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地方のサロンが海外アーティストのコンサートをやって感じたこと

群馬県高崎市のコンサートサロン「アトリエミストラル」のオーナー櫻井紀子です。

アトリエミストラルは旧銀行の1階部分を改装し、小規模なコンサートサロンで、主催コンサートを月に1~2回、貸館事業として演奏家企画のコンサートや発表会などをやっています。

主催コンサートでは主に地元や都内の演奏家の方にご登場いただき、プログラムなどにもこだわり、毎回好評をいただいておりました。

海外アーティストの演奏会をやるようになった経緯
4年前(2019年)にいただいた一本の電話。海外の若手アーティストを招聘しているMCSヤングアーティスツ様から「日本ツアーの一環としてアトリエミストラルでコンサートをやって欲しい」というご依頼。以来、何組かの海外演奏家の主催コンサートをやることになったのでした。

やってみて良かったこと
(1)世界のレベルを目の前で聴けること
MCSヤングアーティスツ様の招聘するアーティストは、国際コンクールで優勝レベルの若手演奏家。そんな世界レベルの演奏を、席数たった80の地方の、小さな小さなサロンで聴いた時の衝撃!
リハーサルが始まって、冒頭のたった1音がすでに今まで聴いたどの演奏とも「違って」おり、そのレベルの高さと「音」の完成度、一瞬で惹き付けられる音楽に衝撃を受けました。
小さなサロン「アトリエミストラル」の中で、「世界」を感じることができた瞬間でした。

(2)西洋クラシック音楽の認識を書き換えられた
国内・海外のオケ・オペラ・室内楽などの演奏を(聴衆として)聴いてきましたが、アトリエミストラルで目の前で繰り広げられる演奏の迫力と完成度に圧倒され、私の中の「西洋クラシック音楽」の印象はすべて書き換えられました。
美しく鳴り響く音楽の、その奥底に人間のあらゆる感情を揺り動かしてしまうある種の恐ろしさや生々しさのようなものまで感じたのでした。そしてそれこそが西洋クラシック音楽なのではないか?と今では思っています。

(3)楽器を鳴らしきる
アトリエミストラルのピアノは1905年製プレイエル。ほとんどのピアニストがその個性に慣れるまで時間がかかり、中には「合わない、嫌い」と拒絶することもあります。しかし、彼らはリハーサルの短い間で見事に個性を見抜き、さらにその楽器でできる最大限の表現に挑みます。楽器はまるで箱そのものが鳴り切っている状態。(決して力いっぱい叩いているという状態ではないということを追記しておきます)

(4)演奏家本人の意外な素顔が垣間見える
リハーサル、本番、それ以外のご本人の様子が意外にも、クセがなく素直で、文句も言わず、非常に紳士的だったのには、正直驚きました。楽器を離れると普通のおにーちゃん、という感じ。

大変だったこと
(1)集客
世界的な演奏家だったら集客もできるかも?と思った私の認識は完全に甘かった。
そもそも日本では、「知っている人」(=テレビで知った人も含む知り合い、先生、友人、家族、または国際コンクール上位入賞者の「日本人」)にはチケット完売となりますが、そうでない場合は、どんなに良い演奏家であってもチケットを買ってはくれません。この点は今までもこれからも課題♪

(2)演奏以外のこと
主催にまつわることは集客意外に、お金の話がついて回ります。芸術とお金。相反することのようですがとても大事です。当然ですが、集客ができないとお金は出ていく一方で、赤字です。こんないい演奏家なのに、どうして集客が上手くいかないのか?、私の何がいけなかったのか?とメンタルが完全にやられます(苦笑)

そして「迷い」
7月15日にもブルガリア人ピアニスト、エマニュエル・イワノフが素晴らしい演奏を披露してくれました。ショパンの「葬送」を聴いて、人生変わっちゃった人も多かったのでは?と思うほど。

リハーサル風景

地方ではほぼ聴けない演奏ばかりを聴いて、私の中で生じた「迷い」。アトリエミストラルは今後、どの立ち位置でやっていけばいいのだろう? 一流海外アーティスト以外のコンサートをやる意味があるのだろうか?
それを知る前に戻れない気がして、かといってこれからどうすればいいのか?

「迷い」を払拭したもの
ホール(サロン)を経営する、というのは、その土地から離れられない宿命を持ちます。物理的にも心理的にも。
アトリエミストラル開館当初の10年前、まだ何物でもない私とアトリエミストラルを信用してくださった数多くのお客様と演奏家がいます。
世界一流のアーティストのパフォーマンスは素晴らしいけれど、それ以外の演奏が素晴らしくない、ということではない!ということに気づきました。

自分から動けないので、このアトリエミストラルの魅力を感じて、はるばるやってきてくれる演奏家やお客様を大事にしよう。そして、音楽を探究している人に寄り添うアトリエミストラルでありたいと、思ったのです。その対象はその時によって違ってもいい。

どんな仕事でも生じる「迷い」。それにしっかり向き合うことはすごく大事だと思いました。落ち着いて良かった、自分(笑)


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