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恒星の進化と最期の姿

夜空で輝きを放っている天体の多くは,中心部での核融合反応によって自ら輝いている恒星です.特に,中心部において水素をヘリウムへと変える核融合反応を起こして輝いている恒星を主系列星と呼びます.

https://unsplash.com/photos/Jztmx9yqjBw

恒星の一生は人の一生と比べるときわめて長いため,主系列星として安定した姿を見せる恒星はいつまでも輝き続けるように思われます.しかし実際は,核融合反応の燃料には限りがあるため恒星にも寿命があり,やがて主系列段階を離れて進化していきます.詳しい研究から,その進化の過程は恒星の質量に依存していて,最期に白色矮星や中性子星,ブラックホールといった,いわゆる極限天体を残すことが知られています.

今回はこの宇宙に色鮮やかな輝きを放つ天体である恒星の進化について紹介していきます.

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質量が太陽程度の恒星の場合

現在の太陽は主系列段階にあり,中心部で陽子-陽子連鎖反応(ppチェイン)と呼ばれる水素の核融合反応を起こしています.この反応では,水素原子核の質量の約0.7%が,質量とエネルギーの等価性によってエネルギーとして放出されていて,それにより太陽表面からの放射はまかなわれています.太陽の年齢は約46億年と推定されていて,主系列星として存在できる期間の半分程度を過ぎた段階と考えられています.

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やがて太陽の中心部で核融合反応を起こすための水素が少なくなる頃には,中心部にはヘリウムの核が生じ,水素の核融合反応はそのヘリウム核の周囲で起こるようになります.このとき,ヘリウム核ではヘリウムの核融合反応が起こるほどには温度が高くありません.一方でヘリウム核の周囲で起こる水素の核融合反応によってヘリウム核の質量は増加するため,ヘリウム核は自身の重力によって少しずつ収縮していきます.

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ヘリウム核の収縮によって周囲の水素燃焼殻の温度が上昇するため,水素の核融合反応は激しくなります.するとそれにより太陽の外層は外側へと押されて膨らんでいき,表面の温度は下がり,赤い色を示すようになります.このような段階にある天体を一般に赤色巨星と呼びます.

https://www.eso.org/public/usa/images/eso0729a/?lang

重力収縮によってヘリウム核の温度が10の8乗ケルビンを超えてくると,3つのヘリウムから炭素が生じる核融合反応であるトリプルアルファ反応が起こるようになります.中心核での核融合反応により,また少しの間だけ安定な状態を迎えます.トリプルアルファ反応で生じた炭素の一部はさらにヘリウム原子核と核融合反応して酸素を生じます.

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やがて中心部においてヘリウムも少なくなる頃には,中心部には炭素や酸素の核が生じ,その周囲でヘリウムの核融合反応が起こるようになります.そして,水素燃焼殻によって外層が膨らんだときと同様に,ここでも恒星の外層は膨らんでいきます.

太陽程度の質量を持つ恒星の場合,その後に中心核の温度はそれほど上がらないため,中心核の炭素や酸素は核融合反応を起こしません.一方で,外層は膨らみ続けるため,どんどん中心核から離れていきます.そうして広がった外層は熱い中心核からの放射によって輝きます.惑星状星雲と呼ばれます.

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また,惑星状星雲の内側には,外層を失った恒星の中心核部分が残されます.中心核は非常に温度が高いため,その熱エネルギーによって青白い光を放射しています.白色矮星と呼ばれます.

白色矮星は核融合反応を起こしていませんが,電子の縮退圧によって自身の重力を支えています.電子はフェルミ粒子の一種ですが,フェルミ粒子はパウリの排他原理により,複数の粒子が同じエネルギー状態を取ることができません.そのため,たくさんのフェルミ粒子が密集する状況では,互いに同じエネルギー状態をとらないよう,運動量の大きい粒子が生じることになり,それが外向きの圧力となる,というわけです.

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なお,白色矮星は核融合反応を起こさないため,しだいに冷えていって暗くなり,やがて黒色矮星と呼ばれる天体になります.白色矮星が黒色矮星になるために必要な時間は現在の宇宙年齢よりも長いとされていて,黒色矮星はまだ存在しないと考えられています.

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太陽より約8倍以上重い恒星の場合

質量が太陽程度から太陽の約8倍までの恒星は,太陽とほぼ同じ進化をたどると考えられています.一方で,質量が太陽の約8倍より重い恒星は,さらなる核融合反応を起こして進化を続けます.

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質量が太陽の約8倍より重い恒星では,中心部に生じた炭素や酸素の核が収縮することで十分に高い温度となって,それらの核融合反応が始まり,ネオンやマグネシウムといったさらに重い元素が生成されます.特に,質量が太陽の約10倍より重い恒星では,核融合反応は最も安定な元素である鉄が生じるまで進みます.

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鉄の核が中心部に生じると,それ以上の核融合反応は起こりません.そのため中心部は収縮していきます.そして温度が10の10乗ケルビンを越えると,光子のエネルギーによって鉄が分解される光分解が起こります.鉄の光分解はエネルギーを必要とする吸熱反応ですから,中心核の温度や圧力は一気に下がり,中心核は自身の重力によって急激に収縮していき,いわゆる重力崩壊が起こります.

収縮した中心部は密度がきわめて高く硬いコアとなり,そこに周囲から落ちてきたガスが跳ね返されることで衝撃波が発生します.衝撃波は恒星の外側へと伝わっていき,恒星の外層が爆発的に飛び散る超新星爆発が起こると考えられています.

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圧縮された中心部は密度の非常に高い状態となり,電子の大半は陽子に取り込まれて中性子が主体の天体となります.中性子星と呼ばれます.中性子星は,その質量が太陽と同程度の場合に半径は10キロメートルほどしかなく,きわめてコンパクトな天体です.

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恒星の多くは連星系をなしていますから,ともに重い恒星からなる連星系の場合,進化した後に中性子星連星となることがあります.中性子星連星は,互いの重心周りを公転する際に重力波によって徐々にエネルギーを失っていき,やがて合体します.そうした中性子星合体は,高エネルギーの中性子が豊富に存在する特殊な環境であり,金やプラチナといった鉄より重い元素を形成する中性子捕獲反応の重要な現場のひとつであると考えられています.

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また,恒星の質量が太陽の約30倍を超える場合は,中心にできた中性子のコアでも重力崩壊を止めることができず,そのまま潰れていってブラックホールが形成されると考えられています.重力がきわめて強いため,光すら脱出することのできない天体ですが,周囲からガスが流入すると,その重力エネルギーが解放されることで高温に加熱されるため,X線などで明るく輝くことが知られています.

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今回は恒星の進化について簡単に紹介してきました.恒星は私たちの人生程度のタイムスケールで考えるとずっと輝き続けてくれる存在ですが,有限のサイズに含まれる燃料で輝いているため,やがてその終わりを迎えるときが訪れます.ただ,惑星状星雲や超新星爆発といった現象によって周囲へとばらまかれた元素は,やがて次の世代につくられる星々へと受け継がれていきます.そうした宇宙における恒星の一生のサイクルに思いをはせつつ,筆を置きたいと思います.

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Diagram_of_the_life_of_Sun-like_stars.jpg


参考文献

すべての人の天文学
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トコトンやさしい天文学の本
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