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さくらみこのクールなお礼参り

 さくらみこ(敬称略・以下同)のどういうところが好きか。「コイツかしこ(賢い)やんけ」と簡単に見切らせてくれないところだ。

 バーチャルユーチューバー(vtuber)は馬鹿には務まらない職業だ。だから、vtuber業で結果を出している以上、さくらみこの頭脳は聡明にきまってる。

 さくらみこの頭脳は聡明にきまっているが、vtuberは、「こいつめちゃめちゃかしこやんけ」と思われてしまったら人心が離れていくリスクがある職業だ。視聴者の大多数は、じっさいそんなに聡明じゃないのだし、「人気者をちょっと下にみることで安心したい」心理もある。「コイツ……オレより百倍強い!」と感じてしまったら推しにくくなる心理は誰しも多少なり心当たりがあるだろう。

 だから多くのvtuberは、「ポン」(あんぽんたんの略)と「かしこ」の中間にある細いはざまの部分を、綱渡りみたいに渡っていくプレイをする。

 ところが、ときどき私のような性格の悪い人間がいて、ちょっとしたことを取り上げて「コイツ、めちゃめちゃ頭良いやんけ」みたいなことを言い出すから営業妨害もいいところなわけです。いつかカチこまれても文句はいえないですね。さてさてそれをふまえて「お礼参り」の話を……。

■「お礼参り」の意味

 その話というのはこうです。マインクラフトで、またもや事故って全ロス(希少なものも含め、所持アイテムを全部失うこと)したみこち。それを不憫に思った不知火フレアが、お見舞いと称して、みこちの家にレアアイテムをそっと置いていった。
 それに気づいたみこちは、感謝の気持ちでいっぱいになり、「お礼参りにいかなきゃね」と言った。

 するとここでリスナーコメントから物言いが入る。「お礼参りって復讐の意味だよ」。みこち驚いて、「ええ!? お礼参りって使わない方がいい言葉なの!?」

(該当部分から再生されます)

 さて、「御礼参り」の第一義は「神仏にかけた願(がん)の成就した礼に参詣すること」(広辞苑)です。

 もっとくだいていえば、「いいことがあったから感謝の念を示しに行く」のがお礼参りですから、本来の意味で言うなら、さくらみこの認識のほうが正しい。

 第二義の「釈放されたやくざ・不良などが、自分の悪事を告発した人に仕返しをすること」は、第一義から派生したアイロニカルな用法です。

 たとえばヤカラもんや不良が安いドラマなんかでよくいう「うちのモンをかわいがってくれたようじゃぁねぇか」みたいなすごみ方がありますよね。
 この「かわいがる」は別に「よしよしと頭を撫でてお菓子をくれた」とかではないわけです。その逆で、「痛めつけたりひどいことをした」という意味なわけです。

 つまりは、「ものすごく悪いことを、ものすごく良い言葉で言い換えると、ひねりが加わってスゴミが増す」という言葉のテクニックがあって、「お礼参り」というのはまさにそれである、ということなんです。

 ところが現代では、「神社仏閣に願をかけて、それがかなったらお礼のお参りをする」という慣習がうすらいでしまいました。その結果、第一義をすっとばして第二義から「お礼参り」という言葉を知る人が大多数になったということなんでしょうね。それだから「お礼参りは良くない言葉です」というつっこみがコメントで飛び交うことになってしまったのでしょう。

■この切れ味は天然なのか?

 でも、私が言いたいのは、「第二義を知らないさくらみこはポンだ」ということではないし、ましてや、「第一義を知らないリスナーはポンだ」なんてことでもありません。
(切り抜き動画等では、「みこちのほうが正しいのに、どや顔で間違いを指摘しているヤカラ草」みたいなコメントが散見されますが、どうでもよいことだ)

 そんなことより私がここで言いたいことはふたつあります。
 そのひとつは、

「さくら神社のエリート巫女であるというキャラクターのさくらみこが、《御礼参り》の意味を第一義でしか知らないのはめちゃめちゃクールだな」

 もっとくだいていうと、「すげえかっこいいじゃんこれー」と思ったのです。

 さくらみこは生え抜きの巫女であるから、「お礼参り」といえば、「神様にお礼をいいにくる」という本来の意味で当然認識している。
 そして、第二義の「復讐」の意味を知らないことにより、「第一義で認識している」ということがグッときわだつ。

 キャラクターのディテールとして百点だと思います。何度頭の中で反芻しても、「グッとくるねぇ……」という感想がでてくる。

 もうひとつは、

「これ、さくらみこが意図してそういうキャラクターを演じているのか、それとも本当に第二の意味を知らなかったのか、全然判断がつかない……」

 これが冒頭の話につながる。さくらみこは、ポンなのかかしこなのか、簡単には見切らせてくれない。
 意図的に「ひとつめの意味しか知らない」ように振る舞って、リスナーコメントから二つ目の意味のツッコミを誘発したようにも見えるし、本当に天然で、たまたまひとつめの意味しか知らなかったようにも見える。
(さくらみこはやってることがヤクザっぽいので、第二の意味で言ってたとしても全然通用するところが、また憎いよなぁ)

 それを「見切らせない巧妙さ」というふうに言うことも可能なんだけれど、
「その巧妙さって、意図したもの? それとも天然?」
 と考え込んでしまって、どうどうめぐりになる。

 この人は私には、人間のかたちをしたミステリーにみえる。この人の謎を解きたい、と思わされてしまう。どれだけ配信を見ても、「ああこの人はこういう感じね」という握った感覚がこないから、ずっと見てしまう。
 一般的には「ハマッた」と表現されるあの状態です。

 さて、このへんでまとめを書かないといけないのですが、どうしようか。こんなのはどうでしょう。

「ホロライブの中で、《vtuberをやるために生まれてきたような女》を一人挙げるとしたら、それはさくらみこだ」


#ホロライブ #vtuber #vtuber考察 #さくらみこ

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