おもいだす　自転車

1

　後ろから自転車が走ってきて、僕を追い抜く。小学校高学年くらいだろうその子は、一輪車のように、両手を離して運転していた。
　すごいな、と思った。
　僕は片手離しならできる。でも、片手離しと両手離しとでは、難易度が全く違うのだ。もはや本質的にやっていることが違う気がする。
　子供の頃、よく遊んでいた友人が、両手離しの達人だったことを思い出した。運動神経が良くて、小学校六年生ながら、中学生に徒競走で勝つほどだった。
　その子は自転車を漕ぐのも早かった。僕は運動は不得意な方で、自転車でスピードを出すのも怖がっていた。先頭を走るその友人が、両手を離して、考えられないスピードで進む後ろ姿を、僕は必死に漕ぎながら追いかけたものだ。これは今思い出したが、両手を離したまま、カーブを曲がった時は本当に驚いた。

2

　今日会いに行くあいつはどうだろうと思ったが、あいつは自転車に乗れないんだった。
　珍しいと思う。22歳になって自転車に乗れない人。小学生の頃とか、どうしていたんだろう。おうち遊びがメインだったのか、それとも自転車なんて使わなくても近くに遊べる場所がたくさんあったのか。謎は深まる。今度ちゃんと聞いてみようと思う。
　旅先で、レンタサイクルを利用するのが僕の理想なのだが、あいつがいるとなかなか提案しづらい。今度、自転車を練習する会を開いてみようかなと思う。新しい遊びとして、結構いいんじゃないかな。
　そんなあいつは、この前自動車の免許を取った。
　自転車、乗れないくせに。
　そういうところ、ほんと面白い。