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与え合う交渉~相手の嘘やごまかしを見破る方法~

絶対に騙されない人になる本


今回の相談は、お人好しと呼ばれていつも騙されてしまうことを悩んでいる方からの相談です。相手の目や表情でウソをついているかどうかがわかるなんて言われることがありますが,さてどうでしょうか。私は交渉のときに、ついつい人を信用し過ぎて騙されてしまいます。これ以上人に騙されないために、書店で本を探していたら、「絶対に騙されない人になる本」というタイトルの本が目に留まりました。気になってページをめくってみると、「私は絶対に人に騙されません。人が嘘をついているかどうかは、その人の目をみれば分かります。相手が目を合わそうとしなかったり、右斜めを向いていたりすれば、嘘をついている可能性が高い!」と書いてあったので、さっそく実践してみました。が、また騙されてしまいました…。一体どうすればよいのでしょうか?


前回までのおさらい


まず前回までのおさらいからスタートです。交渉は3つのステップ、①自分の目標は何か、②相手は何を考えているか、③相手と「何を」「どう」与え合うか、という3点で確認していきます。

①「自分の目標」は、「交渉前には持っていなかったもので、交渉後に持っていたいもの」のことです。何のために交渉しているのかをしっかり決めておくことで、判断に迷わなくて済むようになります。

②「相手は何を考えているか」では、相手が何を考え、何を交渉の目標に置き、何を重要とみているのかを探ります。相手のことが分かれば、相手とうまく与え合うことができますので、とても重要です。相手を理解するためには、(ⅰ)相手の話をよく聞き、(ⅱ)相手に適切な質問をする、この2点を中心に行います。相手の話をじっくり忍耐強く聞きましょう。交渉のほとんどの情報は、ここで集まると言ってもよいくらいです。8割は相手の話を聞くことに割いて、自分の話は2割以下とどめてください。

話を聞くときにも、質問をするときにも、自分の一番大事な人に接するときと同じように、常に敬意を払う姿勢を忘れてはいけません。あなたも相手も、時には感情的になるときもありますが、感情は悪いものではないので、うまく付き合いながら交渉を進めることが大事です。

交渉を行う際には、感情のほかに、その人特有のモノの見方(バイアス)を考慮する必要があります。人は複雑な生き物で、何でも合理的に冷静に考えて行動できるわけではありません。ときには、自分の身を守るために、嘘をつくこともあります。今回も引き続き、交渉で嘘やごまかしに出くわした場合に、どう対処すればよいかを考えてみます。


嘘を見破ることが出来るのか


嘘やごまかしに、交渉の際にどのように対峙するべきか、この問題は、①相手の嘘やごまかしをどうすれば防ぐことができるか、②相手の言っていることが嘘やごまかしかどうかを、どうすれば見分けることが出来るのか、③相手の言っていることが嘘やごまかしだと分かったとして、どのように対応すればよいのか、④あなたが嘘をついたりごまかしたりしたいと思ったときに、どのように行動すべきか、の4つの場面にわけて考えることができます。

前回は、①について考えてみました。今回は、②相手の言っていることが嘘やごまかしかどうかを、どうすれば見分けることが出来るのか、について考えてみます。

嘘やごまかしを見破ることができるのでしょうか?

交渉をしていると、直感的に、なにか相手の言っていることは嘘くさいな、と感じることが良くあります。多くの人は、そのような直感は信頼できると考える傾向にありますが、実はそういった直感はだいたい外れているものです。人は印象的な出来事を優先して記憶に残すので、直感が当たったことがよくあるかのように錯覚しがちですが、大体の場合、直感は外れています。直感を不用意に信用してはいけません。

相手の視線やしぐさや表情で嘘かどうかを見破る研究もされています。そういったものも、ある程度は役に立ちます。ですが交渉は待ってくれません。交渉は複雑です。あなたが相手の表情や視線やしぐさに目を奪われているとき、相手の話をうっかり聞き漏らしてしまい、内容が置いてけぼりになれば、嘘を見破るどころではなくなってしまいます。交渉で嘘やごまかしを見破るのは、あくまでも内容に集中して、直感ではなく、根拠をもって判断することが必要です。



やっぱり準備が大事


相手があなたに嘘をつくメリットは、あなたが知らない情報をうまく利用して、好条件で交渉をまとめることができるからです。ですから、あなたが交渉の準備を万全に整えて、情報を十分に集めることが出来ていれば、相手の嘘やごまかしを見破ることができる可能性が高まります。当たり前の話です。

もちろん、現実には、すべての情報を集めることなどできません。ですが、ただなんとなく交渉を始める場合と、意識的に情報を集めたうえで行う交渉では、相手の嘘を見破ることができる可能性には大きな違いが生まれます。

交渉が上手な人は、交渉を始める前にも、交渉をしている最中にも、そして交渉が終わった後でも情報収集を欠かしません。情報収集の方法はこれまで繰り返し説明してきたとおりですが、一番大事なことは、「意識的に情報収集を行う」ということです。


