良くなるしかないのだ


長男十五歳。青春真っ盛り。
そして、中学生活最後の夏が始まる。
 
「野球部入る。」
入学して三週間後、仮入部期間の最後に、入部届けを出してきた。
ろくに野球のルールも知らず、草野球と、もっぱらプロ野球の観戦に浸っていた彼の口から出た言葉は、当時、私を驚かせた。
 
引っ越して三年目の春、新しい環境に馴染むのがゆっくりな彼が、誘い合わせる友人もない中、初心者丸出しでクラブに入るというのだ。単独行動気味の彼が野球経験者の中でやっていけるかどうかより、魂のままに動いたという感嘆の声の方が大きかった。
 
予想通り、一年生の入部者6人の中で初心者は彼一人。
VS三年生とのデビュー戦で見せた彼の初打席は、一年生経験者の誰よりもファールで粘って、最後は内野フライでアウトになった。
三年生ピッチャーが、同学年のチーム選手に、「一年(のしかも初心者)に粘られてるぞ!(しっかりしろ‼)」と叱咤激励されるくらいのバッティングを見せた彼は、少年野球経験者の夫との“秘密の特訓”を、野球漫画さながらの河原の砂地で重ね、二年生で地域の中学生野球選抜チームに入り、なんとレギュラー入りして、メキメキと実力を伸ばした。一時、打率は五割を超えた。
 
今年は、次男も同じ学校の野球部に入部して、家の中は部活の話が毎日飛び交う。
ダークホースな彼は、本当にダークホースだった。
今やチームの主力。スタートメンバー、打順一番、守備サード、第二ピッチャーとして、最後の夏の中学校総合体育会(総体)に挑む。
 
その彼が今、同じ部屋で、野球のテレビゲーム中。
 
野球が彼の魅力を引き出したと言っても過言ではない。
すっかり自信を引き出した彼の、本来の素顔が全面に出てきたように感じる。
 
お茶目で繊細で、自分の軸が立っていて、誰に対しても同じように接することが出来て、この四人家族の中では、一番、魂に近い生き方をしていると思う。
親バカだが、人としても、子供としても、本当にかわいい。
 
この間、進路希望調査があり、進学で提出した。
高校名も記入とのことだったのだが、彼の中には、高校で野球をしたい、という漠然とした思いがあるだけだったので、希望校を決めるのは本当に大変だった。次男を除く家族会議に懸けなければならなかった。 
 
空欄で出しても良かったのだが、彼の中では高校の希望時間制と科目は決まっていたので、難易度はともかく、通学一時間前後、交通機関の乗り換えが少なく、駅から十五分ほどの徒歩圏内で絞った。彼の、てんかん持ちのことを配慮しての通院を視野に入れた選択でもあった。
 
そんな親の心子知らずというのか、彼は今、目の前で、母が用意したツイストドーナツを食べ、二階の自分の部屋へ。
 
来年には高校生になっている。人間レベルでは、未来予測はできないが、高校生と中学生の息子がいる母親という感覚はすでにあるので、きっと、どこへだか通うのだろう。
 
こういうのが、巷で言う『引き寄せの法則』の感覚らしいが、要は、考え方だなと思う。視点を変えるというか、未来の自分になった感覚で今現在の自分の様子を視ているというか。
 
この今回の進路調査で選んだ高校が、彼の母校になるような気もしている。
難易度は、彼の今の成績だけで言えば、少し頑張りが必要だ。
「クラブがしたいし、塾には行かない」と言い切った彼は、全教科、学年全員の、上位三分の一以内の成績をキープしている。ここまで独学でやってきたことは、本当にすごいと思う。
 
総体の夏が終わり、引退すれば、クラブに充てていた時間を受験勉強に回せる。
 
彼は、勉強でもダークホースだ。
 
これからどこまで学力が伸びるのか。
どこまで自分の実力を伸ばせるか。
 
自信を引き出して、ぜひ、希望の高校で、希望の野球部に入って、楽しい高校生ライフを送って欲しい。
 
私は、見守ることしかできない。
歯がゆいが、彼の人生は彼のもの。他人の世界観を押し付けられないし、指図はできない。
 
私は、進路に対しては、客観的に視れば、状況的にも親の世界観を飲み込まざるを得なかった。その後、体調を崩し、心身症の状態も続いている。
 
親は、私が体調を崩した時、寄り添いはしなかった。今でも覚えている。仕事を辞めて治療したいと話した時に返ってきた言葉は、「体裁が・・・。」だった。誰の体裁なのか、今の今もさっぱり理解できない。大好きな母だったからこそ、この母の言葉が許せなくて、その後の関係に距離を生んだ結果となった。
 
人間的に悲しいが、距離をとることが私のできることだ。
他界した母とは、今でも、距離をとることで、心身が穏やかになる。皮肉だが、本当の話だ。
 
今も続いている低調な状態を鑑みて、こんな悲しい結果になる経験は、彼には引き継がせたくないし、引き継がせないと決めた。
 
長男に心の中で言う。
 
不安があったら、誰かに相談してもいいし、誰かに頼ってもいい。
自分で決められない時は、相手の決めたことに乗ってもいい。
 
誰もが一長一短を持っていて、誰もが完ぺきではない。
失敗は誰にでもある。
 
恐れてもいい、泣いてもいい。
反省しても後悔してもいい。
逃げたっていい。
背を向けてもいい。
 
人生いろいろあるが、必ず良くなっていくと信じてほしい。
すべてを悲観しなくても良い。
 
人生の山や谷、深海へも行っただろうか?
その時その時を生き延びるだけに集中した私が今、ここに居て、不完全ながらもここに居て、なんだか楽し気な様子で今を生きているでしょう?
見た目は、勝手な奴だなぁと感じるだろうが、これが私の人生の結果。
 
これからも私は変わっていくだろうが、私の経験から言えば、決して悪い方へは行かない。
良くなるしかないのだ。
 
大丈夫。
 
縫い付けた背番号が、やけに眩しく見えた。
 
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色々な意見があると思いますが、あくまで一個人の視点から語っております。
ご了承ください。
 
ありがとうございました。
 
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