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「ニュー・ノーマルな時代の学び」 _ATACニュースレター #1

 差別や格差の拡大など様々な社会課題に直面し、社会や組織を変えなければと言いながら長年染み付いた習慣を変えるのは容易ではない。日本では大きな組織になればなるほど変革を声高に叫ぶ人も少ないように思える。これまでの日本の組織が協調性のある人を積極的に採用してきたのだから仕方ないのかもしれない。突き抜けた改革を提案しても皆顔色を伺って先に進めない光景が目に浮かぶ。

 しかし、突然現れたCOVID-19が我々の生活を大きく変えた。学校も閉鎖を余儀なくされ、自宅にいる子どもにどうやって授業をするのか考えなければならなくなった。残念ながら、生徒が自宅で授業を受けるように想定していた学校はごくわずかで、大半の学校は宿題をコピーして自習させるのが精一杯であったと聞く。その中でも様々な工夫で生徒に授業できないか多くの先生方が努力された話も耳に入ってきた。OECD加盟国の中で学校教育のICT化がもっとも遅れているのが日本である。コロナ禍にオンラインで授業を配信した学校は公立学校の約5%に過ぎない。非常事態宣言解除後には、ほとんどの学校がニューノーマルの時代ではなく、元の時代に戻って生徒と対面で授業を開始している。せっかくオンラインに馴染めた子がいるなら、せめて週一日でも希望する子はオンラインで授業に参加する日があってもいいように思うのは私だけであろうか?


 保護者も子どもが1人で家にいたら心配になるのではなく、留守番しながら食事して勉強する自立した子どもを褒めてはどうだろうか?


 1つの学校にはオンラインかオフラインかという二者択一しか認められない今の学習スタイルこそが間違っているように思える。COVID-19も収束までに時間を要すると言われている。新しいウィルスの流行、地球温暖化による異常気象、大震災などがいつ起こるかわからない不確定な時代に突入した今、オンラインもオフラインも活用できるスキルを皆が身につけておく必要がある。これは大人も同じである。


 学びの場ではリアルな教育がオンライン教育に勝るとされてきたところがある。教育は集団で行われるから社会性が育つとも言われてきた。しかし、オンラインを活用すると今までできなかった教育も見えてくる。小中学校の多くの生徒は学区内から通ってくるが、オンラインで世界中の子どもと繋がれば、地理や世界情勢についてむしろリアルな体験が可能である。北海道と鹿児島では季節を超えた学びが出来る。こういった時間・空間を超えた学びを想像するとワクワクする。


 江戸時代の鎖国から開国・明治維新へ、戦時中の軍国主義体制から終戦後の民主化・高度成長へと日本はこれまで劇的な転換を遂げてきた。ポストコロナのニューノーマル時代をどう作り上げていくか、今こそ大人がその見本を子どもに見せる絶好のチャンスである。


執筆者:中邑賢龍(東京大学先端科学技術研究センター)

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