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4 、□、箱と身体論


 数字の「4」は、分類・重みづけにより、秩序と安定感をもたらす性質がある。
4方位(東・西・南・北)、四季(春・夏・秋・冬)、四則演算(+・−・×・÷) など、空間・循環・数理の土台として、暮らしに馴染んでいる(参考1)。
 
 4角形(□)の性質は、4辺が閉じた形状から”固(まも)られる”安心感と、
拘束される閉塞感、予定調和な退屈さが醸し出される。ロの字型の座席レイアウトは、秩序立った議論や重厚感を伴う雰囲気づくりを促進する。

 四角い「箱」について。(○や多角形の箱は、ひとまず脇におく)
 本稿において「箱」とは、「□に奥行きが出た直方体で、他要素を受け入れる
空間を内包する、開け閉めできるもの」として、ひとまず整理を進めたい。

 箱・身体・空間へ、深い関心を抱いたはじまりは、大学時代の講義だった。
中世ヨーロッパの絵画・哲学を通し、身体論という切口から、時代背景をふまえた家具や空間への考察がとても興味深く、建築を志すきっかけにもなった。

〜講義メモの整理〜 
Boxの語源とパンドラの
 エラスムス(15C,ルネサンス人文学者)が『三千の格言』でパンドラに言及時、【ギリシャ語πίθος、ピトス)】を【ラテン語pyxis(小箱ピュクシス)】に誤訳してしまった説(参考2)のほか【後期ラテン語Buxis】が【古英語Box】に変遷していった説(参考3)などがある。
 丸い陶器の化粧品保管箱、小箱の材料Buxus(ボックスウッド、西洋ツゲ)の
    起源とされるほか、小箱そのものも指す。
要は、素材や形の差はあれど、何かしら大切なモノ*を保管する容器の意は共通。
                       *衣食住関連〜棺・墓まで。 
ー四角と丸の境界性
 四角は空間を区切ってしまう。
 丸いものは空間をざわつかせず、境界はあるようでない。
 
(丸はなじみやすい一方、全方位に力が往来し、求心性・緊張感をもたらす) 例)円陣、パノプティコン※(参考4)
 ※”最大多数の最大幸福”の効利主義者J.ベンサムによる刑務所施設の構想名。

小箱について
 小さければ小さいほど、中の空間は凝縮される。

ー箱と内外/表裏
 下記2点の通り、箱の開け閉めによって内外の空間が変化する。
 ・箱は開く運命にある。また、閉じられる運命にもある。
 ・開いた箱は内外の区別がなくなり無意味化閉じた箱one of themとなる。
空間を考える時に、”内・外”のような表裏関係を常に考えてみることが大切。

spaceの概念
 西洋におけるspaceが(点や線ではなく)、面的広がりを表すのに対し、
 東洋・日本点や境界、間を重視する…といった空間認識の違いがある。
 spaceは2点間の(空間的・時間的な)間隔から、空間の輪郭づけを重視し
 その内部は空洞とみなされた。

ー抽象と具象(現代・中世の相違)
 中世抽象的なモノと具体的なモノが密接に結びついていた。cf)チェスト
 (現代は真理の探究や抽象的思考をする場合、具体的なものを排除していく)

絶対的他者そうでない他者
 具体と抽象が密接に結びつくようになり、自己と他者のような2項対立ではとら
 えられない絶対的他者(神)が登場する。

教会チェスト
 通常チェストは「引出し付き収納」や「胸」を意味するが、本稿のチェストは、
 中世ヨーロッパにおける、蓋付きの収納箱(兼 ベンチ)を意味している。
 がらんとした教会壁際に配置される事で、チェスト内部は天上の象徴となる。
 窓なき(蝋燭が光源)のがりの中、接近時にが見える程度の部分的身体性。
 後に窓ができ光が差し込むまで、視覚や空間(身体・建築)認識の土台は部分性
 
にあった。      例)大聖堂(部分要素の結集)↔︎広場(全体を見渡す)

ー箱の中身と象徴性
 箱の中身
は開かずとも、象徴性という関係性によって外部(天上)と結びつき、
 
その交流の間人間が存在する。         cf)万物、三才、天地人
 箱のに座ることにで内部(象徴)に包まれる(内・外の反転)。身体の内外
 つながる状態であり、主体としての視点はない
 cf)『ちいさなちいさな王様』内で【夢をしまっておく箱】は王様世界のルール
   (=歳をとるにつれ、ちいさくなる)を脱して大きさが維持され、【就寝時に
     見るの夢の素材入れ】として夢の選別NGながら、代々の王に相続される。

ー「薔薇物語」における象徴性・部分性
  「薔薇物語」(13C,仏)でもとして騎士道恋愛物語が展開するが(参考5)
  愛の庭園は閉じた楽園であり、箱の中の象徴性に通じるものがある。
  薔薇に象徴される貴婦人達は着脱可能な自身の分身として好きな騎士へ
  渡し、騎士達はそのを剣につけて戦った(身体の部分性)。

ー人の距離接触@中世欧州
 上記には2つの論説があり、2つ目の説がチェスト(箱)に関連する。
 1つめは「様々な事を狭いキャンバスに詰め込む中世特有の画法」とする説。
 2つめは「実際に人と接触しながら暮らしていた」「肩寄せ合って複数人で腰掛
 けていたチェスト個人用の椅子に変わっていく過程で、接触が遠のいた」と
 いう説。個人が椅子という箱ることでチェスト内の象徴性(天上とのつながり)
 
