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高校2年 秋① すすきの揺れた日

文化祭の成功から地区大会突破を確信した僕らはその勢いのままに大会に向けた猛練習を引き続き行う。

普段寡黙で絶望的な滑舌のおっしーがある日

「あだしはですねぇ、今回大会で勝でなかったら教師になっで、生徒を育ででこの脚本で絶対に全国にいぎますから!」

といきり立って、叫んだ。

ここで部員全員の気持ちが固まった。

"こいつが教師になったら、絶対生徒からいじめられる。教師になるのを阻止するためにも絶対に勝とう。"と。

こうして、寡黙な猪みたいな男おっしーと、我々の気持ちはひとつになった。

あとはやるだけ。

そしていよいよ本番当日。

今回の会場は僕らのホームでもあるいつもの市民会館。

使い勝手も知ってるから、いろいろ楽だ。

僕らの順番は初日の2校目。

ちなみに3校目は本格的なダンスを取り入れた県大会常連の高校だ。

搬入口で彼女らがダンスの練習しながら待機している。緊張する。

僕らは1校目の舞台の出だしだけ観て、上演の準備に入る。

落ち着かない。

でも、やるしかない。

前の舞台が終わって劇場内休憩のアナウンスが流れる。

前の高校が撤収するのとほぼ同時に、僕らの搬入が始まる。

搬入にも搬出にも規定の時間があり、それらを超えると減点されてしまう。

規定時間に抑えるための準備はこれまで散々してきた。

あとはスムーズに済ませるだけだ

そして無事準備が完了。

幕が上がる。



この舞台は、この戦場で唯一生き残った武将役のあそうたまきこーじの1人語りから始まり、

全体が明るくなったところで僕のセリフから話が進んでいく。

いつもなら眠くなるくらいの緊張感。

だが、今日はそれすら心地よい。

舞台は滞りなく進んでいった。

笑いどころで観客が笑い、

クライマックスのシーンでは客席から嗚咽さえ響いた。

終演時、これまで聞いたこともないような大きな拍手で、ステージに置いたススキの穂が大きく揺れた。

僕たちの舞台が初めて評価された気がした。

なんの根拠もない。

なんの根拠もないんだけど、僕たちは地区大会突破を確信した。

余韻に浸る間も無く、次の高校の舞台のために大急ぎで撤収を始める。

撤収が終わり、他の高校の舞台を観るため観客席に行く。

合宿で仲良くなった、ライバル高校の友達らにどんどん声をかけられる。

"みっちーの高校、今年どうしたの!?めちゃくちゃ良かったよー!"

前にも書いたが、僕らの地区は超激戦区でここ10年ほど県大会への出場校が変わっていない。

だから、誰もが僕らのことをライバルとして見ていなかったのだが

ここに来てようやく、存在を知られた気がした。

よし。おっしーの演劇部顧問計画は無事阻止できそうだ笑


二日間の全上演が無事に終了。

結果発表の時。

県大会に行く3校は

全国常連で、大掛かりな装置と圧倒的な演技力が持ち味の正統派な舞台を演じる工業高校と

高い完成度のダンスを取り入れた、女の園みたいな舞台をやる元女子校

そして、

郷土史を取り入れた僕らの高校

が行くことになった。

昨年、東北大会まで行った常連校がまさかの陥落。

うちの高校は20数年ぶりの県大会進出。

僕らは激戦区に大波乱を巻き起こしたダークホースとして、一気に注目を集めることになった。

よかった。

これでまたこのメンバーとこの舞台が上演できる。


この日はとにかくニヤニヤが止まらなかった。


その数日後、Mと2人で校長室に呼び出された。

校長と話す機会なんてまずない。

はじめての校長室はやけに緊張したが、校長先生はとても穏やかで優しい目をしていた。

あと、冬も目前なのに肌が黒くて、その違和感が不思議だった。

地区大会突破おめでとうの話から、

郷土史を掘り下げようと思った理由や、部活についてなど20分ほど話をさせてもらった。

全校集会とか式典とかでしか見ない人だったからあまり実在の人物というイメージはなかったけど、

僕らの舞台を観に来てくれていて心から応援してくれていることがとても伝わって嬉しかった。


僕ら演劇部は、これまで良い意味での評価というものを受けることはほとんどなかったのだけれども

ちょっとだけ、流れが変わっていることを実感した。


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