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チチとうなぎ 後半

チチは、自分中心に世界が回っている人だった
相手が子どもであれ、いつも自分が正しいのだ

世間体を第一とする彼は
周りにはまるで家族の仲がいいかのようにふるまう

忙しいくせに、
無理に休みを取って旅行に行く
月に数回外食に連れだす
家に頻繁にお客を招く

しかし

それが私たちにとって
最大の苦痛になっていたことを彼は知らない

大人になるにつれ
美味しいものを楽しく
大好きな人たちと食べる時間を少しずつ持つようになり

食に対する恐怖心も減ってきた

だが、トラウマというのは根深く

もう怒らなくなった
晩年のチチとの食事はずっと苦手だった

家族仲良く、
楽しい食卓を囲んで育った人というのは
もっと食に対して積極的になれるのだろう

食に対しては
まだまだ自信を持てない自分がいる

いまだに
家でひとりテレビを観ながら
気ままに好きなおかずをつまむのが幸せ

そんな父もこの世を去って数年が過ぎる

おもしろいことに、
亡くなってからの方が
チチと会話している気がする

あたしには、
チチの好みの生き方は
できないかもしれないけれど

自分なりに
楽しく生きている今のわたしなら

ギリギリ認めてもらえるような気がしている

どうかな?
お父さん。

今ならもっともっと話ができるのに。

父と似た背格好の人を見かけるたびに
心がキュンと痛む。

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