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タンゴ世界選手権インドネシア予選レポート

書き手:Haruna
8月上旬にバリで開催された、タンゴ世界選手権のインドネシア予選に参加してきました。気になる方もいると思うので少し報告。


選手権について

アルゼンチンタンゴ界では年に1度、8月か9月頃にブエノスアイレスでダンスの世界選手権が開催されます。例年5月頃から世界各地で予選会が行われ、アジア圏では長らく日本でのみ開催されていたようですが、近年は中国、韓国、マレーシアなど開催国が増えているようです。今回インドネシアは初開催。出場要件は、「18歳以上。カップルの2人ともがアジア・オセアニア国籍又は圏内に3年以上在住していること。ただし両方の国籍がアルゼンチン人の場合は不可」なので、日本人も他のアジア都市で出場可能です。

https://icptango.com/home/home/



出場ペア数

大会規模は、出場者数でいえば日本予選の半分に満たないくらい。ミロンガ(ダンスパーティ)も同時に開催されたので、選手権に出場しない方もいて、全体では200名くらい参加していた感触です。

以下、各部門の出場者数と優勝者の在住国(国籍ではない)です。

ピスタ部門(即興ダンス)
予選33組
準決勝21組
決勝12組
優勝 インドネシア

ステージ部門(振付ダンス)
予選11組
準決勝8組
決勝6組
優勝 日本

ワルツ部門(即興で、曲が全てワルツ)
予選19組
決勝8組
優勝 韓国

ミロンガ部門(即興で、曲が全てミロンガ、ズンチャカ系)
予選15組
決勝7組
優勝 韓国

ピスタセニョール部門(即興タンゴで、ペアの片方が50歳以上)
予選4組
決勝4組
優勝 フィリピン
※出場者が少なく、予選での選考がなくて参加者全員が2度踊りました。

シングル Jack & Jiill 部門 (一人ずつエントリーして、一人ずつ審査される、余興のような部門)
参加 男女30人弱ずつくらい??
Jack優勝 韓国
Jill優勝 シンガポール
予選無しの1発勝負で4曲踊り、特に点数なども公開されないカジュアルな遊びでしたが、筆者Harunaは3位をいただきました。トロフィーと副賞まで下さり、太っ腹。

ミロンガ中の余興的なコンペ


バリ風のバッグがお気に入り


本職インストラクターの熱き戦い

バリ大会の見どころはやはり、鎬を削る男性プロダンサー達。
インドネシアでは、プロのダンサー(主に男性)と契約し毎日のようにレッスンを受け、ミロンガに一緒に出掛け、コンペにも一緒に出場するという楽しみ方が割と一般的に広まっているようです。プロダンサーの多くはフィリピン出身ですが、南米出身ダンサーもちらほら。

バリ大会でも、雇い主である女性と男性プロダンサーという組み合わせが多く、非常にレベルの高い戦いでした。相手が違えば世界大会決勝に進出できるようなダンサーが、アマチュアと組んでも言い訳せずにきっちり踊る。女性の体重を支えながら自分のラインも完璧に守り、さらに女性を美しく踊らせる。自分の出番が終わって間近で見ていた私は、「こんなリーダーと踊ってみたいな」とか「女性が倒れそう!踏ん張れ!いけー!」と心の中で大興奮していました。雇われの身である彼らにとっては、コンペやミロンガでの働きぶりが今後の仕事にも影響するはず。世界トップクラスのダンサー同士が本気で戦うロンダを間近で見るのは本当に刺激的でした。

セニョール部門では、ペアの片方が50歳以上という条件があるので、年配の女性と男性プロの組み合わせになるのですが、全てを包み込むアブラッソとリードに感動しました。女性の軸を守り支えながらも、果敢にいろんなステップを織り交ぜていて、音楽性も豊か。常に女性を美しく見せていて、この実力に達するまでの修行を想像すると目頭が熱くなりました。


少しだけ撮った動画をアップしています。


コンペの結果

ピスタ・ステージ・ミロンガ・ワルツで優勝したペアは、それぞれ雇用関係でなくペアとして活動しているダンサー達です。生徒さんを華麗に踊らせるプロの技術は圧巻でしたが、やっぱり実力差が大きすぎずペアとして一体感のある踊りの方が「タンゴらしさ」を感じられる気がします。ペアで頑張れば、世界トップクラスのプロに勝てる時もある、というのは夢があります。もちろん逆も然り、資金力があれば優秀なパートナーを雇って結構良いところまでいけます。


