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ミロンガへの憧憬~後編~

書き手:Haruna タンゴ愛好家が集う「ミロンガ」って何?どんな場所?どうやって楽しむの?後編ではミロンガ会場に入ってから踊るまでを未経験者や初心者向けに解説。

まずは受付

会場内にはテーブルやカウンターがあり、到着したらまず入場料を支払い記名する。最近は電子決済も増えてきた。東京都内のレギュラーミロンガの入場料相場は1,000~3,000円程度、営利目的かボランティア主催か、ダンサーデモや生演奏の有無、ドリンクの有無等で多少金額に差が出る。大会場を貸切ったイベントなどでは5,000円以上の場合もある。若者割引などもあるらしい。アルゼンチンタンゴの年齢層は広く、10代から80代まで参加するので、40代くらいまでは「若手」だとか。


ドレスアップ

日本のミロンガの多くはダンススタジオで開催されているので、更衣室がある。職場からミロンガへ直行するワーカホリックさんたちも、会場でタンゴ用の服(前編参照)に着替えることができる。

もちろん靴も、タンゴシューズに履き替える。女性用はサンダルタイプのハイヒールが主流。ヒール高さは6~10cm程度で靴底は革製(スムースレザーかスエード)だ。男性用はジャズダンスや社交ダンスシューズに似ていて、こちらも殆どの場合革製である。色も形も多様なので、シーンに合わせて何足も必要になる(練習用、ミロンガ用、コンペ用、パフォーマンス用、、、)。

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ちなみにタンゴの本場ブエノスアイレスの場合、ミロンガ会場はダンススタジオではなくダンスホール又はクラブのような場所で、更衣室は無い。ローマやソウルにも更衣室は無かった。多くの人がミロンガに出かける時間が22時以降、0時を過ぎてから盛り上がる会場も多いくらいで、当然仕事から直行という人はおらず、家からバッチリめかし込んで出かける。日本の労働生産性が改善すればナイトライフはもっと充実するのかしら。


踊りのルール

空いている席を見つけて座ったら、まずはフロアを見渡して参加者をチェック、踊りたい相手を探すのだ。

ミロンガには、男性が女性を誘うという基本ルールがあり、その誘い方も「カベセオ Cabeceo」と呼ばれる独特なもの。男性は踊りたい女性を見つめて目が合えば、頭(Cabeza)をフロアに向けて振り、女性は無言で頷く。男性優位的だが実はアイコンタクトから始まっているので、女性も踊りたい男性の方を見つめて踊りたくない男性からは目を逸らす。相手を選ぶ理由は様々。踊りの技術が高い、音楽をよく聴いている、服装や容姿が好み、なんとなく、などなど。

このカベセオというシステムが、タンゴをややこしくも面白くもしていると思う。私にとっても、「踊りたい男性に誘わせる」というのは数ある上達モチベーションのひとつだし、人気のある女性を目で追ってしまう。

フロアへ出たカップルは互いに抱き合い(アブラソAbrazoと呼ぶ)、反時計回りに進む。

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タンダとコルティナ

ミロンガのDJは、同じオーケストラの近い時代の曲を、4曲または3曲ずつ連続で流し、その曲群のことを「タンダ Tanda」と呼ぶ。タンダとタンダの間には、ジャズやロックなど他ジャンルの曲をかける。これはコルティナ(Cortina ”カーテン、幕”のこと)と呼ばれ、1タンダが終わった合図となり、フロアのカップルはアブラソを解いて各々の席へ戻る。そしてまた次のタンダが始まり、カベセオがフロアを飛び交う。

ちなみに、コルティナがかかっている時にはカベセオは行わない。必ずタンダが始まってから、曲を聞いてから誘う。実はミロンガには他にも細かいルールがたくさんあり、ここには書ききれないので今後少しずつ紹介していく。

ルールを面倒くさがらずに楽しめるかどうかが、タンゴライフを続ける上で結構重要だと最近感じている。


ミロンガへの憧憬とは何か

当マガジン「明日のタンゴ」の目的の一つは、タンゴの認知度をあげることなのだけれど、このルールだらけのミロンガの一体何が楽しいの?と聞かれそうだ。

ミロンガの楽しみ方は十人十色という前提で、私の個人的な感覚だけ伝えるとすれば、他人と抱き合って3分間(1曲の平均的な長さ)、全てを忘れて互いの感覚と音楽に集中できると、「ああ!もう一回!」と中毒的にハマっていく気がする。服装だのカベセオだのはそこに至るまでの準備運動だ。(誤解の無いよう補足するけれど、準備運動はめちゃめちゃ重要。)

一人で動く場合は自分の筋力や技術、その日の気分で踊り(出力)が決まるのだけれど、タンゴはペアダンスなので入力値が多い分、出力の予測が難しい。もちろん男性はリード・女性はフォローという関係があるので、熟練のリーダーと踊ってもらう場合は自分も良い踊りができて気分が良いのだけれど、それだけではない。音の拾い方や抱き合う強さ、呼吸の深さ、いろんな部分で「合う」とか「合わない」とか「自分とは違うけど面白い」とか、発見の連続だ。

ミロンガへの憧憬とは、その不確実性に対する怖いもの見たさ、憧れなのだと思う。予測不可能なので、もちろん全然うまくいかなくて気分悪く終わる夜もある。出力の振れ幅が大きいものにハマっていくというのはギャンブルと同じ?




ひとまず、ミロンガの概論は今回で終了。まだまだ書ききれなかった個人的なエピソードや細かいヘンテコルールについては今後各論として書いていく予定。


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