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チーズ工房を始めたきっかけの話

私は子供の頃、本を読むのが好きな子だった。

今のように、ネットで色々な記事を読める時代

ではなかったので、

学校の図書館で借りる本と少ないお小遣いで

買う本を読むのが、楽しみだった。

それでも、すぐに読む本は尽きてしまう。

そんな時は、酪農家である我が家に届く

酪農雑誌を読んでいた。

月刊誌が毎月3、4種類、届いた。

内容は乳牛の飼育方法など、

専門的な内容が多かった。

始めは内容が面白かったというよりは、

活字に餓えていたから、読んでいた。

当時はまだ6次産業化という言葉もない時代。

自家製アイスを作って販売する酪農家が

ぽつりぽつりと出てきた時代だった。

うちも両親が酪農家で朝から晩まで、

牛のお世話だけで精一杯。

なのに、自分のうちの牛乳を加工して、

小さなお店まで持っている。

その姿に憧れた。

野菜を作っている農家と違い、酪農家は

自分たちの生産した物が見えづらい。

野菜であれば、規格外の物を近所に配る

事もできるが、殺菌などの加工をする前

の生乳は容器などに詰めて、おすそ分け

するのは禁じられていた。

液体で生ものという特殊な性質の農産物

は衛生的な扱いが難しいのだ。

野菜であれば、少々痛んでいたら、そこ

を切り落とせばいい。

でも牛乳はそうはいかなかった。

両親の苦労を知っていたからこそ、

「うちの牛乳、飲んで。」

そう言って手渡せるような商品を作る事に

憧れた。

高校の進路を決めるときに、初めて自分の

将来について、真剣に考えるようになった。

その時に

「やっぱり自分の家の牛乳を商品にしたい。」

そういう想いがあった。

そこで、進学先を農業高校に決めた。

街を離れて、下宿しなければ、いけないが、

牛を飼いながら、牛乳を加工する農家になる。

そう決めた。

高校進学から夢のチーズ工房建設に至るまで

10年の月日が流れる事になるのですが、

10年後、あの時、憧れた酪農専門誌に

取材されるとは、当時の私はまだ知る由も

無いのでした。





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