【雑感】ブルーナ絵本展に行った話

2024年4月24日(水)~5月13日(月)
大丸ミュージアム<梅田>



ミッフィー(うさこちゃん)やボリス(ぼりす)でおなじみ、ディック・ブルーナ。
当時の絵本のトレンドだった写実主義とは逆行するようなシンプルな配色と抽象化されたキャラクターは、今やすっかり子どもに読み聞かせる絵本の定番として定着している。
また、そのシンプルな画風故に多くの媒体やグッズ、企業との親和性も高く、2年前のミッフィー×阪急をはじめ多くの企業でイメージキャラクターに起用されている。

日本でも当然人気が高く、毎年のように何らかの展示があるのだが、行くのは初めてである。
ミッフィーが好きというのもあるのだが、グラフィックデザイナーとしてのブルーナの仕事や考えを垣間見えるかと思い、行ってみる事にした。

全体の感想

会場が大丸ミュージアムなのでそこまで広くはなく、1時間もあれば全部見終えてしまう程度のボリューム。しかしながら展示としてはちょうど良く、仕事終わりに癒されに行こうという程度の気概でもしっかり楽しめる。
どうしても美術館に行こうと思うと2時間は滞在して、頭をフル回転させながら作品を見ようとするだけに、この「深く考えなくても楽しめる感」がちょうど良かった。

原画の筆跡を見ると一筆書きではなく、数cm程度の線を少しずつ書き足していた。それだけでなくペン入れ(清書)する時も筆の穂先をカットして専用のものにし、点を打つように筆を進めるというのも意外で、誰でも描けそうだがいざ書いてみると全くミッフィーにならないのも納得である。
特にアトリエで作業をするブルーナの動画は必見。

ストーリーにしても「必要なだけ言葉を入れ、それ以外は極限まで削る」という哲学が貫かれており、見開きの左に文章を数行程度、右に余白を大きめに取ったイラストという構図はどれも変わらない。
余白が大きいのも「読者に対して想像の余地を残す」という意図があるという。

意外だと思ったのは、オリジナル作品だけでなく白雪姫や赤ずきんといった童話のキャラクターも手掛けている事。リアルではないタッチなのでどことなく可愛さがあるが、それが本筋を邪魔しないという匙加減が絶妙である。

ブルーナのキャラクターや構成は一見シンプルで誰でも描けそうなのだが、それは言い換えれば普遍性と、汎用性があるという事でもある。
普遍性とは流行や時代を問わず「ダサさを感じない」、汎用性は「多少のアレンジでもアイデンティティが失われない」という事であり、企業コラボやイメージキャラクター、あらゆるグッズに起用されるのは当然の事でもある。これはIP(キャラクター)としては極めて優秀な性質を持っており、マリオやディズニーにも匹敵すると言って良い。
ただ、当然ながらシンプル=無駄がない=そこに何かを足しても引いても成立しない完全性を有するという事なので、当然ながらそこに到達するまでの過程は複雑で時間が掛かるのは当然なのだが、その片鱗を改めて知ったような気になった。
総じて可愛いもの好きだけでなくクリエイティブな面も知りたい方には満足度高い展示だったのでコレは良かった。

絵本スペース前の展示。
フライヤー等にも使われる、傘で空を飛ぶボリスが印象的。

絵本スペースが意外と良かった

展示の最後に絵本を自由に読めるスペースがあり一通りめくってみたのだが、意外と含蓄があるストーリーばかりで、確かに子どもに読み聞かせるにはぴったりである。
また、そのメッセージが「先入観や色で相手を判断するな」みたいな押しつけがましい教訓や道徳教育といった類ではなく、本1冊あたり10ページ程度しかないにもかかわらずサラリと書かれているのも驚異的で、絵と同様、ブルーナのシンプルに徹する哲学が貫かれている。
以下はその中でも特に気に入った本。

うさこちゃんとにーなちゃん

外国の文通友達(メラニー。茶色のうさぎ)がミッフィー家に遊びに来たが、その毛色を見ても異質な見方をせず、かといって気を遣って言及を避けるような事もなく、友達として普通に遊び普通に接する。

うさこちゃんとたれみみくん

ミッフィーの通う学校にダーンという転校生が来た。が、左耳が垂れており「たれみみくん」とあだ名される。心中では「たれみみくん」と呼ばれたくないと知ったミッフィーは名前で呼ぼうと提案する。

うさこちゃんと きゃらめる

ミッフィー、まさかの万引き!お店にあったキャラメルが気になるあまり、お母さんや店員の目を盗んでポケットに入れてしまうが、罪悪感で寝られなくなってしまった。ある意味ミッフィーの中でも異質な問題作。

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