フェンダー・スチール・サウンド
エレクトリックギターのパーツには金属が沢山使われている。
鋼(はがね)と真鍮(しんちゅう)は、楽器によく使われる金属の代表格で、ステンレスやアルミに比べて安いので、様々なメッキと組み合わせてよく使用される。
英語で鋼はスチール、真鍮はブラスだ。スチールには磁石が付くが、ブラスは磁石に反応しない。
スチールの音、ブラスの音
RetroTonePickupsでは長年ジャズマスター用のブラスサドルを販売してきた。弦落ちを防ぐ機能性に加え、ブラスの持つ暖かいサウンドを得られるのが魅力だ。
また、2018年の秋には新しくスチールサドルの販売を始めた。巷に溢れるブラスにメッキしただけの「スチール"風"サドル」に疑問が湧いたので、ブラスサドルと全く同じ寸法でスチールサドルを作り、好みに応じて変更したり組み合わせたりできるようにしたのだ。
僕はスチールサドルをかなり気に入ってしまった。何より音が早い。弾いた瞬間に音が飛んでいく感覚があり、カラッとしている。それでいて少しザラついたニュアンスもあるので、つまらない音にはならない。
ブラスはもっと上品で紳士的な音だ。中域に暖かみがあり奥行きがある。アコースティックギターのイメージと重ねるなら、スチールがギブソンでブラスがマーチンといった音がする。
テレキャスターのブリッジ素材
スチールの音とブラスの音で盛り上がるのがテレキャスターだ。
テレキャスターと言えば近年ではブラスサドルのイメージが強いが、実際にオールド・フェンダーで採用されていた期間は短い。
フェンダーは1950年にエスクワイヤーを発表し、数ヶ月ほどスチールサドルを使った後、同じサイズのブラスサドルに切り替えている。
そしてストラトキャスターの登場する1954年の後期にサドルの素材をスチールに再び変更してしまう。
その後いくつかの仕様変更があるが、以降1968年にステンレスに変えるまで、テレキャスターのサドル素材は一貫してスチールだ。
ジャズマスターのブリッジ素材
オリジナルのジャズマスター、ジャガー、ムスタングのブリッジ素材はスチール製だが、今のリイシューはプラスに銀色のメッキをしたものだ。
スチールサウンド
フェンダーは錆の発生を抑えるためにスチールサドルにニッケルメッキを施していたので、ブラスからスチールへの切り替えはむしろコスト高だったのではないかと思うが、一時的にブラスの値段が高騰したとか、そういった時代背景があったのかもしれない。ただなんとなく、1954年にサドル素材を切り替え、その後ずっとスチールとステンレスを採用し続けたのは、経済合理性ではなく、何らかの問題への対応や改善であった可能性が高いと思う。
もしかしたはテレキャスと同じブラスサドルを使い回していたプレシジョンベースの改善を狙ったものだったかもしれないし、マーケティング上、ストラトキャスターの登場とタイミングを合わせてテレキャスターにも何らかの仕様変更が必要だったのかもしれない。
いずれにせよ、フェンダーはこのタイミングでブラスからスチールに移行し、後年登場するジャズマスターやムスタングのサドルもこれを踏襲していくことになる。
もちろんストラトキャスターのプレスサドルも素材はスチールである。1954年を境に、フェンダー・ギターはスチール・サウンドになったのだ。
ステンレスの使用
後期のテレキャスターにステンレス製のサドルが使われたことは有名だが、実は初期のフェンダーギターにも一部のネジにステンレスが使われている。
所有する’62ジャズマスターではサドル、オクターブネジ、スプリングはスチール系だが、サドルの高さ調節ネジはステンレスが採用されており、おそらくこの時期のストラトキャスターの高さ調節ネジも同じはずだ。
ステンレスとスチールを見分ける最も手軽な方法は磁石にくっつけること。また、大抵の場合ステンレスにはメッキをしないので、メッキの有無でも見分けることが可能だ。
いずれにせよ、ブラス、スチール、ステンレスでの音の違いはかなり大きい。サドルであれば、エフェクトペダルを一台買うお金で3種類とも試せてしまったりするので、この記事を読んでくれた皆さんには、沼というよりプールに入るぐらいの気持ちで踏み込んで欲しい。
思ったより深いかもしれないが。
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