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タンゴとルールの話

書き手: Haruna

タンゴはルールが多くて面倒くさい??

六本木で開催されている「ルール?展」の物販で購入した「ルールリテラシー 共働のための技術」という本が面白かったので、その内容を参照しながらタンゴとミロンガ(タンゴのダンスパーティ)のルールについて考えてみた。


タンゴのルール

タンゴにはルールがある。

「二人が抱き合って踊る」とか、「一方がリードし、他方がフォローする」とか、「二人が身体でコネクションを取って一緒に動く」、、、等々。「タンゴというジャンルの音楽に合わせて踊る」というのもルールだ。

なぜルールを守る必要があるか、守らなければどうなるのか。

上述したような原則を守らない場合、それはもう「タンゴ」ではない。何か他の踊りか体操のようなもの、となってしまう。

これは、「サッカーではキーパー以外は手を使ってはならない」とか、「教師は授業をしなければならない」等と同様、【論理的帰結】と呼ばれるモノらしい。二人が抱き合わなければタンゴとは呼べない。ルールを守ること自体が「タンゴ」という踊りのカテゴリに結びついている。

と言っても「これがタンゴだ」というルールブックがあるわけではなく、スポーツでもないので、実は結構ハッキリしないことが多い。

実際にはポップミュージックでタンゴを踊る人もいれば、終始抱擁を解いた形で飛んで回るタンゴダンサーもいるので、「これこそタンゴだ!」と言えるものは人それぞれ。アルゼンチン人の気質なのかもしれないけれど、タンゴを踊る人は批判的というか、意見を述べたがる人が多い。「私は〇〇さんの踊りをタンゴとは認めない」とか「最近の若者はタンゴを踊れない」とか。

まぁとにかく、踊りというカテゴリの中で、ヒップホップでもクラシックバレエでもなく「タンゴ」と定義づけるに足るルールが存在するはずなのだ。


ミロンガのルール

一方、タンゴのダンスパーティ、「ミロンガ」と呼ばれる社交場のルールは非常に具体的。


『タンゴDJ』というウェブサイトから、ミロンガの約束事を書いた画像を拝借。https://www.tango-dj.at/

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各国語に訳されていたが、日本語版がなかったのでざっと翻訳。

・誰かを踊りに誘いたいときは①「見つめてアイコンタクトをとる」②「首をかしげる(スペイン語ではCabeceoと呼ぶ)」という手順が最も優雅です。
・ダンスフロアには円(トラック、スペイン語ではPistaという)があり、そのラインに沿って反時計回りに進みます。(フロアの混み具合によって、円は二重、三重になる)
・できるだけ、フロアの角から踊り始めましょう。近づいてくるダンサーと目を合わせて、自分が円に入りたいことを視線で伝えましょう。
・前を踊るダンサーと適度な距離を保ちましょう。後ろのダンサーの進行を妨げないよう、前にスペースが開いたら詰めましょう。
・基本的には前の人を追い抜かないこと。追い抜く必要がある場合には必ず左手側から追い抜きましょう。
・他の人とぶつかったら互いに謝りましょう。
・フロアの真ん中(角以外)から入らないように、また他のダンサーの脇から入らないようにしましょう。
・背面(進行方向と逆向)のスペースは、後ろにいるダンサーのものです。後ろに下がらないようにしましょう。
・空いているスペースに蛇行して入って行かないこと。他のダンサーに迷惑です。
・円のラインの間に入らない、ラインを途中で変更しない。(内側と外側を行き来してはいけない)
・前方のダンサーに近づきすぎない。
・前方のダンサーを右手側から追い抜かない。
・自分が踊らない時はフロアの端を歩きましょう。決してフロアを横切ってダンサーにぶつかってはいけません。
・混み合っている時は足を床から上げてはいけません。
・ダンススタイルやレベルに関わらず、その場の全てのダンサーに尊敬と思いやりを持ちましょう。

タンゴを知らない人やタンゴ以外のペアダンスを嗜む人にとっては「細かい」「面倒くさい」と思えるらしい。でもある程度タンゴを踊り、多少の指導を受けたことがあれば、「まぁ当たり前かな、そんなもんかな」と思える。それはミロンガの「目的」を多少なりとも理解しているから。


ルールはゲームの一部

上記の約束事は「これを守らなければミロンガではない」というような論理的帰結ではなく、「ゲームの一部としてのルール」だ。ここでいうゲームとは、広く「志向性」を備える活動を指す。

私は何が「ひとつの」ゲームなのかをはっきりさせるために、志向性という言葉を導入したい。志向性というのはゲームに参加する人々の行動を「方向付ける」性質のことだ。全てのゲームは志向性を備えている。例えばスポーツ競技やその他の競争的な性質を持つゲームの場合は、「勝利」を目指すことが参加者の行動を方向付けている。〜中略〜「寝る」というのもゲームとしての性質を持っている。というのは、私たちは眠る前に布団を敷いたり、照明を消したり、〜中略〜これらの準備は「よりよく眠る」という志向性に導かれている。 

佐藤裕『ルールリテラシー 共働のための技術」新曜社、2016年
(ISBN978-7885-1477-5)

ミロンガに参加する人は何を目指し求めているのか。おそらく、気持ちよく踊る、素敵なダンサーを探す、踊りたい相手に誘ってもらう、タンゴ音楽を聴きながら友人と乾杯して世間話をする、社交場の雰囲気を楽しむ、週末の夜に幸せな気分で1日を終える、、、、あたりだと思う。

上に書いたような「志向性」を理解すれば、細かいルールにも納得できる。実はダンスフロア以外でも、音楽の邪魔をするほどの大声で話さない、政治の話はしないというルールやドレスコードがある。

ルールがあるから楽しい?

志向性を理解していれば、ルールのアレンジはできる。混んでいないミロンガならばスペースをある程度自由に使えるし、固定のダンスパートナーとコンセンサスが取れていれば、アイコンタクトでなく直接言葉で誘う場合もある。

混んでいるミロンガでも涼しい顔をしてノリノリで踊れる人は素敵だし、フロアの対角からCabeceoが成立するとちょっと楽しい。

ミロンガという空間でちょっとした非日常を味わうために、参加者それぞれがルールを守りながら遊んでいるのだ。



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