[Y.S.C.C.横浜 0-0 FC岐阜]の試合を終えて
はじめに
神奈川県のニッパツ三ツ沢競技場で行われたY.S.C.C.横浜とFC岐阜の開幕ゲームは、0-0のスコアレスドローに終わった。岐阜にとっては、J3での開幕戦は3年連続でスコアレスのドローとなった。一見、毎年の開幕戦同じような結果には見えるが、今季の開幕戦は今後に大きな期待を抱くことができる結果と現時点での明確な課題が見えた試合となった。初戦というプレッシャーと相手の出方を伺いながらの開幕ゲームでアウェイの地で勝ち点1を手にできたことも大きいだろう。前半から岐阜がボールを支配しながら試合をコントロールし、横浜に良い形を作らせなかった。後半も多くは岐阜が支配し、より前がかりになった後半中盤あたりから横浜の攻撃にあったが、粘り強く守り切った。後に紹介するスタッツを見ても勝ち点3が獲れた試合であるのは間違いないが、長いシーズンを戦う上での基盤は完成されていることと、新戦力の状態を確認できたことは収穫である。
スターティングメンバーについて
スターティングメンバーが発表されたときに、多くのサポーターは驚いただろう。登録上の話をすれば、スタメンにはFW登録が5人入っており、布陣の予想が難しかった。実際は三浦俊也監督が得意とする4-4-2のフォーメーション。GKには柏レイソルからのレンタル期間延長で加入2年目の桐畑和繁。4バックの右には山内寛史を起用してきた。本来はトップでのプレーを主とする選手ではあるが、昨季もシーズン後半に中盤のワイドを経験するなどプレー幅を広げていた。見事開幕スタメンの座を獲得した。センターバックには新加入コンビとなり、この試合ゲームキャプテンのフレイレと岡村和哉が起用された。そして左サイドバックには浦和レッズから加入の宇賀神友弥を起用。中盤ボランチに復帰組のへニキと庄司悦大。両サイドはどちらも新加入選手がスタメンの座を掴み、右に畑潤基、左に藤岡浩介。2トップは、古巣対戦のンドカ・チャールスとヴィッセル神戸から加入の田中順也が入った。桐畑と山内以外は新加入選手が起用された。
一方のYS横浜は3-4-2-1。GKには佐川亮介。3バックの右に新加入の橋本恭輔、左にガイナーレ鳥取から加入の藤原拓也、中央に昨季も主力の宗近慧が入った。中盤4枚の右ワイドには大卒ルーキー脇坂峻平、左に宮内寛斗。中盤にキャプテンの土舘賢人と古宿理久。2シャドーには神田夢実と35歳の吉田明生。1トップには10番の柳雄太郎を起用した。
データから試合を振り返る
このデータを見ても、岐阜が終始試合を支配していたことは一目瞭然だ。そして昨季から大きくスタイルを変えてきていることも分かる。
まずは大きく差がついたシュート数。横浜のシュート7本に対して、岐阜は3倍以上の23本のシュートを浴びせた。Ⅰ章で述べたこの試合でわかった課題の1つが、シュート精度である。23本に対して、枠内に飛んだのは3本にとどまった。ポストに弾かれたのが2つあったなど、この試合は勝利、さらには複数得点も期待できる試合だった。それでも、これまで以上に積極的なシュート意識は今後に向けて大きな評価点と言える。
そして昨季までとガラリと変わったのが、パス数だ。この試合岐阜は546本を記録。試合を見ていても、基本的にはセンターバック+庄司の3人が起点となり、攻撃を組み立てていた。時折、ロングボールで前線に当てるなど幅広く攻撃プランを構築し、横浜ゴールに迫った。これが今季の岐阜スタイルであることが十分に分かる。クロス数も22本と多い。中盤で組み立て、相手の意識を中央に引き寄せたところでサイドに展開しクロス、早い段階で低い弾道のクロスを上げる場面、そしてフレイレからの前線へのクロス気味のロングボールも効果的だった。後は精度をもう少し高めていきたい。試合が進んでいくと、徐々に単純なクロスが多くなった。受け手のFWもディフェンダーの背後を突きながらそこに正確なクロスを供給していけば、岐阜の得点数は自ずと増えていくだろう。
パスでチーム全体を押し上げ徐々に相手陣内に踏み込み、30mライン進入回数は48回を記録。そこからペナルティーエリア内に進入した回数も20回と崩しの形としては、非常に良い出来だったといえる。チャンス構築率は全18チーム中トップの17.2%を記録。ボール支配率も昨季はリーグ最下位だったに対して、開幕戦を終えた段階で、63.8%でトップに立っている。
下図は15分ごとに区切ったボール支配率とシュート数、その時間帯のプレースタイルを表している。90分通して岐阜がポゼッションで攻撃を組み立てていたことが分かる。開始15分で4本のシュートを放つなど積極性も表れている。また90分通して相手が前がかりになったところでボールを奪ってカウンターの意識も高かった。そして31分から45分の時間帯を除いて、セットプレーからもチャンスを構築している。庄司も高い精度のボールから何度もゴールに迫り、ポストに弾かれたヘニキのヘディングシュートを生み出した。何より試合を通してコンスタントにシュートを打つことが出来ている事は好材料だ。
