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高校3年 夏③わたしは上手に笑えてる?

うちの演劇部の舞台監督として長年僕らを支えてくれたおやびんは、クラスは文系だけど

理数科目強めの大学進学向けのクラスだったので、ちょっと特殊な人が多いクラスだった。

変わり者のクラス、みたいな立ち位置。

そこを巧みにサバイブしているおやびんさすがだなぁなんて思ったりしていたのだけれども

ある日おやびんから

「うちのクラスにみっちーのファンがいて、紹介しろとうるさい」

という衝撃の話を聞いた。

マジかよおい!

食い気味にどんな人か聞くと

「ちょっと特殊な一個上の人」

と、一言。

変わり者のクラスの中の変わり者、、、

なかなかにやばいにおいがぷんぷんしている。

そういえば、ちょっと前からおやびんのクラスに帰国子女の女の子が編入してきていたのは知っていた。

年齢は一個上で、海外で生活してて日本の受験対策が十分でないからとかそんな理由で僕らと同学年になったと聞いた記憶がある。

あんまり興味もなかったので「へぇ〜」くらいに聞き流していたが、その人か。

いや〜どんな人だっけな。

わからん。

でも、好意を持ってくれてる人がいるってのは悪い気はしないねぇ。

ままあって、おやびんの紹介で連絡先を交換することになった。

やりとりをしてわかったのが、もうすごいグイグイくるってこと。

さすがアメリカ帰り。

そして、グイグイ来られるとちょっと引いてしまうあたい。

いや、お互いに好意があってグイグイ来てくれるのは大歓迎なんだけど

よくわからん人にグイグイ来られても、どうしていいものか、と。


それまで文化祭に来てくれてたアリとも仲良くしてたし

なんか浮ついてるようで落ち着かない。

とは言え、無碍にもできないしなとしばらくやりとりをした後に

ある日、なにがそんなに良いのかと聞いたら、

「周りにいなさそうな感性してるところ。とても明るいように見えるのに実はとても暗い。言葉が鬼束ちひろみたい。」

と言われた。

鬼束ちひろがわからなかった僕はそこで初めて調べてみる。

当時、書いていた歌詞にものすごく近い。

この人はよく見ているなぁと思った。


少し興味を持った僕は、彼女からの誘いで映画に行くことにしてみた。

彼女は映画好きらしく、観てみたいものがあるんだそうな。

女の子と映画なんて初めての彼女以来だ。

なんだかむずがゆい。

正直言って、魅力的な相手かと言われると、そこまで気があったわけではない。

でも、この人が興味のある世界はなんなのかに興味を持った。

映画を観るために、地元の大きな駅で待ち合わせをした。

この時、初めて2人きりで携帯を通さずにまともに会話をした。

なんだろう。

びっくりするほど会話が弾まない。

僕はわりかし誰とでも話せる方だと思っていた。

でも、恐ろしく弾まなかった。

映画館に着いた。

タイトルは「ガールファイト」

女の子がボクシングにハマって闘う映画だったと思う。

なぜ「思う」と書いたのか?

それは、当時高校生の僕には一ミリも面白いと思う部分がなかったから。

ほとんど記憶にない。

大人になってから観たらまた変わってたかもしれない。

でも、わかりやすい刺激と、暗い精神世界に興味津々だった思春期真っ盛りの僕には

内容が大人すぎた。

映画を見終わった後、このまま行きのように会話も弾まず、お葬式みたいな空気で一緒の時間を過ごすのはあまりにしんどいなと思った。


申し訳ないな。

そんな気持ちを持ちながらも、僕は映画館を出ると同時に早歩きで駅に向かった。

このまま一緒はマジでキツい。

なんで俺のこととかあんなに理解してるのにこの映画をチョイスしたんだ、この子は。

そしてこの状況でも「私、センスいいでしょ?」アピールしてくるのなんなんだ?

謎が謎を呼んで、もはやちょっと怖くなり始めていた。

超早歩きで駅まで行って即解散。

あんなに会話のないデートは人生で先にも後にもこれが初めてとなった。

なんとも、苦いような甘酸っぱいような、絶妙な思い出。

あの日の僕は確実に、上手には笑えていなかった。

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