ショートショート#13自由を手に入れた男
男は毎日とても忙しく働いていた。
朝9時に出社するとそのまま定時を過ぎ、夜の22時過ぎまで働いていた。
終電で家に帰ることもよくあった。
仕事にやりがいはあったし給料も良かったので、特に不満はなかったのだが、何となく自分の人生はこのままでいいのかな〜という気持ちがあった。
そんな時だった。
「ある本」と出会ったのは。。。
男は仕事帰りに本屋に立ち寄った。
すると1冊の本が目に入ってきた。
何やら”投資の本”であるらしかった。
すぐにスマホを取り出し本のレビューを調べてみたが軒並み評価は悪かった。
胡散臭いな〜とは思ったものの一応どんな本なのか知るために男は本を手に取って読んでみた。
本の内容は難しかったが、男には何やらこの本にピンとくるものがあったので買って帰ることにした。
男は生まれてこの方、株に興味を持ったことも、投資の経験があったわけでもないのに、なぜか自分にできるような気がしていた。
そして実際に男は株の取引で大成功するのだった。
この本を読んでも成功できる人はいないと言われていたのだが、彼には生まれつきの適性があったのか、みるみる資産を増やし、金持ちになっていた。
投資家として成功した男はもはや会社で働く必要性がまったくなかった。
なので男は会社を退職することにし、投資家としてやっていくことにした。
男はまず、車と家を買った。そしておいしい料理を食べ、世界遺産をみて回った。たくさんの女性とも付き合ったし、これ以上ないくらい楽しい経験をたくさんした。
男は世界トップレベルに人生を謳歌していた。
このまま一生楽しい人生が続くと思われた。
しかし、全て手に入れた男は飽きていた。
男は贅沢に数年で飽きてしまったのだ。
手に入りそうで入らないからこそ、人間という生き物は努力するのだろうな。誰かを羨んだり嫉妬したりするんだろうな。
そう思った。
男には目指す目標もなければ、羨んだり妬んだりする誰かもいなくなっていた。
ただただ膨大な時間だけがそこにはあった。
皮肉なもんだ。
以前は会社員で時間に追われて生活していたといのに、自由を手に入れたとたん今度は時間をもてあましているのだ。
時間という牢獄に閉じ込められていると言っても過言ではない。
男は子供の頃読んだ「火の鳥・未来編」を思い出していた。
未来編だけ異色の話だった。
多くが不老不死を求めて火の鳥の生き血を飲むことを目的とする話なのに未来編だけが不老不死になった男の話だったからだ。
不老不死になった男は結局どうなったんだっけな。
確か宇宙空間に1人でいて火の鳥だけと会話していたような記憶がある。
男はなんとなく自分と似ているような気がしていた。
*
数年後男は会社員として働いていた。
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