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Summer-sadness

傷に染みる粉が入った液体の制汗剤は、
指定バッグの中で爆発すると激臭と共に教科書がずぶ濡れになるという悲劇の伝説であまりに有名だったよね。

チャイムがなると、号令を無視し教室を抜け出した。
一人でに準備をし、
彫刻刀を持って人気のない1号館と2号館を繋ぐ橋に向かって小走りした。

今日は最後の授業だったので少し心が躍っていた。
何も予定があるわけでないが、休み前の期待。
帰りにアイスは決まってる。


ここの場所がいつでも私の居場所だった。
いつものように膝を抱えて扉の隙間にしゃがみこむ。
雨と涙と汗と血が染み込んだコンクリート、剥がれて茶色い骨が顔を出している手すり。
ひび割れそうな窓とキイキイと音を出す、たまに勝手に閉まる金属製の重い扉には頼りない南京錠。

最大限に傷つけてやろう。今日だから。
鋭利な刃先と丸い刃先のものを指先で取る。
刺して、抉って剥ぎ取る。
整えて、指で擦って薄いペンキの乾いたものを毟る。

見ると私は一人ではなかった。
私のつけた最大限だった痕跡は、他の傷とともに馴染んでいた。同じ色。同じ言葉。同じ日付。


一人じゃなかった。

手すりを蹴り飛ばし、彫刻刀を突いた。
ついでに抉り滴り落ちた血液も、
余りにも目立ったラクガキを隠すように真新しく塗装されたペールブルーの上からなすりつけた。

赤く滲んだつま先にシーブリーズをぶっかける。
傷跡やニキビにはこれって決まってる。
かければ殺菌されて大丈夫になるらしいし。

乾いたら、白くなって目立たなくなるからさ。

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