②フリースタイル日本統一#13 (2023/01/09)

FORKさん(ICE BAHN)のことが本当に大好きなので、このFORKさん無双回のみ感想が他より長いです。約7千字。

(と思ってたら最終決戦の#23はそれを上回る1万3千字になりました)

※毎回感想書いてます!他の回は↓

▶︎日本統一の感想・放送前〜#6
▶︎日本統一の感想・#7〜#12
▶︎日本統一の感想・#13①
▶︎日本統一の感想・#13②(FORK)←イマココ
▶︎日本統一の感想・#14〜#22
▶︎日本統一の感想・#23(FORKvs呂布)

◆ テレビの犬

FORKさんほどキャリアがあれば、あらゆるdisは受け尽くしている。その証拠に、UMB2006を特集した「blast」2007年3月号には、「あまりに韻が堅いから『仕込みだ』って言われることもあるのでは?」「ヴェテラン・フリースタイラーのフォーク」「長年揶揄されてきた押韻至上主義」などの表現が並んでいた。

これ、2007年。2024年じゃない。17年前で既にこれ……。

2007年の時点でヴェテラン・フリースタイラーで、あまりに韻が固いから仕込みだと長年揶揄されてきた押韻至上主義のMCが、17年後どうなったか?

何も変わってない上に、KoK2021を獲り、いまだトップライマーの座にいる。そして、いまだに韻だけのMCと揶揄されている。そういうdisは受け続けてきたし、響かない。晋平太さんが評するに、FORKさんは「自分の乗れない挑発には乗ってこない。それが強さ。自分のフォームは絶対に崩さない」(2013/01/25発売「TODAY IS A GOOD DAY TO DIE」付属DVDのインタビュー)。

昔と違うのは、(本人は変わらずとも)2017年のFSD後環境が変わって、今回の「テレビの犬」的なdisを受けるようになったこと(FSLのSAMさん戦のような「箔が落ちるのをビビって出てない」チコさん戦の「柵の中に飼われている」というなもの)。

今、審査員もやり、FSL専属契約にもなり、表面的には体制派の重鎮、と見える節はある。そしてHIPHOPの文脈だと反体制が是とされ、権威的な存在は好まれない。いちファンとしては、そういう見え方されるの嫌なので、FSLのチコさんとの試合でも「メインカード俺以外誰ができんだよ」と返してたけど、もうひと声なにか欲しいと感じていた。(FSL自体炎上してるから突かれると思うけど、それ関連の挑発には乗らないかもな。なんとなく。そもそもどこでラップやるかじゃなくて、誰がマイク握ってるかってハナシ。)

そこで「テレビの犬」というK-rushさんからのdisに対しての「初めましてテレビの犬/2021年KOK獲っている それが証拠」のアンサーを聞き、胸のつかえが下りた。初めましてテレビの犬、って自己紹介的に自分で言うんだ?!めっちゃふざけるな?!というのと、そのように明朗に言えるのはKOK2021獲ってるから=ラップで証明してるからで、何と呼ばれても別にいい、はいはい勝手に言っとけよ、ということだと感じた。確かにな。もう長年のプロップスで証明されてるから、周囲がどうこう言うのは関係ないなと、こちらも改めて思い出した。かっこよすぎます。

◆2文字で湧かせる

前述のバースは「犬」「いる」で韻を踏んでいる。わずか2文字。この後は証拠、ここ、やり方、あり方…と踏んでいくので、マジでわずか2文字。それであんなに刺さって、あんなに客が湧くのはすごくないですか?

