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取り残される日本の姿 = 感染拡大阻止の遅れだけでない経済立ち直りの弱さ =

                                                                                         2021年5月25日

〇 今年1-3月期の実質GDPが示す取り残される日本の姿

 年明け後2度目の緊急事態宣言に追い込まれた日本、懸念されていた景気鈍化が予想を上回る姿で公表された。

 今年1-3月期の日本の実質GDPの伸びは、前期比年率で5.1%減と、昨年7-9月期以降の立ち直りに釘を刺す結果となった(表1、図1)。

表1. 日米ユーロ圏 : 実質GDPの推移

日米ユーロ(表)[3159]

日米ユーロ100[3152]

図1. 日米ユーロ圏 : 実質GDPの推移(リーマン・ショック前ピーク=100)

 先行して公表された米国経済の姿は、1-3月期前期比年率で6.4%増と前期より一段と加速し、日本経済の混迷をより鮮明なものとしている。

 他方、ユーロ圏(19ヵ国)を眺めると、今年1-3月期の実質GDPは前期比年率で2.5%減と2期連続でマイナス成長となった。日米ユーロ圏の経済推移には明らかに新型コロナ・ウイルスに対する施策の違いが出ている。

 今年1-3月期の実質GDPの水準を感染拡大前の19年10-12月期を基準に眺めると、日本は97.7、米国は99.1、ユーロ圏は94.5となり、いずれも感染前の水準を取り戻していない。

 感染前からの水準では日本はユーロ圏より高い水準を示しているが、図1に示したリーマン・ショック前ピークからの推移を眺めると、日本経済の弱さが一段と鮮明である。

 他方、前年比で眺めると、米国は今年1-3月期には0.4%増とプラスに転じた一方、日本、ユーロ圏は共に1.8%減に止まっている。米国が日本、ユーロ圏に先行して回復の姿を鮮明にしている。

 前年比で日本と同じ伸びを記録しているユーロ圏は、前期比で2期連続してマイナスの伸びではあるが、前年比では昨年10-12月期の4.9%減からは減少幅を縮小しており、経済回復基調の姿は感じられる。対して、日本は前年比で昨年10-12月期の1.0%減から再び減少幅を拡大しており、回復の基調が揺らいでいる。

 このような状況の下、ギリシャ、イタリアでは観光客の呼び込みに動き、フランスでも感染沈静化による緩和が公表されてきている。他方、日本では変異株ウイルス拡大が公表される中で、オリンピック開催も迫り、緊急事態宣言の延長も考慮される状態であり、4-6月期のGDP統計ではユーロ圏からも離され、取り残される姿となりそうである。

〇 民間住宅投資、輸出等以外の需要減少、国内供給減少

 それでは日本の総需要(総供給)について眺めてみよう。

 表2は各項目(実質)の前期比年率を示したものである。昨年10-12月期にはそれまでマイナスの伸びを示してきた投資需要である民間住宅投資、民間企業設備投資もプラスに転じ、全ての需要がプラスを示していた。

表2. 日本 : 総需要(総供給)の推移(前期比年率、%)

総需要(表)(前期比年率)[3155]

 それが今年1-3月期には民間住宅投資(2期連続)と海外需要である輸出等(3期連続)がプラスを継続したものの、他の需要は再びマイナスに転じている。

 注目すべきは、年金・介護に加え、休業支援などが含まれる政府消費支出、さらに災害復興で増加してきた公的資本形成(公共工事)が今年1-3月期初めてマイナスに転じている。

 この結果、総需要は昨年10-12月期前期比年率で13.2%増から1-3月期は2.2%減となった。 これを受ける形で、国内供給、すなわちGDP(国内総生産)は1-3月期5.1%減少する一方、海外供給である輸入等は同16.3%増と2期連続の増加となった。海外供給が継続して増加する中、総需要の落ち込みが国内供給の大きな減少を生み出したという姿である。2度目の緊急事態宣言により、国内活動が停滞したことが明らかだ。

〇 公的部門の需要のみ感染前の水準を上回る

 表3は各項目(実質)を感染前の19年10-12月期の水準を100として示したものである。

表3. 日本 : 総需要(総供給)の推移(2019年1-3月期=100)

総需要(表)(ぴーく100)[3154]

 今年1ー3月期時点で感染前の水準を回復しているのは、政府消費支出と公的固定資本形成という公的部門の需要のみである。総需要の水準は97.4であり、形的には政府が下支えしている姿である。

 供給側から眺めると、国内生産が97.7で総供給の97.4を上回ており、1ー3月期まで2期連続して増加している輸入等(海外供給)は96.4で国内生産よりも低い水準である。

 需要側である輸出等も今年1-3月期輸入等と同水準であり、対外的な経済活動は回復基調にあるとはいえ、民間需要同様未だ低い水準である。

〇 継続してきた総需要減少幅改善が鈍化

 表4及び図2は各項目の対総需要(総供給)に対する前年比増加寄与度である。需要側では在庫を外し、供給側では開差があるため、それぞれの項目の和は総需要(総供給)の数値とは一致しない。

表4. 日本 : 総需要(総供給)の推移(前年比、対総需要増加寄与度、%)

総需要(表)(増加寄与度)[3156]

総需要(前年比増加寄与度)[3153]

図2. 総需要(実質)の推移(前年比、対増需要増加寄与度、%)

 総需要の推移を前年比で眺めると、19年10-12月期消費税率引き上げの反動からマイナスに転じ、これに新型コロナ・ウイルス感染拡大が加わり、昨年4-6月期に9.5%減とリーマン・ショック時の09年1-3月期の9.9%減に次ぐ落ち込みを示している。

