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ゴッホの見た星空(7) 渦巻銀河M51の秘密

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ゴッホの見た星空(6) 《星月夜》の渦巻は渦巻銀河M51なのか?
https://note.com/astro_dialog/n/n1d5abb10e788

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《星月夜》の渦巻

ゴッホの名作《星月夜》に描かれた大きな渦巻は渦巻銀河M51を模したものであるという話をnote「ゴッホの見た星空(6) 《星月夜》の渦巻は渦巻銀河M51なのか?」で紹介した。アイルランド出身の天文学者ロス卿がM51のスケッチをした(図1)。その成果をフランスの天文学者カミーユ・フラマリオンが系猛暑中で紹介した。それを見たゴッホがM51の渦巻を《星月夜》に取り入れた。こう言う話だった。ところが、意外にも、《星月夜》に描かれた渦巻はM51の渦巻と巻き方が逆になっていたというオチもついていた。

図1 (左)ロス卿の残したM51のスケッチ(『星雲の観測(Observations on the Nebulae)』に掲載された)、(右)ハッブル宇宙望遠鏡が撮影したM51。 ロス卿のスケッチ。 https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/exhibition/051/ https://library.nao.ac.jp/kichou/archive/SC117/kmview.html ハッブル宇宙望遠鏡によるM51の写真 https://www.spacetelescope.org/images/heic0506a/

渦巻銀河M51の秘密

M51は非常に美しい渦巻銀河だ。天文学に興味を持ったのは中学生の頃だったが、天文学関係の本や雑誌には必ずと言ってよいほどM51が渦巻銀河の代表的な例として紹介されていた。ただ、名前は「子持ち銀河」だった。この名前の由来は、M51のそばに小さな銀河NGC5195が寄り添うようにあるからだ(図1右の上に見える小さな銀河)。その頃思ったことは、NGC5195とM51はすぐ近くに並んでいるのだろうということだった。ところが、大学生になって天文学の勉強を始めたところ、「二つの銀河は並んでいるわけではない」ということだった。これは衝撃的だった。

そこで、このnoteでは渦巻銀河M51の秘密を明かしておくことにしよう。天文学者の出番である。

衝突する銀河

M51とNGC5195。これら2個の銀河は南北方向に綺麗に並んでいると思いがちである。しかし、それは違う。私たちが見ているのは、2個の銀河が衝突した後、すり抜けて離れ離れになっていく途中経過なのだ(図2)。最接近してから、すでに2億年以上は経過している。

図2 M51とNGC5195の相互作用の様子。私たちが観測するのは天球面に投影した形である(図中の黒枠)。右の点線で囲んだものはM51とNGC5195の相互作用をコンピューター・シミュレーションしたもの。天球面に投影した形は観測されたものをよく再現している。これを北(方向としては天球面に沿って上)から見たものが青枠の図。また、西(方向としては天球面に沿って右)から見たものが赤枠の図。NGC5195がM51から離れるように、天球面の向こう側に移動しつつある。二つの銀河はこのまま離れ離れになっていくことが予想されている。なお、銀河相互作用で、お互いの重力圏内に補足されると、二つの銀河は合体して一つになる。

図2の右側に示したコンピューター・シミュレーションの結果は1972年に公表された(Toomre, A., & Toomre, J. “Galactic Bridges and Tails” 1972, ApJ, 178, 623-666)。M51の謎は、なんと50年以上も前に解明されていたのである。

図2を見てわかることは、銀河の形は「見る方向(視線の方向)」によって変わるということだ。

もし、北側から眺めていたら、図2右にある水色の枠に囲まれた形に見えただろう。

もし、西側から眺めていたら、図2右にある赤色の枠に囲まれた形に見えただろう。

私たちはたまたまM51の渦巻きが綺麗に見える方向から眺めていただけなのである。

残念ながら、私たちは視線を変更することはできない。あるがままに宇宙を眺めるだけなのだ。

衝突している銀河の姿は千変万化である。そのため、衝突パラメーターの決定や、銀河の本当の姿を見極めるのは難しい。

銀河は出会いで育つ

M51には綺麗な二本の渦巻腕がある。この渦巻はNGC5195との銀河相互作用の結果生まれたものである(正確には潮汐力の効果で渦巻腕が生じたものである)。

NGC5195と相互作用する前、M51には綺麗な二本の渦巻はなかったと考えられる。宇宙にはたくさんの渦巻銀河があるが、多くの場合、銀河相互作用のおかげで綺麗な渦巻ができているのだ。

渦巻腕の場所ではガスが集まり、密度が上昇する。そのため、ガス雲の中で星が新たに誕生する。つまり、銀河相互作用は渦巻構造を造るだけでなく、星の誕生までも促すのである。

銀河は出会いで育つのだ。

人も出会いで育つ

出会いで育つのは銀河だけではない。何のことはない、人も出会いで育つ。

 また、芸術の分野でも出会いは大切である。それはゴッホの生き様を見ればわかる。悲しい決裂は待っていたものの、ゴッホは南仏アルルでゴーギャンを迎えた。そのために、ゴッホの名作である、数枚のひまわりの絵が誕生した。ゴーギャンが来なければ、ひまわりは描かれなかったのである。

 また、弟のテオがいなければ、画家ゴッホは誕生しなかった。

 銀河と同様に、人も出会いで育つのだ。出会いは大切にしよう。それにはnoteが役に立つ。

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