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『銀河系』のお話し(15) 私たちの住んでいる銀河は,なぜ『銀河系』と呼ばれるのか?

銀河系という名前

このnoteでは「私たちの住んでいる銀河はなぜ銀河系と呼ばれるのか?」という問題を考えてきた。天の川として見えている銀河なので「天の川銀河」と呼べばよいように思う。

 問題はなぜ「系」をつけるかということだ。たとえば、太陽系という言葉は理解できる。太陽は太陽という一個の星を意味するが、太陽系は太陽の他に惑星や小惑星や太陽系外縁天体などの太陽系小天体を含めたシステムのことだ。しかし、銀河は星の集団であり、私たちの住んでいる銀河も、アンドロメダ銀河などの他の銀河も同じだ。私たちの住んでいる銀河だけ「系」をつけることには違和感を感じる(図1)。

図1 (左)太陽―太陽系。太陽は一個の星だが、太陽系は太陽、惑星、小天体などを含むシステムを指す。(右)銀河―銀河系の対応関係。銀河も銀河系も私たちの住む銀河のことを指す。

「銀河系」の意味

前回のnoteで神田茂の『宇宙研究 新天文學概論』(古今書院、1925年)にある「銀河系」の説明を紹介した。

天の川銀河の中には太陽、そのほかの多数の星々(変光星、連星を含む)、星団、ガス状星雲がある。この星の系統を銀河系と称する」。

結局、こういうことなのだ。

この定義で私たちの住んでいる銀河を「銀河系」と呼ぶのはよい。しかし、この定義を採用すると、宇宙にあるすべての銀河は銀河系になる(表1)。ところが、「系」をつけるのは、なぜか私たちの住んでいる銀河だけなのだ。

 

では、「系」を用いない立場を採用してみよう。すると、表2のようになる。アンドロメダ銀河やソンブレロ銀河の名称に倣えば、私たちの住んでいる銀河は「天の川銀河」と呼ぶ方が自然であることに気づく

 

私は「天の川銀河」を選ぶことにした

ということで結論。私は「天の川銀河」を選ぶことにした。もちろん「銀河系」という言葉を選ばれる方もたくさんおられるだろう。実際のところ、「天の川銀河」でも「銀河系」でも私たちの住んでいる銀河を指すことはわかるので、誤解が生じることはない。

これでハッピーエンドとしましょう。

追記1:noteに感謝

私たちの住んでいる銀河を「天の川銀河」と呼ぶか、「銀河系」と呼ぶか、ほとんどの方は関心を持たれないと思う。銀河天文学を専門とする私の関心だけでこの問題について考えたようなものだ。考えを進めるにあたって、noteの存在は大きかった。noteが無ければここまで考えを進めることはできなかったことは確かだ。noteに深く感謝いたします。

天文学者の友人、Aさん、Oさん、そして出版社で編集のお仕事をされているSさんのお三方に貴重なコメントをいただきました。深く感謝いたします。

また、このnote「『銀河系』のお話」をお読みくださった方々、そして「スキ」をしてくださった方々に末尾ながら深く感謝いたします。ずいぶん励みになりました。noteあればこそ、という感じです。note、本当にいいですね。

追記2:今回参考にした資料(表3)。

これだけの先人たちの努力があることに感動を覚える。ここでも深く感謝したい。

 
 

1 『洛氏天文学』文部省。上冊・下冊の二分冊。『Elements of Astronomy』(J. N. Lockyer、1870年)の翻訳本。著者のLockyer(ロックヤー)を洛氏としている。『Elements of Astronomy』の原著の索引を見ると、銀河関係では「Galaxy」と「Milky Way」が出ている。
2 『改訂 天文講話』横山又次郎、早稲田大學出版部、明治三十五年が初版だが、購入したものは昭和二年刊のもの(弐圓八十銭)
3 『星學 全』須藤傳次郎、 博文館、明治三六年 (三十五銭、改正定價四十銭の印鑑あり)
4 『高等天文学』一戸直蔵、博文館、明治三十九年(六十銭) 太陽、月、地球、および観測天文学を詳細に解説した教科書だ、銀河や星雲に関する記述はない。
5 『改訂 天文地学講話』横山又次郎、早稲田大學出版部、明治四十二年が初版だが、購入したものは大正十二年刊のもの(弐圓八十銭)
6 『星』一戸直蔵、裳華房、明治四十三年(壱圓五十銭)
7 『宇宙発展論』『最近の宇宙観』スヴァンテ・アレニウス 著、一戸直蔵 訳、大倉書店、大正三年、(壱円八十銭) 銀河は天の川銀河と過状星雲の二つの意味で用いられている。
8 『趣味の天文』戸直蔵、現代之科學社、大正五年(壱圓二十銭)倉書店、大正三年(壱圓八十銭) 銀河は天の川銀河の意味で用いられている。アンドロメダ星雲までの距離は十九光年になっている。
9  日本天文学会の学会誌『天文月報』第9巻、第1号に掲載された新城新蔵による「天体の回転運動」という記事の中に『銀河系』という言葉が出てくる。
10 『天文学六講』一戸直蔵、現代之科學社、大正六年(価格は不明) 銀河と銀河系は区別なく用いられている(第五講の中、例えば227頁)。また、「吾が銀河系」という言葉も出てくる(230頁)。
11 『通俗講義 天文學 下巻』一戸直蔵、大鎧閣、大正九年(三圓五十銭)
12 『最近の宇宙観』スヴァンテ・アレニウス 著、一戸直蔵 訳、大鐘鶴、大正九年(四園七十銭)
13 『天文學汎論』日下部四郎太、菊田善三、内田老鶴圃、大正十一年(価格は不明) 第27章では、章のタイトルに「銀河系」が使われているが、冒頭に「銀河は天之川とも称せられ・・・」とあるだけで、銀河系という言葉の説明はない。
14 『星の科學』原田三夫、新光社、大正十一年(価格は不明)
15 『肉眼に見える星の研究』吉田源次郎、警醒社、大正十一年(参圓五十銭)
16 『宇宙の旅』 H. H. ターナー 著、大沼十太郎 訳、新光社、大正十三年(弐圓六十銭) 銀河が用いられているが、一箇所で次の記述がある。“吾々の集団(銀河系の宇宙)”(355頁)。 監修は東京天文台の平山清次(きよつぐ)、翻訳者の大沼十太郎は平山の親戚とのことである。なお、平山(1874-1943)は太陽系の小惑星の中で同じ運動学的な性質を持つ「平山族(ヒラヤマ・ファミリー)」という小惑星の一群を同定したことで、国際的に有名である。
17 『星のローマンス』古川龍城、新光社、大正十三年(弐圓) 宇宙系統という言葉が出ているが(32頁)、現代風に言うと系外銀河のことである。
18 『宇宙研究 新天文學概論』神田茂、古今書院、1925年(壱圓五十銭)
19 『天界片信』関口鯉吉、興学会出版部、大正十五年(弐圓五十銭) 大銀河系と小銀河系という用語あり。球状星団を含むものが大銀河系。
20 『空の神秘』(誰にもわかる科學全集第二巻)原田三夫、國民図書、昭和四年(壱圓) イーストンの天の川の渦巻形状(図9)が紹介されている(302頁)。
21 『天文學概論』本田親二、教育研究會、昭和六年(弐圓五十銭)ハッブルの1926年の論文(The Astrophysical Journal, 64, pp. 321-369 “Extra-Galactic Nebulae”)を引用してハッブル分類について説明してある。


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