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「趣味:タンゴ」を解説 その3

書き手:Haruna

「趣味はタンゴです」と言って相手をポカンとさせた人、ポカンとした人、タンゴを始めたばかりの人、その他もの好きさんのための解説シリーズ第三弾。今回のテーマは海外遠征。書き手Harunaの経験談を交えつつ、タンゴを求めて海を渡る愛好家の実態を解説します。

旅行鞄にはシューズを忘れずに

タンゴ愛好家のスーツケースには必ずタンゴシューズが入っています(断言)。ミロンガ=タンゴのダンスパーティはそこそこの規模の都市であれば必ず開催されているので、必ずシューズを忍ばせて出かけるのがタンゴ愛好家の常識です。ミロンガを目的に旅行する場合もあれば、出張の隙を見つけて夜は踊りに出かけるサラリーマンの姿も見られます。

旅のついでに、ローカルミロンガ

もっとも気軽に参加できるのがローカルミロンガ、各地で開かれている、いわゆる普通のミロンガです。余程の田舎でなければ必ずミロンガがあるので、そこへ出かけて地元のタンゴ愛好家と知り合えます。私自身は一人旅が好きで海外にもよく行きますが、タンゴを始めるまでは夜の時間を持て余していました。女性一人で外へ出かけるのが難しい場合が多く、相部屋の旅行者と飲みに出かけても、結局一度きりの付き合いで会話の内容もマンネリ化し飽きてしまうことが多いのです。その点、ローカルミロンガはとにかく一人で飛び込めば踊りながら会話も楽しめて、運が良ければグループで食事に出かけたり、親切な人は観光案内してくれたり、一人旅がグッと充実します。

海外のローカルミロンガで私が気に入っているのは、ソウル、香港、ローマの3都市です。日本のミロンガが大体夜の8時頃から始まり終電に合わせて終わるのに対し、海外では特に週末なら10時開始で0時過ぎから盛り上がり3〜4時まで踊れることが多いのが魅力です。タクシー代が安い、ボランティアスタッフだから人件費が安い、参加者の年齢層が低い、タンゴに限らず夜遊びの習慣が根付いている、など、様々な要因がありそうです。

特にソウルのミロンガはアジア圏で非常に人気が高く、私もよく訪れます。昼間は街で買い物、現地のタンゴ仲間と軽く夕飯を食べてから深夜にミロンガへ出かけ踊り明かし朝5時に食べる韓国焼肉が大好きです。そして翌日はまた昼まで眠る・・・。日本から近いこともあり、ソウルや香港へはタンゴ(と食)を目的にふらりと3泊ほどの短期で出かけたりします。

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盛り上がるミロンガ@ソウル


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からの肉ぅ!


ヨーロッパの中では圧倒的にイタリアのタンゴ人口が多いように感じます。但し私はロンドン、ベルリン、パリなど大都市のミロンガを経験していないので定かではありません。アルゼンチンにはイタリア移民が多く言葉もイタリア訛りのスペイン語なので、親和性が高いのでしょうか。お気に入りのローマ以外にミラノ、フィレンツェ、トリノでもローカルミロンガに参加しました。

アジア圏のミロンガが繁華街で行われるのに対し、イタリアでは街の中心から少し離れた場所で開催する傾向があります。どうやら、フロアの広さや天井の高さなど会場の美しさの方が、アクセスの利便性よりも重要視されるようで、多くの人は自家用車で郊外のミロンガへ出かけています(欧州は飲酒運転に対する意識も非常に緩い)。ローマでは住所を調べてバスで現地へ向かい、ミロンガで友達を作って帰りは同じ方面の人に送ってもらうことになりました。旅先でお世話になった分は、地元に帰って旅行者をもてなすことでお返しをする、という慣習がタンゴ界には根付いています。

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ローマ郊外のミロンガ、倉庫をリノベしたような建物で、天井が高い。


タンゴのお祭り、タンゴフェスティバル

いつから始まったのかわかりませんが、世界中の都市でタンゴフェスティバルというイベントが開催されています。週末を挟みながら3〜5日ほど、ホテルの宴会場など広い場所を借り切って、トップダンサーを招待し、昼間はワークショップ(タンゴレッスン)、夜はミロンガを開催します。ミロンガでは招聘ダンサーのエキシビションも行われ夜中まで盛り上がり、さらに朝まで「アフターミロンガ」なるものも開かれます。あらゆる都市で開催されるので、人気の高いダンサーは一年中世界を飛び回っています。