FORKさんの踏み方といえば、

①1文の中で細かく踏むのに、文章としても崩れない
②長めのライミングのパンチライン
③極上のライムと比喩表現

ーをパッと思い浮かべると思う。

①に関しては今回で言えば「HIPHOPはやり方じゃねぇあり方 そこがセンスの在処だと分かればありがたい」。これはめちゃくちゃFORKさんらしさが詰まっている。こういう踏み方をされると、ゲーム「ぷよぷよ」の連鎖がずっと続いていくような気持ち良さがある(ずっとばよえ〜んが続く状態)。押してほしかった、と自分でも気付かなかったツボを全部押されるような感じ。KENさんの言う通り「充分すぎるほどライム聞いてるのに更に重ねてくる」。そりゃK-rushさんも「もう踏まないでくれ」って言うだろう。

②に関して、晋平太さんは自身のYouTubeで、FORKさんについて「長めのライミングのパンチラインをフリースタイルに持ち込むっていうスタイルを発明した人って言って過言ではない」と解説していた(2020/02/11)。今回でいう「刻み込む 皆に問う」かな。確かに、FSDの「相当冷める/そっと収める」(FORK vs NAIKA MC, 2017)を代表的なパンチラインに挙げる人が多いのでは(こんな有名なのにあの試合負けたけど)。玉露さんの言葉だけど2005年の3on3「5文字以上踏める奴だけがここにいろ」ですね。

③は今回のメインディッシュとお惣菜みたいなやつで、例示すれば枚挙にいとまがない。「乗り方なんて必要ねぇ俺のラップは極上のライムと比喩表現だ」(FSD vs Rさん、2018)という姿勢を貫いている。

で、今回のわずか2文字の押韻。「ライムよりも『何を言うか』の方向に重きを置いたし、そこでちゃんと意味のあることを言って流れを生み出すことができれば、ケツで3文字ぐらい踏めばちゃんとそれがパンチラインになるから。だから『相手に何を言うか』が、今のバトルで自分に課してることかもしれない。ちゃんと言い返せば韻がそこまで固くなくても相手やリスナーに刺さるのが、今のバトルのあり方だと思う」(2023/11/22,音楽ナタリー)というのが表れてた。2022年のFREAKOUTでも2文字とか3文字ならすぐ踏めるから文脈を大事にしたいと言ってた。「極端な話、8小節で韻は2つでもいいんです。そこに『前フリ』と『オチ』があって、『内容』が込められていればその『韻』が生きる」(若干古い、2018/02/10のweb記事)だそう。

あとは「2021年KoK獲っている それが証拠」で湧くのは、FORKさんがどんなMCか、紹介しなくても皆背景を知っているという前提条件も大きい。ハイコンテクストな話をしても、その文脈を皆が共有している。UMB2006もKOK2021も獲って、時代を超えてカッコいいMCだって皆知っているのは大きな強み。「優勝?そりゃめでたい/だけどそこには俺が出てない」で湧くのと同じ。説得力がある。身の丈に合った言葉なのに、その身の丈がデカすぎる

◆アンサー


前のMCが言った言葉で拾って返す、っていうことをやり出したのは、俺らが一番最初だったような気がする。特にバトルではFORKが最初」(FREAKOUT!, 2022/10/6, 玉露さん)というのを見て、そういうアンサーの返し方はもう20年やってることなのだと思っている。それはそれでよくこんなスピードでポンポン言葉出てくるなあという感慨があるが、今はそれ以上にアンサー力が強すぎる。FSDを契機に文脈、論法を大事にするようになったからではと思うが、3試合ともその即興の対話力が明確で、痺れた。

K-rushさんの「先行渡して何言うかと思ったらテレビの犬になってやがったよ」に対し「いやいや後攻取りたかっただけだろ

「お漏らし?」といまいち決めきれなかった晋平太さんには「おおっと豪快に滑った

安易なライムを置いたTKさんには「会場から調子どう?で終わっちゃったね 教科書通り 残念だよ

いずれも声音に乗った表情も冴えていた。

単なる揚げ足取りではなく、「そう言われてみればそうだったなあ」と思わせられる(対戦相手がカッコ悪く見えてしまう)芯を食った即興のdisが冴え渡っていた。これは、FORKさん本人も過去に「見てるやつがどっかで思ってることをすぐ言葉にする、具現化すること。そうするとどっかで思ってるからストンと入ってくる。俯瞰で見ているところは強いと思う」と話していた(流派R , 2022/11/04)。

Rさんは相手が怒るようなことを言うのが本当にうまいけど、FORKさんは相手が反省しちゃうようなことを言っていると感じる、バカにせず事実言ってるだけに感じちゃうから。それが説教臭いと相手が噛みついてくる試合もいくつかあったが、そう言われたらさらに押韻で叩きのめしてる。

