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天文俳句(13) 「天文俳句って、どのぐらいあるの?」、再び、再び

真の天文俳句率

歳時記には天文に分類されている季語が結構あるが、大半は気象関係であり、真の天文季語は少ない。実のところ、「月」、「星月夜」、「流れ星」、そして「天の川」の四つしかないのだ。

次のnoteを参照されたい。「天文俳句」(1)季語における天文https://note.com/astro_dialog/n/nb90cc3b733fd

そこで、前回の二つのnoteでは、金子兜太監修による『365日で味わう美しい日本の季語』(誠文堂新光社、2010年)と片山由美子による『別冊 NHK 俳句 保存版』(NHK出版、2020年)を用いて、「真の天文季語」が使われている俳句の割合を調べてみた。その結果、紹介されている俳句のうち、『365日で味わう美しい日本の季語』では2.7パーセント、『別冊NHK 俳句 保存版』では2.3パーセントが「真の天文季語」が使われている俳句であることがわかった。

これら2冊の調査で「真の天文季語」を使った俳句の割合は2パーセントから3パーセントという結論を得た。今回、更なる調査をしてみたので、三つの調査結果のまとめをしたい。

山本健吉の『定本 現代俳句』

今回選んだのは山本健吉の『定本 現代俳句』(角川選書、角川書店、1998年)(図1)。山本(1907-1988)は文芸評論家であり、俳句のみならず、文学全般(古典文学から現代文学)に鋭い評論・解説を行なった人だ。『定本 現代俳句』の原著は1951年から1952年にかけて出版された。図1の帯にあるように、まさに「読み継がれて半世紀」の名著なのだ。

図1 山本健吉の『定本 現代俳句』の表紙。

この本では、正岡子規以降の48名の俳人を選び、彼らの俳句を紹介していく趣向になっている(表1)。この表を見てわかるように、紹介されている俳句の句数は808句にもおよぶ。そのため、現代俳句の全体像を見ることができる。

 
 
 

表1の引用句に示した41の俳句が、真の天文風景を詠んだものだ。『定本 現代俳句』で紹介された全俳句数は808句なので、真の天文俳句率は約5%になる(表1の最後の行)。

次に、真の天文季語をまとめておく(表2)。天の川は、銀河、銀漢、そして雲漢も使われている。星は季語にならないが、春星、枯野星として季語にしている。月は寒月を始め、7種類の季語として登場する。やはり、天文では月が一番人気だ。

 

三つの文献調査を終えて

これまでに三つの文献に基づいて、「真の天文俳句率」を調査した。その結果を表3にまとめた。

 

結果は、2.7%、2.3%、そして5.1%。平均を取れば3.4%になる。「真の天文俳句率」は概ね3%ということだ。俳句を詠む人、百人のうち三人は真の天文現象を句に詠み込んでいる。目に映るのは日常だが、彼らが観る世間は広い。その状況にあって、「真の天文俳句率」が3%もあるのは凄いことだ。また、山口誓子や野尻抱影のように天文俳句を趣味にしてくれる人もいる。

真の天文現象を読み込んでくれた人たちに感謝して、美しい星空に乾杯!

『星恋』については note「天文俳句」(4)天文俳句の世界『星戀』を参照されたい。 https://note.com/astro_dialog/n/n429ca3e819d1

気になる俳句

『定本 現代俳句』の中に少し気になる俳句を二つ見つけた。

まず、高浜虚子の俳句(73頁)。

爛々と昼の星見え菌生え(きのこはえ)  高浜虚子

ここで、昼の星(太白星)は火星のことである。星と同様、惑星も季節や時刻との関係は相対的なので、季語とはならない。それでも火星が詠み込まれているのは珍しい。この句では、「菌」が秋の季語として用いられている。

もうひとつは、橋本多佳子の有名な句だ(311頁)。

星空へ店より林檎あふれをり  橋本多佳子

この句は天文学者にとってはインパクトがある。なぜなら、「星空へ」という言葉で始まるからである。「星空へ」どうしたのだろう? そう思って次の語句を見れば「店より林檎あふれをり」と意外な展開を見せる。印象に残る句である。季語はもちろん星空ではなく、「林檎」だ(秋)。

俳句の世界は面白い。

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