 その後は減少幅を縮小する動きを示してきているが、今年1-3月期は1.8%減と前期の2.0%から縮小幅改善が大きく鈍化している。

〇 休業支援給付範囲や規模の少なさと需給、支給の遅れ明らか

 これまで眺めてきたように総需要を押し上げてきたのは政府部門の需要であり、とくに政府消費支出の寄与度は昨年7-9月期以降0.6%増、0.8%増と4-6月期までの0.2%増から期を追って伸びを高めてきた。その背景には、休業支援などの支給がある。

 しかし、今年1-3月期にはその寄与度が0.5%増と鈍化している。休業支援需給手続きの煩雑さと支給の遅れが問題視されている。2度目の緊急事態宣言、さらにはその期間延長を考慮しなければならいない状況で、長期間労働市場から退出させられている人達が多く存在していることを忘れてはならない。米国と比較するまでもなく、何よりもその支援範囲の拡大、支援給付額の増加が急務である。国民の生活安全保障を忘れるべきでない。

 政府消費支出の動向は個人所得に直結しており、次のレポートで改めて個人所得の面から眺めてみたい。

 災害支援などの公的固定資本形成も弱いものに止まっている。2度目の緊急事態宣言で活動が弱まったのか、それとも災害復旧が一段落してきたのか、鈍化の背景はわからない。

〇 米国とは真逆、回復の足かせ民間消費支出

 図2でも明らかなように、新型コロナ・ウイルス感染拡大はリーマン・ショック時とは異なり、民間消費支出を直撃している。政府の支援策が不十分な状況の下、2度目の緊急事態宣言で最大の需要項目である民間消費支出は、1-3月期総需要1.8%減の内1.3%押し下げる結果となっており、総需要落ち込みの大半を占めている。

 今年1-3月期米国の実質総需要は前年比で1.1%増となったが、民間消費支出の総需要に対する増加寄与度はプラス1.0%で、日本とは真逆の民間消費支出主導の回復である。民間消費支出については後日改めてご説明したい。

〇 米国とは異なり、技術革新の動き見られない日本国内の設備投資

 米国の姿と真逆なのは民間消費支出の動きだけではない。民間設備投資と輸出等の動きも逆である。

 日米の民間設備投資を総需要に対する前年比増加寄与度で眺めると、日本は1-3月期マイナス0.8%と前期より増加寄与度がさらに低下する一方、米国は同プラス0.3%と総需要を押し上げている。(米国については前回レポート参照)

 輸出等(財・サービス)は、1-3月期総需要に対する増加寄与度は米国がマイナス1.0%と前期より縮小したのに対し、0.1%増とプラスに転じたが依然総需要回復の足を引っ張っている。

 日米における民間設備投資の違いには、前回レポートでお示ししたように米国は景気に大きく左右されない独立的な投資、すなわち技術革新の流れが存在するということであり、日本にはその動きが見られないということである。

 図3は国際収支統計で公表される日本の対外・対内直接投資(暦年)の推移で、対外・対内直接投資額を日本の民間設備投資額(名目)で割ったものである。

対外対内直接投資(単民間設備投資比)[3157]

図3. 日本 : 対外・体内直接投資の推移(対名目民間設備投資比、%)

 これを眺めると、04年までは海外での工場設置などを示す対外直接投資は同期間国内で実施された民間設備投資の5%以下であったが、05年以降は期を追って拡大してきている。新型コロナ・ウイルス感染前の19年には国内で実施された民間設備投資額の30%を上回る規模の直接投資が海外に向かっている。昨年は同21.2%に縮小している。

 13年以降日本企業は設備投資として国内で実施する設備投資額の20%を上回る額を海外への直接投資として実行しており、国内での設備投資増加を抑制している姿が観察される。脱炭素の高まりから欧州へ進出する日本企業が出てきている。

 この動きは米国で10年以降知的投資を軸に国内で着実な拡大トレンドを継続する姿とは大きく異なる(前回レポート参照)。

〇 再び浮かび上がる米国より海外供給に依存する日本の姿

 図4は日米の総供給(国内総生産+輸入等)に対する国内総生産(実質GDP)の比率、すなわち総供給に占める国内生産の割合である。

日米GDP(対総供給構成比)[3158]

図4. 日米 : 国内生産(実質GDP)比率の推移(対総供給、%)

 推移を眺めると、日米共に総供給に占める国内総生産の割合が低下基調を示す中、97年のアジア金融・通貨危機以降、日本の国内総生産の割合が米国を上回る形で推移してきたが、14年、15年と米国を下回った。その後16年からは日米はほぼ同じ水準で低下してきたが、19年以降は日本の国内供給比率が米国を下回って推移してきている。

 総需要に占める国内総生産の割合が低下傾向を示しているということは、海外供給、すなわち輸入等の割合が継続して高まっているということを意味する。

 ましてや14年以降日本の比率が米国を下回るという現象は、先に眺めた日本の対外直接投資の継続的な増加によるものと考えられる。日本の対外直接投資により海外供給が増加し、垂直的にも水平的にも国内生産基盤の空洞化が顕在化し、国内での設備投資意欲を抑制しているという姿が浮かび上がる。

〇 経済構造の改革が無ければコロナ後も低迷

 このような経済構造の下で、19年に消費税率を更に引き上げ、その直後に新型コロナ・ウイルス感染拡大がパンデミック化したが、政府のコロナ・ウイルス対策、財政支援策は後手後手で、かつ不十分な結果、欧米諸国の回復にも遅れを取る結果となっている。

 コロナ・ウイルス感染の終息に全力を投じるのが第一であるが、同時にウイルス感染で浮かび上がった日本の経済構造を変革させる政策が必須である。日本の経済構造を変えなければ、欧米に対する日本の回復力の遅れは一時的なものではなく、長期的にみて格差拡大に結び付く。

 経済構造の実態については次回レポート以降お示ししていきたい。

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