対戦した3人ともレベルが高く、一つのミスで勝敗ひっくり返るような緊張感のある試合だった。そんなヒリヒリした空気感の中で、あのように少しの相手の隙を突くことができるのは、▷キャリアに裏打ちされた地力▷挑発に乗らない冷静さ▷プレーヤーとしても審査員としても数々のバトルを見てきたことによる分析力▷そしてMCとしての高い理想と美学があるからーだと思う。FORKさん自身に強いこだわりがあるから、そこからはみ出たMCがすぐ目に付き、指摘できるのだと思う。

23年、2年前。俺23年ぐらいやっての2年前。結構近くない?」FSDより前だと、相手の言葉を拾って韻を繋げていくアンサーが多かったから、こういう喋ってる感じのはなかった。でも喋っててもかっこいい、よくこんなアンサーすぐ出てくるよなあ。上手な落語聞いてるみたいにずっと気持ち良い。

もちろん即興のライムも一級品。
あんなに強いグータッチ初めてだよ やられた瞬間に『何だ?コイツ』って思っちゃったよ」は

あんな  ana   なんだ   ana
強いグー uoiu  コイツ oiu
グータッチuai    瞬間に u(n)a(n)i

これ狙ってやったと信じがたいレベルだが、ただ喋ってるように聞こえて、こんな踏んでるのはどういうことなんだ。
ミメイ君がやるみたいに分かりやすく踏むのは客がアガるけど、FORKさんがやりたいのは、もしかしてこういう(踏んでるかさえ気付かない、私も数十回見て気付かなかった)隠れたライムなのかな?
ぶっ飛んだフロウやサグでもなくても隠れたライムで負ける気がしねぇ(「負ける気がしねぇ」)と歌ってる通り、後で気が付く、そしてニヤつくステルス韻も、FORKさんの特徴だと思う。

◆パンチライン


FORKさんは、私の知る限り1曲だけソロ曲がある。「現盤」(2011/11/11リリース)収録の「P.L.J」という曲で、これは「パンチラインジャンキー」の略。(玉露さんとKITさんの曲も入ってるが、そちらは客演有り。FORKさんだけ純粋に一人曲)なんてFORKさんにぴったりな曲なんだろうかと思う。「フローや発音じゃごまかさねぇ、ライムにしかこだわらねぇ結局」という歌詞に、美学を感じる。(Rさんとの試合で言ってたことと同じ軸。でもいつか急にKTR君ばりにフローしだしたらどうしよう。「ライム追い求め安易なフロウ でも武器はこれしかないだろ」(12cm)とも歌ってるからそれはないか。)

FORKさんはパンチラインを追い求めてるし実際にめちゃくちゃパンチライン吐いてる。この3試合でどれだけ頭に残るライムがあったか。ツイッターでヘッズが挙げるくらったラインが、一つじゃなかったのがその証左だろう。

フロー上手い人、バイブス高くて気持ち乗ってる人、いろいろなMCが群雄割拠してる。けど結局翌日残ってるのはFORKさんのライムじゃないか?空砲と実弾くらい違う、後日談はFORKさんがさらってるんじゃないか。

ここに関しては、2008年発行の「月刊ラップpresents RAP!!」のインタビューで得心がいった。「完璧な韻とは?」に対するFORKさんの答え。「次の日残るやつかな」だそう。残ってる!実際残ってます!次の日どころか何年先も残ります、今回の試合も!そう考えると2008年に目指してた理想には届いてるのかな。この先を見据えた言葉で2023年の音楽ナタリーの「最近は俺の真似をするやつが増えてるから、じゃあさらに違う方向に、と考えてるし、常にカウンターを打つような存在でありたいとは思ってる」があるが、それは今度どの方向なんだろう。

◆くらったライム


晋平太さんに言ってた「ティーンエイジャー、俺に負けて泣いてたクラブチッタ」は、明確に2003年8月13日のB Boy Park予選3回戦での対戦を指している。2人の関係性知っていたらグッとくるバース。(晋平太さんとの関係は、前回の記事①参照)

