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チェンバレンには散歩道

先日、母と箱根に行ってきた。

箱根は母と私の憧れの地だった。

なぜならあの箱根駅伝の開催地だったから。

20年ほど前か、まだ標高400メートルほどの山に住んでいた頃、なぜか初めて私は母と一緒にテレビでお正月に箱根駅伝を見た。神奈川大学が優勝した年だった。

それから二人でお正月に箱根で箱根駅伝を見れたらいいねというのが憧れだった。関西在住のせいか、周りの人に箱根駅伝の話をしても興味がないみたいで、その楽しみを分かち合えるのは母だけであり、箱根駅伝を見ながら過ごすのが母と私のお正月の楽しみだった。

母は関東の出身で小田原や遊行寺、小涌園など嬉しそうに地名を唱えながら、ここがどうだとかああだとか、思い出などを交えながら私に語りかけほとんど関西から出ることのなかった私にとっては、なんだか箱根が憧れの地のようになっていた。

由緒正しきホテルのソファ

それから10年ほど経った頃、家が倒産した。山の家をでて、町に降りてきた頃にはせっかくお正月を箱根で過ごせるようになったものの、先立つものもなく、相変わらず箱根駅伝はテレビで見るばかりだった。

それから15年後、私は嫌々続けてきた仕事を辞めることにし、なかなか行けなかった箱根に行くことにした。決めた当時病んでいたせいか、あれだけ憧れていたのにもう、スケジュールを立てる気にもなれず、とりあえずたった1泊の旅行を申し込んだ。旅館は当時から憧れていた富士屋ホテルにした。

まさにオープンカーという感じのする水色のオープンカー

当日、JRに遅延があり、内回りと外回りを迷っている間に3本も電車を逃し何とか間に合って新大阪から新幹線に乗って、小田原でバスに乗り換え旅館に着いた。

母は先に箱根ロープーウェイに乗って芦ノ湖に行こうかと言ったが、夕食時間が決まっており、時間的に間に合わないかもしれないからということで、直接、ホテルに向かった。ホテルはクラシックな趣があり、関西の私からするとなんだか、奈良ホテルが龍宮城風にデコられてるみたいに感じた。

龍宮城的

まだ時間があるので、ホテルの喫茶でアップルパイでも食べようかと母が言ったので、部屋を案内してくれたホテルの人にアップルパイについて訊ねると、アップルパイは結構ボリュームがあるから、今からだとディナーがきつくなってしまうかもしれたいとの事だったので、散歩することにした。

ディナーまで2時間、もらった宮ノ下マップの散歩道のモデルコースにちょうど2時間コースがあったのでそれを選んだ。

<アップダウンコース>歩きやすいクツで!と書いてあったが、そのことにすら気づかず、母と私は15時半にチェンバレンの散歩道へと足を向けた。(その後、このことを後悔することとなる。)

溪谷まさに石がゴロゴロ

コースの概要は、宮ノ下駅→デジャビュ坂入口→チェンバレンの散歩道→愛染明王→発電所→吊り橋→国道138→熊野神社→宮ノ下駅といった流れだ。宮ノ下駅や熊野神社を割愛し、愛染明王も記憶にない。78歳の母の足で、富士屋旅館発で、この散歩道には2時間20分くらいかかった。

道中、姥捨山に迷い込んだような心細さ、暗くなるまでに帰らないともう朝まで山から出られないんじゃないか?本当にここは散歩道なのか?誰もいない、道が道でない、気が気じゃない、でも引き返せない、道どんどん細くなる、心もどんどん細くなる、いつまでたっても、山・山・山、あれ、私、判断、甘・甘・甘。そんな山の道、チェンバレンには散歩道、へい、ほー、山の神、これじゃあまりにきつくないかい、いやこれぞ山の神、柏原くん、箱根駅伝、ナンバーワン(なぜかラップする)。

途中、廃墟があるなど、もうお化け屋敷みたいに怖しんどい1.5KMだった。無事、国道が見えた時の安堵感といったらもう・・・生きててよかった、はあ。

あとで調べた時、動画を上げている方がおられ

”@あざぶろぐ旅行散歩チャンネル”様が、”散歩道というよりは獣道”とはこれ如何にもという表現をされておられ、”人生は近くで見ると悲劇だが遠くから見ると喜劇である。Byチャップリン”を引用されておられるのもなんともセンス良く、もうグットボタンを10回押したい気持ちになった。

それくらい、チェンバレンの散歩道は”舐めたらあかん〜♪@天童よしみ”な散歩道である。皆様、十分な山登り装備でむかってください。ちなみにこの日の歩数計は10,521歩でした。

これは朝ご飯

そんなこんなで、ディナーを食べ、ホテルからハッピーバースデーの曲をオルゴールのピアノで祝ってもらい、温泉に入ると、母の右膝の出血に気づき、母に随分と無理をさせてしまった、と後悔した。

夜はやっと箱根に来られた思いで興奮してなかなか眠れなかった。色んなことを思い出した。山で過ごした頃のこと。倒産後、山から降りて過ごしたこと。

ロープーウェイからの景色

午前3時ごろ、震度3くらいの地震があった。震源地は神奈川県西部という。地球がズレを戻すように、私自身も何か自分のズレをググッと直す瞬間だったのかもしれない。

家業の倒産からの道のりはまるで堂ヶ島渓谷遊歩道(チェンバレンの散歩道)のようにアップダウンが激しかった。そして、やっと立ち止まることを自分に許せたのが15年目の今だった。

宮ノ下駅

宮ノ下 ふりさけみれば 箱根なる 渓谷深く 我が道思う

芦ノ湖

ご静聴ありがとうございました。






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