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加護亜依様と1メートル

 日々、このnoteにしたためるネタ探し。今日は適当にカメラロールを眺めて見つけたこの日のことにしようと思う。

 かごあいぼんこと、加護亜依さんはわたしが小学生の頃、大人気だったモーニング娘。のメンバーである。友達はみんな辻ちゃんか加護ちゃんかどっちかが絶対に好きだった。ちなみにわたしはどちらかというと辻ちゃん派だった。わたしの住んでいる村のおばあちゃんが店番している小さな商店にすら、モーニング娘。のカード(黒い袋に入っているおそらくアンオフィのやつ)は売っていた。全財産をつぎ込んで親に怒られた。ミニモニ。のグッズはみんな持っていたし、わたしが人生で初めて買ってもらったCDはだんご三兄弟だけど、2番目はたしかミニモニ。とバカ殿のアイーン体操だった。

 そんなこんなでモーニング娘。はお茶の間でも、めちゃめちゃ人気でテレビで見ない日はなかったくらいだったけど、絶頂期も長くは続かず、卒業メンバーが増えるにつれて、だんだん人気も落ち着いてきた。加護ちゃんの喫煙ニュースが流れたのも、割ともうモーニング娘。の新曲が世間から注目されなくなった頃だったと記憶している。大好きだった加護ちゃんがテレビでバッシングされているのは悲しかったけど、そんなに気に留めることでもなかった。
 わたしが高校生くらいになって、久しぶりに昔のモーニング娘。の曲を聴いて、「ああ、加護ちゃんの歌声って特別すてきだな。」と思った。その時、すごい才能だったのに自ら棒に振るなんて、もったいない人だなと感じた。YouTubeでも昔のモーニング娘。のメンバーがバラエティで活躍している映像を見て、加護ちゃんの頭の回転の速さに驚いた。芸能人だ。喫煙、なんでばれたんだとまた悲しくなった。

 さて時は流れ、わたしが23歳くらいの頃。ツイッターだか何だかで、加護ちゃんが中洲のとあるクラブに営業に来ることが分かった。しかも見つけたその日だった。入場料はタダに近かった。わたしはなぜか行くしかないと思った。何年かに一度ある、普段怠惰すぎる女が物凄く行動力の高まる瞬間がこの時である。

 夜22時、初めてボディチェックのあるクラブに足を踏み入れた。そこは仲間と普段行くようなクラブではなくて、色々と面食らったことがあった。レーザーが四方から差し込み、ボウイもいる。しかも黒人だ。光る大きな棒を渡されたけど電池が切れたから適当に隠した。音楽もいわゆるパーリーピーポー系である。ベンチに座っていたら、女性の入場特典だからとフルーツの盛り合わせをもらった。けど、もちろんナンパなんてされていなかったのでひとりで食べた。ゴーゴーガールズがやたらにセクシーだ。超ナイスバディ。お金をビキニにねじ込む勇気はないし、そんな所持金もない。わたしは間違えたと思った。少なくとも一人で冷やかしがてら芸能人を見るために来るところではない。気づいたのは、入ってから2時間くらいたったころだったけど。しかも加護ちゃんの登場は3時とからしい。わたしはここで引き返すわけにもいかず、広いフロアの中央で耐えた。時々ロックダンスっぽいものをやってる中年のおじさんが絡んできたけど、わたしは無視した。変な外国人がわたしの耳元で今流れているEDMの歌詞をささやくなんてかわいい、だいぶ大きな声で口ずさんできた。わたしは無視した。段々と人が増えてきた。わたしは舞台の最前列の中央を死守した。何時からここで待っていると思うのだ。加護亜依様を誰よりも楽しみにしているのはこのわたしだ。酔っぱらったおじさんが舞台に上がり、黒人のボウイにつまみ出されていた。中洲川端はまだまだ奥が深い。

 そして、来たときはガラガラだったのに、フロアは超満員。わたしは好きじゃないけど、プリクラを撮るときに流れているようなアガル曲が爆音で流れ、会場のボルテージはMAXだ!そして、加護亜依は現れた。

 加護ちゃんは黄色のロンパースを着ていた。すぐ近くのふぐ料理やでさっきまで博多料理を満喫していたらしい。
「みんな~?元気~~??」イエ~~~~~イ!
「あいぼんのこと、好き~~??」イエ~~~~~イ!
「あいぼんもみんなのこと、好きとんとんとんとん(博多弁をしゃべってみました)」イエ~~~~~イ!
こんなセリフだった気がする。

 まず1曲目、名曲『I WISH』を歌ってくれた。加護ちゃんの、個性ともいえる透き通るような声質にこの曲はぴったりだ。その後、物凄い壮絶な道を歩むことになる12歳の少女の「人生って素晴らしい」。つい最近、ダブルユーが復活したときにこの曲のタイトルに「亜依 希美」にかけている説を知った。彼女の今までの波乱な人生が、この曲のように、いろんな人に出会っていろんなことを覚える道のりの一部分で、これからも「愛する人のために」「笑顔は大切にしたい」と思える、まだまだ始まりの部分だといいなと心から願う。わたしはこの曲が聴けただけで、22時から粘った買いがあったなと思った。

 そして、2曲目は名曲『LOVE マシーン』だ。こういうチャラ箱だから、「日本の未来は」(変なエコーをかけながら)WOW WOW WOW WOW
「世界がうらやむ」(変なエコーをかけながら)YEAH YEAH YEAH YEAH
などのDJ演出はお手の物である。誰もが知っている曲だから、会場のコール&レスポンスはすごい盛り上がりだ。不況だなんだと苦しい世の中で、わたしも必死に税金を払って生きているけど、未来を見据えて明るく生きようという力がみなぎる、そんな曲だ。あいぼんの歌声は力強く、そしてやはり才能がある。その才能を見出し、このような楽曲を作ったつんく♂さん、本当にありがとう。わたしはこの曲が聴けただけで、この箱の企画力に感謝しないとなと思った。

 最後の曲は『ザ☆ピ~ス』だった。カラオケで、最後の繰り返しは省略されることが多いものの、その省略部分こそ愛おしいのだ。何気ない日常を、若者言葉でチャラチャラ歌っているような感じだけど、毎日人と接する中で小さな喜びを感じ、やがて大きな感動を体験する、そしてそれは壮大なメッセージ・ピースが隠された名曲である。加護亜依さんは、今も吉澤ひとみさんや石川梨華さんとは交流はあるのだろうか。この日中洲で一番輝いていたのは間違いなく加護亜依だ。この会場の中で一番世の中の人を魅了したのも加護亜依だ。後ろを振り返ると昔からのファンらしき人が特攻服を着ていた。当時特注したのだろう。わたしはこの曲が聴けただけで、この才能を眠らせておくのはもったいないなと思った。

 そして20分足らずでのライブは終了した。最後に写真を撮ることになり、わたしはまたしても中央最前列で粘った甲斐あった。わたしと加護亜依様との距離は1メートル以内まで近づいた。嬉しかった。テレビで見ていたあこがれの人が本当にそこにいるんだから。
だけど、YouTubeで見る、モーニング娘。として歌うあなたは、わたしの1メートル以内にいていいような存在ではなくて。あなたが憎いと、喫煙をして喉を傷めてでも捨てたいと願ったその歌声は、今でも、今だからこそ、世の中の人に届けるべきものなんですよね。

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