その後の「似て非なるようなオリジナルスタイルを示します」も美しすぎる。

ボディータッチ、tony touch」とタッチダウンは、FSD season4 Rec6-3のpekoさん戦で出た韻。

今回一番皆がくらってた「見せる存在感、俺がメインディッシュならお前はお惣菜かな」で思い出すのは「俺がメインならお前はつまみだな」(KoK vs真adrenaline, vsムートンさん, 2021/5/2)。

これはセルフサンプリングかどうかは分からない、つい言った可能性も感じる。それともツイッターとか見てて、ヘッズに受けたライムを把握してて意図的に出したのかな。私は前者のような気がするが。

最近はセルフサンプリング(2023/11/23, SPOTLIGHTのサウンドクラッシュ)してたり、インタビュー読んでても自分のライムについてたびたび語っているのを見る。2013/07/12発売「RHYME GUARD」付属のDVDでは、「印象的なバトルでの韻」を問われ、「これやったことある人は分かると思うけど本当覚えてなくて」と答えていて、UMB2006のヒダさんとの試合の韻についてもよく覚えてないと説明していた。何となくだけど、自分のバトル見返さないのではという気がするから、SNSで拡散されたり、それを見たいろいろな人から反応があったり、届く反響が大きくなったから、否が応でも周りから言われて自分のライムを思い返す瞬間が増えたのかな?と推測している。

同じFSD3代目モンスターだったTKさんに「3代目これからって時でマジで悔やしかったよな」と言われた時の顔、泣ける……。こういう感情を揺さぶる言葉は、TKさんだからこそと感じた。

『いまを生きる』机に立って敬礼」はロビン・ウィリアムズ主演の名作映画のワンシーン。いまを生きる、で止めず説明している。分かる人は頭の中でビジュアライズ(映像化)されるし、刺さる。でも分からない人は何で机の上に立ったの?って思うだろう。ハイコンテクストなラインは、少しあればピリッとして良いなあと感激した。digる楽しみもある。その前の晋平太さんは神奈川のMCの名前とか審査員の曲名とか列挙して畳み掛けてた。畳み掛けられて私はくらったけど、知識がないとそうはならない。

バズワードの「お惣菜」の話とも関連するが、ライムガードのDVDでは韻の踏み方について「思い付いたものを全部使うわけじゃなくて、そっから吟味していくわけで。ってなった時に、最終的にやっぱカッコいい言葉とダサい言葉があったら、俺はダサい言葉をチョイスするかな」と答えていたのをよく覚えてる。
ダサい言葉ほどライムは美しい」(Code Name)「フローとライム一気に大人買い どうせならしょうもない言葉がいい 」(STYLEⅤ)というリリックもあるし。

FORKさんは影響を受けた存在として、大神「大怪我」、BUDDHA BRAND「ブッダの休日」を挙げている。(Lunch Time Breaks, 2022/12/01)曰く、「いわばカッコ悪い言葉がカッコ良く聴こえるみたいな。そんなところの衝撃があった」「明らかに普通の曲では聴かない言葉が歌詞にたくさんあるのがヒップホップだと思っていて」。

「お惣菜」も、日常のにおいのする、生活感のある、いわばカッコ悪い言葉。言葉としては手垢が付いた、新鮮さのない言葉だと思う。それがこんなに湧いて、バズったのは何故か。踏み方に新鮮さがあるからだ。元々カッコいい言葉でカッコ良く聴かせるんじゃない。カッコ悪い言葉がカッコ良く聴こえるところに新鮮な驚きがある。流派R (2022/11/04)で、FORKさんは自分のバトルで印象に残った韻として、2017/09のFSDのSURRY戦「要は使い方 量で誤魔化さねぇ その味が美味いかだ」を選んでいた。(このバースは踏み方の妙より、哲学が出てるから選んだのだと思う。)韻をドカ食いしなくても、厳選されてるから充分おなかいっぱいになれる。

なんでダサい方なの?と思っていたが、いまを生きるよりお惣菜がバズってるのを見て腑に落ちた。ダサくてもFORKさんが踏めばカッコいいんだなあと。

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