ネックアングルの調整
ジャズマスターを始めとした60年代のフェンダーギターのほとんどのモデルで、ネックはボディー面と並行ではなく若干の角度が付くように調整されています。特にフローティング・トレモロという新たなトレモロユニットを導入する上で、ジャズマスターのネックに角度を付けるのは必須事項であったに違いありません。ネックの仕込み角をつけないとどうなるかはネックポケットにシムを挟んでいないFender Japan製のジャズマスターやジャガーを弾いてみれば分かるでしょう。良く調整されたギターもありますが、多くのギターでブリッジ位置が下がり、テンション不足による弦落ち症状、不要な共振やバズが発生します。
このエントリーではジャズマスターのネックに何故仕込み角が必要なのか、フェンダーの設計思想とメリット・デメリットについて記載しています。後半は有料コンテンツです。
シムの採用
フェンダーの設計では、ボディやネックに何か特殊な加工を施すということではなく、ネックポケットにシムをセットするという方法でネック角の設定が簡易に実現されています。ジャズマスターには58年の登場以来一貫してシムがセットされてきました。
ジャズマスターの登場時は厚紙を切ったシムがネックポケットの真ん中にセットされ、60年代初期にはボディー側に移動、60年代後期にはバルカン・ファイバー製のシムとなります。
こういったネック角の調整は70年代にはマイクロティルト機構として本格的に角度調節可能なギミックが登場するまで、ネックポケットのシムの厚さや枚数でギターの組み込み時に調整されていました。
重要なのは、一般的にシムは現物合わせで「仕方なく使うもの」と認知されていますが、ジャズマスターに関して言えば「レオフェンダーの設計の一つ」であり「ジャズマスターに必須な部品」であったということです。
ギブソンがチューン・O・マチックを使うことができるのはネック角がついており背の高いブリッジを利用可能だからで、カーブド・トップを廃したSGでもネック角は踏襲されています。
フェンダーもトレモロ等の新しい仕組みを導入するためにブリッジ位置を高くセッティングしたいと考えており、60年代以降はストラトキャスターを含むほとんどのギターでネックポケットにシムがセットされています。
ジャズギターのネック仕込み角
ES-335
リリース初年度の58年は浅い仕込み角だったようですが、59年以降は4度が採用されています。
レスポール
年代によって採用されているブリッジが異なり、これに対応する形で異なる仕込み角が採用されています。
52年:1度
53年〜54年:3度〜4度
56年:4度
60年以降:4.5度〜5度
68年:6度
現行品:4度
フローティングトレモロ・ブリッジとネック角
設計思想
フェンダーがネック角を調整することにこだわったのは、ストラトキャスター以降のギターではブリッジの構造が複雑化し、ブリッジやサドルの能力を最大限活かすためにはブリッジ位置での弦高を上げる必要性が出てきたためです。
ボディに対して角度のついたネックであればブリッジ位置で弦とボディの距離を離すことができ、背の高い複雑な構造のブリッジやサドルを使うことができるようになります。
ジャズマスターのブリッジはトレモロの動きに合わせて前後に動く機構を持っていますが、ブリッジ自体が低くなり過ぎると前後のスライド幅がなくなり、その機構を十分に活かせません。
弦落ちとの関係
Fender USA製のジャズマスターは現行モデルもビンテージもネックポケットには必ずシムがセットされており、ブリッジがFender Japanに比べて高くセッティングされています。シムを入れてネックに角度をつけたものの方がブリッジにかかるテンションが増すため、サウンドははっきりとした輪郭のあるものになりますし、「弦落ち」と呼ばれる問題事象の発生率を下げます。
Fender USAでほとんど発生しないこの現象が、Fender Japanユーザーで欠陥としてよく話題になるのは、シムの有無の影響もあるのです。
シムの影響
シムを挟むとネックポケットの密着性が失われ、鳴りやサスティンが損なわれるという話もありますが、私は個人的にシムを挟んで角度をつけることによるメリットの方が大きいと感じています。
もしシムを挟むのがどうしても嫌な場合はネックポケット自体を削り込んで角度をつけることでブリッジ位置での弦高を確保する方法もありますが、シムを挟んだ方が厚みの調整も自在な上、元に戻したければ取り外すだけという簡便さがあります。
シムの素材
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