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【展覧会】「二次元派展」(1/28~2/13)大阪府立中之島図書館

展覧会を開こうと思い立ち、そして実際に開催させる人の胆力は計り知れない。
 
とくに現在、大阪府立中之島図書館で開催されている「二次元派展」のように、サブカルやエンタメの影響を強く感じさせるポップアートの展覧会は、美術史の中で評価が定まっていないがゆえの困難がありそうだ。
 
キュレーターの沓名美和さんの声がけにより集まった17名のアーティストたちは、20代~30代が中心らしい。

山口真人さん
左:奥田雄太さん  右:Rooo louさん
松山しげきさん
やとうはるかさん

キャラクター表現で描かれる女の子の姿やSNSというモチーフ、自由で軽やかな表現はどれも、生々しい今っぽさを感じさせてくれる。
 
今っぽ過ぎて「これってアートなの?」とか「現代アートってよくわからない」とか言われそうだ。
だけど、そんな人にこそじっくり見てほしいなと思った。

アジアに浸透している日本のポップカルチャー

ちなみにこの「二次元派展」、2022年8月に代官山ヒルサイドフォーラムで第一回目の展覧会が開催されており、今回は第二回目であり関西初の開催だ。

キュレーターの沓名美和さんは東アジアの現代アートの動向に詳しい方で、中国の魯迅美術学院の教授でもある。長らく日本を離れ韓国や中国を拠点に展覧会の企画などに携わっていたというが、コロナ禍で予期せぬ帰国となり、それがきっかけで日本の現代アートを外側から俯瞰してみることを始めたのだという。
 
沓名さん曰く、2020年頃から中国やその周辺の国々では、「二次元」という言葉が日本のポップカルチャーを指す言葉として、よく使われるようになったのだそうだ。

日本人が二次元と聞くと、アニメや漫画、ゲームなどのサブカルチャーをイメージするが、中国などではもう少し範囲が広く、日本の若者たちのファッションやアイドル文化、“可愛い”という日本的な感覚もそこには含まれるらしい。
 
今の日本っぽいものの総称として、「二次元」という言葉が使われているのだろう。
 
こうしたムーブメントとSNSの発達が交わった結果、二次元的な世界観を持つアーティストたちが(それも日本ではほとんど無名の若手のアーティストが)、中国をはじめとする東アジアのアートコレクターの間で大きく取り上げられるようになった。

しかし、当の日本ではほとんどそんな動きは知られておらず、それが二次元派展開催のきっかけになったということだった。

この数年、SNSをきっかけに東アジアで爆発的な人気を獲得している日本のアーティストたちがいることを、多くの日本人はまだ知りません。彼らとそれを取り巻くアートシーンを本展覧会で初めて「二次元派」と名づけ、日本のアートの現在地、そしてアジアの若者に共通する感性や時代感覚を読み解く試みです。

「二次元派展」展覧会概要より
https://www.osaka-kansai.art/exhibition/exhibition-961/

アートシーンに限らず、ファッションも音楽も、使う言葉でさえ、若者たちのカルチャーは移り変わりが早く、あっという間に姿を変えてしまう。なぜなら、人が若者でいられる時間はあまりにも短いから。
 
今回、二次元派展に参加したアーティストたちの作風も、これからどんどん変わっていくのかもしれないが、それもまた自然なことだろう。

泡のようにポップだからこそ、展覧会として時代を切り取ることに意味があると感じるし、その表現を一時のムーブメントと軽視せずに見つめることで、今しか味わうことのできない時代の妙をかみしめることができるのだと思う。

仲衿香さんの作品の、ポップと重厚感

 今回、私は仲衿香さんの作品を楽しみに会場を訪れた。ネットで作品の雰囲気を知っていたけれど、本物を生で見るのはこれが初めてだ。

仲さんは1994年生まれの作家さんで、アクリル絵の具を使った厚塗りの表現が特徴だ。普段私たちが生活の中で何気なく目にするブランドロゴやSNSのアイコンをモチーフにしている。

つまり、スタバやUber Eatsのロゴがモチーフなのだけれど、それは単にモチーフというだけではなく、仲さんが実際に生活の中で目にしたものをであり、めまぐるしく過ぎていく日常の切り取りといえるだろう。
 
以前の作品でTSUTAYAのロゴをモチーフにしたものがあるのだが、そのロゴが、顔が二つ並んだ少し前のバージョンだったもので、妙な懐かしさを感じてしまった。

最近はローマ字だけの「TSUTAYA」とか、蔦屋書店のロゴを多く見かけるので、顔ロゴ(正式名称はカルちゃん)は学生時代に通い詰めたレンタルビデオ店のTSUTAYAの雰囲気を思い出させてくれた。
 
そう昔のことでもないのに、もはやレンタルビデオ店に通う習慣はなくなってしまった。私たちの取るに足らない日常は、意識して保管しないと、あっというまに上書きされて忘れ去られていってしまう。けれどその、取るに足らない日常の積み重ねこそが、文化だったりするんだよな、と仲さんの作品を見て思ったのだ。

仲衿香さん

二次元派展では、仲さんが大阪の街を歩いて目にした食い倒れ人形(くいだおれ太郎さん)やグリコの看板、はたまた工事現場を示すマスコットキャラクターなどが描かれていた。

くいだおれ太郎のように、誰が見ても大阪とわかるモチーフも、数十年後には歴史の遺物になっているかもしれない。通天閣の名物だった大きなフグの看板もなくなってしまったし…。

仲衿香さん

そして今回、実際に仲さんの作品を見て驚いたのは、特徴的な厚塗りが想像以上の迫力だったこと。アクリル絵の具が堆積するなんともいえない質感は、土器や遺跡のような重厚感があり、時間の流れによる風化はねのけるような強さを感じさせるものだった。
 
最近はInstagramで作品をアップするアーティストも多いし、様々なWeb媒体で作品画像が見られるものだから、なんとなく作品を「知っている」感覚になることが多いけれど、実際に作品を目にすると、その迫力や温度感、画像との印象の差異に気づかされる。

私は仲衿香さんの作品を知った気になっていただけだったし、今回、作品を前にして、初めましてと言いたくなった。
 
二次元派展では仲衿香さん以外にも、松山しげきさん、山口真人さん、大澤巴瑠さん、きゃらあいさんなど、たくさんの素敵なアーティストたちが参加されている。

いずれの作品も、今この時代に生きている等身大の佇まいが美しい。

開催情報

「二次元派展」は「Study:大阪関西国際芸術祭」のプログラムのひとつとして開催されています。
開催:2023年1/28(土)〜2/13(月)
場所:大阪府立中之島図書館
「二次元派公式サイト」https://2jigenha.com/
「Study:大阪関西国際芸術祭」https://www.osaka-kansai.art/

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