インドネシア大会はこんな人におすすめ

もし来年以降もバリでコンペが開催されるなら、どんな人にお勧めできるか、私なりに考えた答えは2パターン。世界大会のシードをかけて優勝を狙う人と、バリ旅行を楽しみたい人です。

前者については、特にステージ部門で優勝を狙いやすいと思います。

アジア圏でステージタンゴが強いのはやはり日本。過去に17回東京大会が開催されている(2021年は国内大会だったので除く)中、15回は日本在住ペアが優勝しています。優勝者のほぼ全員がプロダンサーで、男性については日本在住のアルゼンチン人プロも複数名。

ところがバリは日本から遠く、渡航費も滞在日数もかかるため、プロダンサーカップルが日本から参加するのはなかなか難しいのかもしれません。旅費だけでなく、渡航期間は仕事を休むことになるので逸失利益が大きくなってしまいます。故に、東京大会に比べればステージの競合は少なくなります。(今更ですが、プロダンサーとはダンススキルによって金銭を受け取る人のことを指しています)

一方ピスタ部門の東京大会は、2016年以降日本在住ペアが優勝していません(2021年の国内大会を除く)。アジア圏で強いのは韓国で、東京大会へ出場するペアも毎年多いのですが、バリ大会では2~3ペアしか見かけませんでした。中国・香港・台湾にも良いダンサーがたくさんいますが、今回は渡航制限により国際大会には出場できず。今年の様子だけ見ると、韓国・日本から遠いバリ大会は、出場者が少なくチャンスがあるようにも見えますが、来年以降は中国勢も参加する可能性があるのでなんともいえません。ピスタ部門はステージに比べプロアマの境目が色んな意味で曖昧なので、プロの参加が少ない云々の話は避けておきます。

いやいや、優勝なんか狙えない、ただタンゴを楽しみたいだけ。という方はバリ観光の準備もしておくべし。コンペやミロンガが開催されるホテルはプール付きのリゾートホテルで、移動も少なくて楽ですし、空いた時間にはビーチに出かけたり、日帰りツアーを予約して観光を楽しめます。連日徹夜で踊るタンゴマラソンや、豪華ダンサーがワークショップをするタンゴフェスティバルなどと違い、バリ大会のミロンガはゴリゴリに踊り明かす雰囲気ではないです。飲みながら世間話をしてゆったり過ごし、早めの時間に終わるので、翌朝は観光の時間を十分とれると思います。


離島に連れて行ってもらいました。海が綺麗。


インドネシアタンゴ

アルゼンチンタンゴは今や世界中に広まっているのですが、それぞれの国や地域で独特の育ち方をしています。例えば日本は封建的な「習い事」文化の中、師弟関係が強いので、ソーシャルダンスであるタンゴにおいても所謂お教室的な雰囲気が強く感じられます。レッスンをとって、先生に習って…という真面目な文化。その流れで発表会なども人気ですし、ステージタンゴが育つ土壌があるともいえます。

一方で、ペアダンスやダンスパーティそのものが身近な欧州や南北アメリカでは、「社交」そのものが目的なのでパーティを楽しむことが優先、技術を磨くかどうかは本人の自由。コンペの存在を知らない人も多いかも。

インドネシアのタンゴはどうでしょう。今回バリしか行っていないので、ジャカルタ他都市圏のタンゴ事情はまだわかりませんが、国民の経済格差が大きい国で、タンゴを趣味で踊る人はかなり上位層。今回のイベント主催者もホテルオーナーで、プロモーションにもかなり力が入っていました。富裕層のタンゴ愛好家がプロダンサーを招聘し、踊り場自体を支えているので、本気でタンゴを深めたい人のための環境は整っているといえそうです。今後も華やかなイベントが開催され盛り上がりそうです。

あとがき

2020年以降縮小されていたタンゴの国際イベントが、やっと復活してきました。来年はコンペ参加者もぐっと増えるのではないでしょうか?日本国内でも公式アジア選手権の他に、気軽に参加できるミニコンペが増えています。タンゴはスポーツではないけれど、タンゴを踊る人が集まり、他人の踊りを見たり競いあったり評論したり、そういう場が増えているのは楽しいことだと思います。

筆者Harunaは10月29日と30日に開催されるMuy Tango Cupに、細やかながら協賛しています。Jack & Jill形式のみなので、パートナーがいなくても出場できます。


オルケスタ Juan D'arienzoの曲のみで戦うダリエンソカップは、複数回の予選が開催されるので、まだまだ出場チャンスがあります。


11月には久々の東京タンゴフェスティバル。こちらもJack & Jillの大会があるようです。今年はたくさんチャンピオンが出ますね。

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