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井上陽水と宮沢賢治(6) 45分の謎―番外編 重力列車で45分

なぜか45分

以前のnoteで「二つの45分の謎」についてお話ししました。
「井上陽水と宮沢賢治」(2)『銀河鉄道の夜』に出てくる45分の謎https://note.com/astro_dialog/n/n1e73afd27770

一つ目の45分

一つ目の45分は宮沢賢治の童話の代表作『銀河鉄道の夜』に出てきます。主人公のジョバンニと親友のカムパネルラを乗せた銀河鉄道は、「はくちょう座」の北十字から、「みなみじゅうじ座」の南十字を目指し、天の川をわずか4時間で走り抜けます。さぞや素敵な旅だったのだろうと思うと、大間違い。銀河鉄道は死を乗せて走る列車だったのです。

亡くなったのはジョバンニと親友のカムパネルラです。銀河鉄道の旅を終え、夢から醒めて現実の世界に戻ったジョバンニはカムパネルラが川で溺れて死んだことを知ります。カムパネルラを探しに、カムパネルラのお父さんもきているのですが、意外な意見を述べます。

「もう、駄目です。落ちてから四十五分たちましたから。」

なぜ、四十五分たったらダメなのでしょうか? 何の説明も出ていないので、意味不明です。また、特に考察もされていないようです。

二つ目の45分

次に、二つ目の45分です。井上陽水の歌のなかに『背中まで45分』というのがあります。とある男女の物語です。二人はホテルのロビーで出会います。そのあと、ホテルのバーでカクテルを飲み、ダンスも楽しみます。そして、部屋に入り、男の手は女の背中に到着します。ロビーで出会ってから四十五分後のことでした。ということで、背中まで四十五分になるわけです。しかし、ここでもなぜ45分なのかは説明されていません。聞くだけ野暮ということでしょうか?

ひとつ思いついたのは「井上陽水は宮沢賢治のファンである」可能性です。
『銀河鉄道の夜』を読んで45分という時間に興味を持った。
そして、その時間を歌に織り込んだ。

こういうアイデアです。

そして三つ目の45分

二つの45分を紹介しましたが、結局、なぜ45分なのかは、いまだにわかっていません。それなのに、三つ目の45分に出会ってしまいました。それは重力列車の話です。

先日、神保町の古書店を巡っていたら、ちょっと変わったタイトルの天文の本を見つけました。『意外性の宇宙 天文博物誌』(堀源一郎、朝日出版社、1980年)です(図1)。

図1 『意外性の宇宙 天文博物誌』(堀源一郎、朝日出版社、1980年)の表紙。

堀源一郎(1930-2023)は天体力学を専門とする著名な天文学者です。堀は東京大学の教授でしたが、天体力学の集中講義を受けたことがあります。研究のみならず、教育にも熱心で、非常に面白い講義だったことを覚えています。

『意外性の宇宙 天文博物誌』ですが、目次を見てみると次の項目が見つかりました。

どこへでも四五分で行いける夢の重力列車

なんと、45分が出てくるのです。

「重力列車? いったいなんだろう?」
迂闊にも私は重力列車という言葉を知りませんでした。ということで、この本を買い求めることにしました。家に帰って読んでみると、次のような内容でした。

地球に貫通トンネルを作る
地球の重力だけで列車を走らせる(落とすということです)
地球の中心で最大速度になり、そのまま地球の反対側に到着する
この移動にかかる時間が45分!(摩擦や空気抵抗はないとする)

この貫通トンネルは、別に地球の中心を通る必要はありません。そのため、ニューヨークでも、ロンドンでも、ケープタウンでも、どこへでも45分で行けるのです。まさに夢の列車です。

カムパネルラのお父さんは重力列車のことを知っていたのでしょうか。

四つ目の45分?

ところでハッブル宇宙望遠鏡(図2)は軌道高度約500キロメートルの大気圏外を周回運動しながら、宇宙を観測しています。一周するのにかかる時間をご存知ですか? たったの90分です。つまり、ハッブル宇宙望遠鏡はわずか45分で地球を半周しているのです。なんと、ここにも45分が出てくるのです。

45分とは、いったいなんなんだろう!

図2 大気圏外で宇宙を観測するハッブル宇宙望遠鏡 https://ja.wikipedia.org/wiki/ハッブル宇宙望遠鏡#/media/ファイル:Hubble_telescope_2009.jpg

追記:堀の本には45分と書いてありましたが、実際に計算すると42分です。関心のある方は計算してみて下さい。そのとき、地球内部の密度は一様であると仮定してください。


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