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高校1年 冬②東京は遠い

年が明けた。

彼女は調律師になるため、4月から念願の東京の音楽系の専門学校に行くことが確定した。

春からは遠距離。

なんだか実感が湧かない。


彼女はこの頃にはかなりの引きこもりになっていたので、

休みの日もデートとかもなく、おうちでゲームしたりくだらない話をしたりして過ごしていた。

彼女は複雑な家庭環境で精神的にも参っていたのがとてもよくわかっていたから、

改善する、というよりは刺激のないよう当たり障りのない毎日を一緒に過ごすことしかできなかった

この頃、街ではドリカムの冬の歌が溢れていた。

このPVに出てくる場所は東京の代官山というオシャレスポットらしいと耳にした。

東京はこんなところがあるのか。

彼女がより遠くに行ってしまうような気がした。



冬休みの間は部活も特になにをするということもなかったので、僕はゆっくりと脚本を書き出していくことにした。

全国と僕らとの違いはあまりにたくさんあるけど、ポテンシャルだけなら負けてないはず。

なにせうちの部にはむっつり(部長)と、バレー部のキャプテン(M)と、空手の県強化指定選手(おれ)と演劇界のDOTAMA(あそうたまきこうじ)と沢山のアニオタたちがいるのだ。

脚本がよかったらきっとある程度戦える気がする。

そんな思いで、いくつかタイトルを考える。


その中でも、僕が一番書きたかったものは地元の歴史を綴るものだった。

実は僕の祖父は郷土史の研究をしていて、様々な本に寄稿をしていた。

そのせいで祖父からは、お前の地元にはこんなヒーローがいたんだぞ!

と小さな頃から熱く語られていた。

そしてそれをきっかけに僕自身も郷土史の研究をしていて、

休みの日は地元の郷土史のイベントや歴史資料館にもよく顔を出していた。


今までの脚本はなんていうか、大人っぽい感じだったりで自分にとってあまりに非日常というか思い入れが薄いと感じていたが、

この話ならば僕は心から深掘りできる。

そして、この地域に住む人なら誰でも知る地名、人名、出来事が出てくるストーリーならば共感もしやすい。

脚本なんて書いたこともなかったけれども、たくさんの出来事を調べて、祖父にも相談して、ゆっくり書いていくことにした。

まだスタート。

この道のりは簡単ではない。

でも、やる前からなにかすごいものが生まれると確信していた。

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