NHK BS1スペシャル「北朝鮮への“帰国事業”知られざる外交戦・60年後の告白」を観て

1950年代から80年代にかけて行われた、在日朝鮮人とその家族を日本から朝鮮に帰国させる事業について、8月にNHK BS1で特集番組が放送されているのを見るまで、わたしはまったく知りませんでした。

北朝鮮への帰国というと、故郷が恋しい人が日本を離れて帰るだけなのかなと番組名から想像していましたが、もっと複雑な事情がいろいろと絡んでいたことを知りました。

そもそも、1950年代という時代は、日本は戦争で負けた国であるのに対し、北朝鮮は戦争で勝った国として、在日朝鮮人は日本人より上の権利を日本の政府に主張しており、政府も対応に苦慮していたと。

さらに、韓国への帰国事業はないのに、北朝鮮への帰国事業があったのは、当時は、朝鮮戦争による荒廃からの復興が進まないうえテロ国家と認識されていた韓国に対して、社会主義体制が素晴らしく輝いてみえた北朝鮮は、ある意味理想郷のように見えたからなんです。

これはひとえに、北朝鮮の実情を知らないってだけなんですが。

また、北朝鮮側が帰国させたがっていただけでなく、日本の朝鮮総連も本国の実情を知らず、在日北朝鮮の人々に帰国することを推奨していました。

さらに、当時は冷戦の真っただ中。
在日朝鮮人の帰還は資本主義から社会主義への大移動、すなわち社会主義の優越性を誇示するものとみなされたので、ソ連もこの事業の後押しをします。

韓国はこの事業に反対の意を示しますが、アメリカが間に入ったことで、大きくぶつかることなく事業は進みます。

この番組では、実際に帰国事業で北朝鮮にわたった人のうち、その後、脱北した人たちからインタビューをとるかたちで構成されています。

当然、現地に理想郷などはなく。
船で北朝鮮に到着し、待っている本国の人々のやつれた顔や貧しげな服装を見た瞬間に「え?想像と違う」と思ったと。

逆に、本国側の人も、日本で虐げられてきた貧しい在日北朝鮮人が本国に帰ってくると思って待ち構えていたら、自分らより血色も良い元気そうな人々が帰ってきたのでびっくりしたとのこと。

以前に、ヤン・ヨンヒ監督の映画『かぞくのくに』を観て、その中で、家族が北朝鮮にわたったことが扱われていたが、今思えばあれは北送だったのだ。この番組にも、ヤン・ヨンヒ監督自身も登場し、家族の話を語っていた。

ちなみに、この映画は内容も面白いし、ARATAや安藤サクラといった演技派の面々が出演しており、見応え十分で、おすすめです。

日本の歴史って、学校で習ってはいるものの、いちばん今の日本につながっている昭和以降のことって時間を割いて習わないですよね。

だから、こういうったことを知らないまま、何十年も生きてしまっている自分のような存在がたくさんいるんです。

いろいろと考えさせられる番組でした。

なお、北朝鮮への帰国事業については、Wikipediaに詳しい記述もあるので、興味がある方はそちらもご覧ください。

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