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桜と満月

昨日3月29日は満月でした。とはいえ望の瞬間は明け方でしたので、その日の宵の空に下界を照らした月はわずかに欠けていましたが…まぁ細かいことは置いておきましょう。
昨日は陰暦二月(如月)の満月の日。そう、西行法師がこのような桜の花の下で死にたいと願った望月です。

ねかはくは 花のしたにて 春しなん そのきさらきの もちつきのころ
ー『山家集』

実際、彼は文治六年二月十六日に入寂していますから、願いは叶ったと言えますね。

西行法師は桜と月を詠んだ歌を幾つか残しています。

雲ならで おぼろなりとも 見ゆるかな 霞かかれる 春の夜の月 
雲にまがふ 花の下にて ながむれば おぼろに月は見ゆる成りけり
花散らで 月は曇らぬ 世なりせば 物を思はぬ わが身ならまし
雪と見て 風にさくらの 乱るれば 花の笠着る 春の夜の月
ーいずれも『山家集』

もっとも西行法師が詠んだ桜はソメイヨシノではなくヤマザクラですが。とにかく、たしかに桜と月は絵になりますよね。加えて春は空が霞みがちな季節。冬の冴え冴えした月でもなく、夏のどんよりした月でもなく、秋の名月でもない、少し滲んだように見えたり暈をかぶったりするその姿が、陽気とも相まって桜と合うのかもしれません。

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ですから、桜と月を詠んだのは西行法師だけではありません。特に新古今集以降は格段に増えます(万葉集や古今集では梅の方が多く詠まれている)。

花流す 瀬をも見るべき 三日月の われて入りぬる 山のをちかた(坂上是則)
ー『新古今集』
ながきよの 月の光の なかりせば 雲ゐの花を いかで折らまし(四条宮下野)
ー『金葉集』
白雲と 峰の桜は 見ゆれども 月の光は へだてざりけり(待賢門院堀河)
ー『千載集』
花の色に ひかりさしそふ 春の夜ぞ 木の間の月は 見るべかりける(上西門院兵衛)
ー『千載集』
此世には 忘れぬ春の 面影よ 朧月夜の 花の光に(式子内親王)
ー『式子内親王集』

東京の桜はこれから散りゆくのみでしょうが、散る桜も美しいもの。満月を過ぎ、これからは深夜はもちろんのこと、明け方の青空に月が見えるようになります。もうすぐ新年度。青空の下、桜越しの月を見ながら通勤通学をしてみてはいかがでしょうか?心軽く新しい一年が迎えられそうですよ。

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