私も数々のフェスティバルに参加しました。ある時はダンサーのレッスン目当て、またある時は観光を兼ねて。個人的に最も楽しかったのはイタリアのジェノヴァです。イタリアは基本的に北半分(ローマ、ミラノ、フィレンツェなど)が裕福で先進的、南半分(ナポリ、シチリアなど)は所得が低く土着的で保守的だと言われています。ジェノヴァは北イタリアにありながらも南イタリア的な「いかにも」な暑苦しいイタリアらしさが程よく残っていて、さらに港町なので海鮮料理が絶品なのです。また食べ物の話、、、。そしてミロンガ会場がどえらい宮殿でした。

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ドゥカーレ宮殿。
フェスティバルのため特別に借りているので、地元民が毎晩ここで踊っているわけではありませんが、この迫力、間違いなく私の経験上最も壮麗なミロンガ会場でした。やはりイタリア人は空間重視。

他にも、私は未経験ですがメキシコのカンクンやクロアチアのザグレブのフェスティバルも人気が高いようです。街の景色が良い、広い会場がある、ビーチが近いなど、何か強みがあればどんな街でもフェスティバル開催可能ではないかと思います。もちろん主催者の力が重要ですが、フェスティバル自体が結構良い観光資源になりそうです。タンゴフェスティバルで地域活性できるんじゃないの?

タンゴ馬鹿のオフ会、タンゴマラソン

タンゴマラソンはフェスティバルよりも更に玄人向き。フェスティバルでは人気ダンサーが招聘されワークショップが開催されるので、初心者から上級者まで幅広く楽しむことができます。一方タンゴマラソンでは基本的にワークショップもエキシビジョンも無く、世界中の「タンゴ馬鹿」がただひたすら昼も夜もミロンガを楽しむ場です。それゆえ、すでにミロンガである程度踊れるレベルで、そこそこの人気者=一緒に踊りたいと思われる存在になっていないと、楽しむのは難しいかもしれません。もちろんイベント毎のカラーはありますが、場合によっては公開告知を行わない招待制(クローズ)のマラソンも開催されています。

マラソンでは大体午後2時頃から朝の6時頃まで、DJを入れ替えながら長時間のミロンガが開催され、来場者は適宜グループで食事に出かけつつミロンガ会場に出入りします。タンゴマラソンファンは各地を行き来するので、すぐに互いに顔見知りになります。それでも他の国に住む者同士、年に数回のイベントで顔を合わせるのとやっぱり毎回新鮮で楽しいものです。

私は香港、北京、ソウル、東京のマラソンへ行ったことがありますが、フェスティバルやローカルミロンガよりも参加者のダンスレベルが高いと感じました。私が行った年は北京のレベルが最も高かったように思います。ちなみにミロンガのダンスレベルという観点では、東アジアが随一だと思っています。次点がトルコのイスタンブルかな。これは完全に私の主観ですし、ここ2年ほど情報をアップデートしていないので、異論はぜひコメント欄に記載願います。

世界とつながるタンゴ

今回はタンゴの海外遠征について、ローカルミロンガ・フェスティバル・マラソンを解説しました。お気づきの通り、タンゴを踊れば世界中に友達ができます。海外に行けなくても、日本への旅行客と仲良くなることもできます。アジアでタンゴを踊っていて実感しますが、日本・韓国・中国でタンゴを踊る人は高確率で英語を話せます。もちろん会話レベルは様々ですが、特に北京などはミロンガ会場から一歩外に出ると全く英語が通じないので、その落差に驚きます。タンゴを踊る人の生活水準や学歴が比較的高いとも言えますが、タンゴを始めてから英語を話すようになったという知人も多くいることを鑑みると、タンゴは語学習得にも繋がると言えます。

ペアダンスであるタンゴ自体が一つの言語でもありますが。

以上、タンゴを踊ると世界が広がり、既に広がっているならタンゴによって深められるよ、というお話でした。


「趣味:タンゴ」を解説 シリーズはこれで一旦完結、今後もミロンガの実態やタンゴ愛好家のライフワークバランス等、「入門知識」を公開していく予定なので乞うご期待!

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