメンタリー映画ばかりを上映する「第七藝術劇場」が鎮座している。上映作品のセンスもさることながら、ミニシアター特有の隠れ家的な雰囲気が最高だ。

日が暮れればきらびやかなネオンがひかり、細い路地裏には居酒屋、炭火焼、立ち食いうどんの看板がずらりと並ぶ大人のエンタメ広場である。楽しげに笑う酔っ払いのおじさん達、パチンコの音、煙草を噛む目つきの鋭いマダム。ほどよく他人に無関心で、みんな普段着で、居心地がいい。

おしゃれで清潔で、どこもかしこもピカピカしている(ように見える)梅田の駅前とはえらい違いである。ちなみに私は十三が大好きだ。

そんな十三を歩くなら、ぜひ視線を少し上に向けてみてほしい。

歓楽街を離れたコインパーキングの向こうに突如、ナイチンゲールが現れるから。高さ10メートルはゆうにあるだろうビルの壁面に描かれた巨大なナイチンゲールが静かにこちらを見ている。

描いたのは大阪を拠点に活動するアーティストのBAKIBAKIさんだ。この作品が描かれたのは2021年、コロナ禍に立ち向かう医療従事者の人々への敬意と感謝を込めて描かれたものである。

壁画というと、ストリート界隈のちょっとやんちゃなカルチャーというイメージがあったのだけど、この作品は厳かで慈悲深く、信仰心のない私が思わず敬虔な気持ちになった。

これ以降、十三を含む淀川エリアにはいくつもの壁画が出現することとなる。BAKIBAKIさんが発起人となって始まったこの「淀壁プロジェクト」には、様々な場で活躍するアーティストが参加している。以下、ほんの一部を抜粋。

Borutanext5LanpNAZELAULEN YSDRAGON76青山 ときお等々。

街の景観のなかにあることで、より存在感が際立つ
建物を包み込むような巨大壁画

そのなかでも、とくに好きな壁が淀川沿いにある。

なんてことないマンションの壁に突如、現れる岡本太郎。力強すぎる眼力はマジモノだ。

岡本太郎の手に包み込まれた2階の窓、あの部屋の住人になりたい。

高さ13メートルの壁面すべてを使って絵が描かれた岡本太郎は遠くからでも、車で走っていても、電車の中からでもよく見える。あまりの迫力に、無視は不可避である。

大阪で太陽の塔を見るならぜひ、ここにも足を運んでほしい。

のどかな万博公園にそびえる太陽の塔もすさまじいインパクトだが、下町にでかでかと描かれる岡本太郎もなかなか強烈なのだ。

岡本太郎が睨みをきかせる淀川を越えて、すぐ向こうには梅田がある。きらきら輝く高層ビルと、暗がりにぼんやり浮かび上がる岡本太郎の対比はなかなかである。

BAKIBAKIさんはその対比を、イースト川をはさんで対峙するマンハッタンとブルックリンに例えていた。

ブルックリンに多くのアーティストが移り住んだことで魅力的な街になっていったように、十三もいまの下町情緒を残しつつアートと融合した唯一無二の街になるといい、と。

大阪に来た観光客が梅田に泊まって、道頓堀や中之島あたりに遊びに行くように、当たり前のように十三にも行ってみようか、なんて話になるのなら素敵な未来だと思う。

淀壁プロジェクトは2025年、大阪万博開に合わせて十三を中心とした淀川区に30の壁画を完成させることを目指している。

現在、クラウドファンディングがスタートしたばかり。これまでの活動も詳しくまとめられているので、ぜひ見てみてください。

私もすこしばかり支援をしましたが、もっと応援したくてこんな記事も書いてみました。

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