複数の視点から質問をする


交渉では、相手の話をじっくり聞くことが大事ですので、質問攻めにするのは好ましくありません。ですが、相手の言っていることが本当かどうかは、ひとつの質問だけでは判断できません。いくつかの違った観点から質問をしてみて回答に一貫性があるかどうかを確認してはじめて、本当かどうかを判断することができます。

たとえば、前回例にあげた、あなたが家具の製造会社で、緩まないボルトを買おうとしている場合(相手があなたのライバル会社からもひそかにそのボルトの問い合わせがきており、あなたの会社よりも高い値段で買おうと言ってきていると告げて、価格を吊り上げようとしている場合)、あなたとしては、複数の質問をすることで相手の一貫性を見ることができます。具体的には、ライバル会社からいつ問い合わせがきたか、どんな条件できたのか、それに対してどんな回答をしたのか、その問い合わせは書面できたのか、書面できていないとすれば正式なものではないのではないか等々、複数の質問をすることで、相手の様子を確かめ、一貫性があるか、回答に矛盾や不合理な点がないかなどを確認することができます。

ただ、質問攻めは相手に必要以上の警戒心を抱かせてしまうというデメリットもありますので、そのさじ加減は、その場の状況によって判断するしかありません。

相手が警戒している様子であれば、率直に、「急に聞いたお話ですので、話を前に進めるために、あなたがおっしゃっている情報が事実かどうか確かないといけません。いくつか質問させてください。質問に差し障りがあればどうぞおっしゃってください。」などと言うほうが効果的な場合もあるでしょう。


答えになっていない答え


先日、あるニュースで、国会に参考人として招致された官僚の国会答弁が、質問に対する回答になっていないという報道を見ました。自分に都合の悪い質問に対しては、聞かれていないことをあえて答えて、質問に対する回答をはぐらかすというものです。

弁護士として仕事をしている中でも、依頼者との打ち合わせの際や、相手に法廷で尋問をしているときなど、この種の回答がよく見られます。質問とは違う回答をするのは、その質問が相手にとって都合が悪いからです。こういう回答は、形式的に言っていることは間違っていないので、嘘ではないのですが、質問に対する回答ではないという点で、ごまかしでしかないので、注意をする必要があります。

誰でも嘘をつくことには抵抗を感じます。たいていの人は罪悪感を覚えるでしょう。ですが、ごまかすことで相手が誤解する場合には、この種の罪悪感はあまり起きません。実際、交渉の多くの場合は、嘘よりもこういったはぐらかしやごまかしのほうが多くみられます。集中力が切れていると、こういったごまかしに気が付かないこともあるため、気を付けるようにしましょう。

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条件付きの交渉で相手の出方をうかがう


相手の言っていることが本当かどうかわからない場合、それを受け入れると同時に、もしそれが後で違うと分かった場合には、それについてこちらに有利になるような条件をつけるということも有効です。

相手が単にブラフで言っているだけであれば、そのような条件を相手が受け入れることはないですし、逆に相手がそれを受け入れた場合には、それが本当かもしれない可能性が高いと判断できます。

ただ、このような交渉は、相手の体面を傷つける可能性もありますので、基本的には相手の出方をうかがうくらいにとどめるほうが良い場合もあります。

嘘を見破ることは簡単ではありません。ですが、嘘を見破る可能性を高めることは可能です。ここで注意したいのは、直感に頼るのはやめようということです。直感ではなく、準備をしっかりして、適切な質問をすることなどで、相手の言っていることを理解することが大事だということです。


今回の相談の検討


さてそれでは今回の相談の検討にうつりましょう。相談者をAさんと呼びます。Aさんは人が好いのか、ついつい周りを信用し過ぎて、騙されてしまいやすい性格のようですね。人を信用するのは、決して悪いことではありません。信頼関係を結ぶためには,その人を信用しないといけないからです。

ただ、だからといって騙されて良いわけはないので、なんとかしないといけないわけですが、嘘を見抜く方法は,これまで説明したとおりです。

Aさんとしては、目線や目を合わすかどうかで嘘を判断できる、という本を信用してしまったようですが、さて、目線などで人の嘘は判断できるのでしょうか。

確かに、嘘をついているのは気まずいので、相手と目も合わせづらいというのは一般論としてはあるとは思われます。ただし、元々目を合わせるのが苦手な方は大勢いらっしゃいますし、私が刑事事件でかかわった詐欺師のなかには、あえて目を合わせて決して目線を外さないという人もいました。

人は多様です。人によって、しぐさも違いますし、まばたきが元々多い人もいれば、よそ見をすぐする人もいますし、じっと人の目を見る人もいます。長年表情を研究してきた研究者であればともかく、私を含めた素人では、到底相手の表情から嘘を読み取るなどできません。

相手の言っていることが本当かどうか、あるいは形式的には本当でもごまかしが入っていないかどうかは、外見からだけで判断することはほぼ不可能です。直感で判断するのではなく、事前に準備をしっかりしたうえで、内容を吟味して、いろいろな角度から確認するようにしましょう。

Aさんは、人が好いのかもしれませんが、事前準備をおろそかにされているのだと思われます。Aさんには、まずは準備をすることの大切さから復習しないといけなさそうですね。

今回はここまで。

illust by Kotaro Machiyama

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