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長女の流血事件簿②

お風呂タイムのルーティン

何かとお騒がせな長女の頭には、

縫い合わせた傷が2つある。

ひとつ目は前回の窓から落ちた事件。

もうひとつの事件は、実家に居る時に起きた。

その日、長女は私の母と

一緒にお風呂に入っていた。

長女がはしゃいでいる声がお風呂から聞こえる。

私は自分の手から離れておばあちゃんと

お風呂に入ることができるようになった

長女の成長をかみしめていた。

なんせ、小さな子供2人を

お風呂に入れるのは至難の業だ。

1人が湯舟に漬かっている間に、もう片方を洗う。

その間も、もう片方がおぼれないよう

目を光らせる。

頭にお湯をかけるときにシャンプーが

目に入るのを恐れる子供をなだめて、励まし、

無事に洗い流せたら、ほめる。

自分がシャンプーをしている間に

子供がおぼれてはいけない。

だから、自分はシャンプーしている間も決して、

目をつぶってはならない。

そして、お風呂から出たら、体が冷えないよう、

タオルで拭くのだが、手を離すと走り回る子供達。

体が濡れたまま、走り回られると、部屋中べちょべちょ。

タオルで子供たちを押さえつけるように包み、

素早く次々と拭き上げる。

気が付けば、自分は湯舟に漬かっていない。

冷え切った、自分の体を拭く。

もちろん髪を乾かす時間などない。

服を着たら、タオルを頭に巻いて、

子供たちのパジャマを持つ。

裸のまま走り回る子供たちを捕まえて、服を着せる。

これが毎晩のルーティンだった。

そして事件はおこった

なので、実家に泊まりに来ている時に、長女が

「おばあちゃんとお風呂に入る!」

と宣言してくれた。

そして、母も長女とお風呂を入る事を

了承してくれた。

これは、私にとって、とても嬉しい事だった。

次女と2人のお風呂。

少なくとも、今日は湯舟に漬かれるかもしれない!

そのささやかな夢はお風呂から聞こえる母の

叫び声で打ち砕かれることになる・・・。

「大変、助けて!!」

何事かと思い、お風呂場の戸を開けると、

頭から血を流す長女。

ショックのあまりに、声を出す事もなく、

ただただ悲惨な表情でこちらを見つめ、

手を伸ばしてくる。

パニックになる母。

母の説明によると、湯舟の縁に立った長女は

足を滑らせ、転倒。

お風呂場の窓枠に頭をぶつけたらしい。

おそらく母は自分がシャンプーをしている間に

目をつぶったのだろう。

たとえそれが数秒でも、

シャンプーが目に入っても、

決して目をつぶってはならない。

・・・そう忠告するのを忘れていた。

私は母に次女を託すと、長女に服を着せた。

そして、タオルで頭を抑え、車に乗せた。

そして再び事件はおこった

夜にケガをした長女を病院に運ぶのは

2回目とはいえ、私は相当動転していたようだ。

辺りは真っ暗だった。

自宅は別にあるとはいえ、職場である

チーズ工房は実家の牧場内にあるので、

敷地内は目をつぶっても運転できる。

・・・と思っていた。

車を出そうとバックをしたその瞬間、

タイヤが滑るのを感じた。

牧場内に幅3メートル、高さ1メートルの穴が

あって、車はそこに落ちてしまった。

もちろん穴があることは知っていた。

穴をよけてバックしたはずなのに。

とにかく穴にはまって、抜けられなくなった車。

しかし今は車に構っている場合ではない。

車は後でトラクターで引っ張ればよい。

私は長女を抱え、家に戻り、

母の車のカギを借りた。

病院へ

そしてようやく病院へたどり着くことができた。

そこには前回も長女の頭を縫ってくれた先生がいた。

色々あって、すっかり動転した私と放心状態の長女。

先生は今回も

「どれどれ・・・。」

慌てることなく、慣れた手つきでパチンパチン。

ホッチキスのような器具で傷を縫い合わせる。

「はい。出来上がり!」

まるで、ラーメン屋さんに行って、

ラーメンを頼み、

「はい!いっちょあがり!」

という時のようなテンションだ。

落ち着いた先生のおかげで、

落ち着きを取り戻した

私達は実家へと帰って行った。

子育ては常にスリリングで時々、サスペンス。

母は強くあらねば、と思う。

次の流血事件が起こる時には、病院の先生並みに

冷静沈着に行動できる強い女になりたいと思う。








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