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【ある錬金術師の話(仮題)25】
「行くと決めたのなら、急ごう。
なにせ、アグリッパにも依頼しようか?と言ってのだから。」
コルネリウス・アグリッパ:
ホーエンハイムと同じ、ドイツ人でいわゆる魔術師として知られる。
その著書である「オカルト哲学について」(全3巻)はルネサンスの魔術師層の集大成となっている。その内容は、フランセス・イエイツによれば、「マルシリオ・フィチーノが教えるヘルメス主義敵魔術とピコ・デラ・ミ
【ある錬金術師の話(仮題)24】
ホーエンハイムの眼の色が変わる。
それはそうだ。
解決が困難な症例というものは、彼にとっては大の好物なのだ。
これだけ医院が閑散としていても、変にプライドだけは高い。
自分が儲かっていないのは、腕が悪いせいではなくて、自分を必要とされる症例が無いだけ、と思っているのだ。
だからこそ、こういった症例は見逃せない。
しかも、それが金払いの良い患者とすれば、断る理由はない。
【ある錬金術師の話(仮題)23】
こう言った時は、話を変えるに限る。
どれだけ言い繕った所で、勝てる相手ではないのだ。
ちょうど、蛇がカエルに勝てないように。
「なあ先生、コーネリアスの奴の具合が悪い、って話、聞いたかい?」
「コーネリアス?
ああ、あの貿易商か。」
地中海貿易は東ローマ帝国商人がその場を独占していたが、1202年の第四回十字軍以降、様々な都市国家にその中心が移っていた。
コーネリアスもその内の一人で、地
【ある錬金術師の話(仮題)22】
「ちぇっ、相変わらずだな。だから、いつも客が来ないんじゃないのか?」
カールはそう言いながら、舐め回すように診療室をみた。
薄暗い部屋の中には、試薬ビンやら怪しげなタイトルの本やらが散乱している。
「客、じゃない。
患者、だ。
そもそも、医者が暇なのはいいことじゃないか。
医者が暇ということは、それだけ世の中が平和ってことさ。」
「そうは言っても、これだけボロだ
【ある錬金術師の話(仮題)21】
しばらくすると、種の表面がゼラチン質で覆われ、まるでカエルの卵のようになる。
それをそっと手に取って、右目の中を軽く拭いてやる。
「ただの結膜下出血だ。2週間もすれば良くなる。まあ、お前の場合は飲み過ぎだから、もっとかかるだろうがな。」
そう言いながら、軽く処置を終えた。
「なんだい、まるで俺がいつも飲んだくれているようじゃないか。」
「実際そうだろう?
酔っ払いで無
【ある錬金術師の話(仮題)20】
【ある錬金術師の話(仮題)】
病人でなければ、隣に住んでいるあいつだろう。
そう思って戸を開けると、案の定、カールだった。
「なんだお前か」
「先生、お前か?じゃないよ。
一体どれだけ無視するんだよ。
もう少し遅かったら、扉を壊してやるつもりだったぞ。」
「忙しい時にやってくるお前が悪い」
「こっちも急いでいたんだよ!
朝起きて見たら、右目が真っ赤でさ。
痛くも痒くも無いんだけど・・・」
【ある錬金術師の話(仮題)19】
こんな不躾なことをしてくるのは、心当たりでは一人しかいない。
そもそも、この街での彼の評判は最悪だ。
どうも腕の良い医者がいるらしい、という噂はある。
しかしその医者は、話し方と言い行動と言い、ともかく変わりものであるという噂も同じだけ流れている。
これでは普通の人なら、足が遠のくのは仕方がない。
なにより、他の医者だけでなく、アリストテレスやガレノスの批判までするものだから
【ある錬金術師の話(仮題)18】
だからこそ、一度決めたタイミングというものは、逃してはならない。
ちょっとしたミスで不純物が交じるのと同様に、不純なエネルギーが混じり込むからだ。
そして彼にしては親切なことに、扉には「本日、休診」と札をかけておいたし、出る必要もないのだ。
彼は、出来上がったチンキに「ローダナム」(ラテン語で称賛するという意味)、と名前をつけ遮光瓶に入れた。
ドンドンドンドン!
何を言っているのか、よく聞
【ある錬金術師の話(仮題)17】
だから、なんの属性の薬か?と同時に、どのタイミングで?というのが非常に大事になる。
このタイミングには、それこそいくつもの方法がある。
土星のハーブに、火星の力を加えたい場合を例に挙げよう。
1.火曜日の土星時間に採取する
2.土星時間に採取したハーブを火星時間に調合する
3.土星時間で最も火星が強くなる時間に採取する
1や2の場合、一日に3~4時間程度しかチャンスはない。
【ある錬金術師の話(仮題)16】
まずその第一段階として、土星の属性のハーブを採取する必要がある。
次に重要なのが、採取する”タイミング”である。
そして、そのタイミングには、やはり占星術が不可欠なのだ。
現代でも全ての人が、曜日を意識して生きている。
その名前の由来は、言うまでもなく惑星である。
土曜日は土星の力が支配的であり、日曜日は太陽の力が支配しているものなのだ。
それと同様に、実は、我々の”時間”にも惑星が関連
【ある錬金術師の話(仮題)15】
チンキ剤のみならず、精油を作るときに重要なのが、”時間”である。
少し難しい内容ではあるが、古代の医師たちがどのように診断治療をしていたかを書いてみる。
まず診断のためには、ホロスコープが不可欠だった。
それは、患者が病によって寝込んだ時間なり、診察のために尿を持ってきた時間、はたまた家族が医師に相談に来た時間を用いる。
場所は、医師のいた場所を使う。
その2つを元に、ホロスコープを作成
【ある錬金術師の話(仮題)14】
その中でも、注目していたのは、アヘンであった。
アヘンは、麻薬の一種なのではあるが、その鎮痛作用はすこぶる良い。
また、あまりにひどい咳や下痢にも、利用できる。
とはいえ、常習性についても気になるだろう。
しかし、がん性疼痛がある場合、痛みが取れる容量までは、中毒になることはない。
また、喫煙とは異なり、経腸管吸収のため常習性が低い。
ホーエンハイムはそこに注目し、最も
【ある錬金術師の話(仮題)13】
これは強力かつ簡単な錬金術の治療薬である。
作るために必要なのは、バーナー、容器、ビーカーくらいである。
まず、100gくらいのハーブを、500ml程度の蒸留酒を入れる。
これを1日1回かき回し、40日間漬け込む。
濾して、液体と沈殿物を分離する。液体はとりあえず、容器に入れておき、固形物の生成にとりかかる。
まず、バーナーで黒い灰になるまで焼く。
次に、その灰を挽き、
【ある錬金術師の話(仮題)12】
これを読んでいる人の中には、ハーブティーを好んでのんでいる人がいるかもしれない。
もしかしたら、漢方薬も煎じてのむ人もいるかもしれない。
しかし、どれだけお湯で煎じても、水に溶けるものしか抽出できない。
つまり、水溶性のものしか、水には溶けないのだ。
それでは全ての成分を抽出している、とは言えないのではないだろうか?
ビタミンにしても、水溶性と油溶性のものがある。
そうであるなら、油溶性のも