や空間認識が変わる。

位置関係と優位な感覚
 座る行為が個人化した事で位置関係は”並び対面”へ、”触覚よりも視覚へ”と、
 優位な感覚が変容する。視覚優位は、建築空間において窓(採光)が増える
 事でより勢いづき、他者の視線を意識し、羞恥心も芽生える。

座る(≒住まう)→所有
 
中世の人々にとって”座る”と”住まう”は、”長時間居る”という意味でパラレル、
 ”立つ”行為には(positioningの意味はあるが)”住まう”の意味はなかった。
 箱に入れる事でオーラを発し、特別感・所有意識を高めることに寄与する。
 例)宝箱、宝石箱、玉手箱、額装、ラッピング。

ー中世のファッション・家具・建築にみる身体イメージと空間認識
 椅子と同様に、チェストから発展した天蓋付きベッドによって就寝の個人化
 が図られ、private空間の概念が生まれた。当時のファッションにおける髪型・
 首飾り・襟・袖などパーツ毎の装飾性は、部分的な身体イメージの表れであり、
 部分から全体を獲得していく過程は、教会建築(ロマネスク様式の小さな窓→
 ゴシック様式/大聖堂のステンドグラスグロテスク装飾)にも見てとれる。

ーグロテスクにみる、境界性と身体イメージ
 教会建築や絵画の中で表現されるグロテスクは、実在しない怪物の体裁が多く、
 境界外の無秩序(例えば異教)に対し、溢れる想像力をぶつける事で境界を明快
 にし、キリスト教の秩序・正統性を際立たせる。
 近代の身体イメージはダビデ像の様な、均整がとれ毛もなく”閉じ・完結した”
 ホモ・クラウスス(孤立した人間)。中世(民衆)の身体共同体的身体であり
 外界に開き※、触れ合うことも厭わず常に再生。あらゆる穴を誇張グロテスク
 は洞窟grottaが語源、参考6)し、循環する身体イメージを持つ。
 ※マクロコスモスとしての外界(天上・宇宙)と、ミクロコスモスとしての身体
   は、箱(チェスト等)を介した象徴作用によってつながっていた。

ーゴシック様式における線・光・襞
 ゴシック形式の教会建築における垂直に伸びゆくは、抽象的に生命力を持つ。
 ソワソワ上に伸びようとするも上には空しかなく結局、墜落する(円環・循環
 大聖堂のステンドグラスは、本来見る事はできない(神)を透過※させる事で
 自然なに変え、心を照らす(陶酔し、本来の自分に立ち返る)採光窓だった。
 人物彫刻の衣装の(ひだ)は。ゴシック特有の生命力を持ち、無機的・痙攣・
 こわばり・陶酔を内包する。

ーバロック様式における塊(歪)・光・襞
 線が(垂直に伸びずに)集まり、となりバロック(後期は”んだ真珠”)形式
 となる。2階建・小さめ窓によって(区別されるが)分断されないを維持し、
 を連れたとして入る。衣装ドレープの襞・線も、の重量感を備える。

光・鏡と身体イメージ
 光・鏡は視覚に優位性をもたらし全体表層的把握を促進するが、裏面や深部
 触覚の把握においては危うさを伴う。触覚形状において身体イメージを外側か
 ら補い得るのが衣服。人は衣服という具体をイメージで発展させて象徴とつなが
 ることで、内側からも身体イメージを補う。

ー考察:クッション(緩衝材)としての衣服・家具・習慣(文明・文化)
 インドから帰還した後の逆カルチャーショック(活力あふれる危険の宝庫から、人工的な安全空間にワープした衝撃)を思い出しつつ、「粗野な自然・空虚な安全、どちらも恐怖」だからこそ人は、クッション(緩衝材)代わりの衣服・家具・ 習慣(文明・文化)で、自分なりの居場所を整える…という考察レポートがある。

ー身体<衣服<家具<…部屋<共同体<棺(箱はつづくよ、どこまでも)
  講義では、roomの語源やチェストとの関係性だけでも深く詳しい解説、
   天蓋付きベッド<箱ベッド<寝室…の様なprivate空間の変遷、親密空間、
  共存性や共同体についても繊細な解説があったが、別稿でまとめたい。

 箱活(箱づくり自主研究活動)は、静かな時空間であーでもないこーでもないにDiveできる事が贅沢で、額装、カルトナージュ、茶箱…と関連する扉を開き続けた半年は、撒かれたパンくずをキャッチしながら進む鳥のようでとても楽しかった!

 T大学のY先生、カルトナージュやインテリア茶箱の先生方、いつも箱活報告につきあって下さるTさん、note投稿の勇気を下さったNさん・Hさんに深く感謝いたします。次稿は、五行や白について書きたいなと思います。

〜参考サイト〜
参考1:Wikipedia 皇帝 https://ja.wikipedia.org/wiki/皇帝_(タロット)     参考2:Wikipedia パンドーラー https://ja.wikipedia.org/wiki/パンドーラー  参考3:Boxの意味・由来・翻訳 https://www.etymonline.com/jp/word/box  参考4:Wikipedia パノプティコン https://ja.wikipedia.org/wiki/パノプティコン 参考5:Wikipedia 薔薇物語 https://ja.wikipedia.org/wiki/薔薇物語      参考6:Wikipedia グロテスク https://ja.wikipedia.org/wiki/グロテスク

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