上図は前後半のプレーエリアを表すホットゾーンである。(上が前半、下が後半)前半は中盤の位置で試合を組み立てながら、右サイドからの攻めを主としていた。一方で後半は左サイドからの攻撃が中心であったことが分かる。後半は宇賀神も高い位置をキープしながら、藤岡がサイドからの突破を図るシーンが何度も見られた。
これらのデータを見ても、完成が近いチームである事は間違いない。実戦を通してチームの戦術理解度が深まっていけば、かなり手強いチームになりそうだ。
これらのデータを見ても、完成が近いチームである事は間違いない。実戦を通してチームの戦術理解度が深まっていけば、かなり手強いチームになりそうだ。
戦術面から試合を振り返る
戦術面からこの試合を見てみると、ボランチ庄司悦大の存在の大きさをひしひしと感じた。攻守において岐阜の要となり、攻撃ではキーとなるパスを供給し、守備ではスイッチを入れる役として、相手が後ろ向きでボールを受けるタイミングがあれば、すかさず激しいプレスで前を向かせず、ボールも奪い取っていた。庄司を中心に岐阜のインテンシティの高さを随所に感じた。
【攻撃面】
攻撃を開始するときの平均的なポジショニングは上図のような形だろう。フレイレと岡村が最終ラインでボールを回し、そこに庄司が加わる。両サイドバックに関しては、右の山内は組み立てに参加する場面もあり、左の宇賀神よりは少し低い位置が平均的だろう。ボランチ2枚もこの試合は縦関係に近い形になり、庄司が下がる分、ヘニキが高い位置をとった。そして特徴的だったのが、左の藤岡のポジショニングだ。縦への仕掛けを得意とする畑よりも中央でプレーする機会が多く、サイドから中央に入る動きによって相手のウィングバックがつられ、相手スペースに宇賀神が走り込む動きを左サイドでは特に前半多かったように見受けられた。2トップもンドカがボールを収め落としたボールからワンタッチで裏へのパスを期待して田中も動き出すなど連動性の高さを感じた。
面白い攻撃と感じたのは、前半12分。GK桐畑が時間をかけて左サイドの宇賀神へロングパス。受けに行った庄司が右サイドへ大きく展開し、早いタイミングで山内が中央へクロスボールを供給したシーンだ。上図はそれをアニメーションで表現している。キーとなるのは、宇賀神からパスを受けた庄司が前を向いた瞬間だ。この瞬間前線のンドカ、田中、畑が裏へ抜け出す動きを仕掛ける。すると、YS横浜ディフェンスの宗近、藤原、宮内がその動きにつられ、3人についていくように中央へ。その動きを感じ取った山内が空いた右サイドのスペースに走り、庄司がそこへ正確なボールを供給。一気に右サイドに運ぶことが出来た。ここでは山内は早いタイミングのクロスを選択したが、こういった一連の連動性により、右サイドで複数の選択肢を作ることができる。例えば、横浜の吉田が山内に対峙したことで下がった位置でヘニキがフリーになり、そこにパスするもあり。山内が縦へ仕掛けるのもあり。受けに行った畑とのワンツーから山内が深い位置を取る選択肢もある。つまりオフザボールの動きとロングボールで左右に振ることにより、敵の陣形に隙間を作ることができる。この試合はそういった動きがとても多く、そして効果的だった。
サイドで言えば、両サイドハーフが中央にポジショニングをしながら、両サイドバックがフォローに行く動きの前半と、両サイドハーフがサイドに張りながら、サイドバックが追い抜く動きや、下がった位置でボールを受け、クロスを上げるなどサイドでの組み立てに多くのバリエーションがあった。
【守備面】
守備時はオーソドックスな4-4-2の形を保ちながら、ボランチがプレスに入った穴をサイドの選手が埋めるなど連動的な守備も効果的に働いていた。時折見られたのが、横浜のゴールキックを宗近につなぐ動きに対して、4-2-3-1に近いようなポジショニングをとりながら、ボランチ2枚にパスが出たときに、田中とサイドで挟み込むなど良い形で受けさせない動きをするなど変則的なポジショニングも織り混ぜていた。
何より前線からのプレスとそれに連動した2列目のプレスが非常に効果的だった。前線の選手がうまくサイドに追いやりながら、ボランチや2シャドーにボールが出たところで、庄司やヘニキがチェックに向かう。この連動性が横浜の攻撃の組み立てを苦しめていた。
Football Labが独自のデータから選んだ第1節守備的ベストイレブンには、岐阜から庄司とンドカが選出された。まさにそれは、前線からのプレスにより、ボール奪取ポイントが岐阜の中でも1位と2位の2人だった。チーム内平均年齢が高く、今回もスタメンの平均年齢は1番高かったが、この連動性がコンスタントに発揮できれば、守備面においても、相手は相当やりにくさを感じるだろう。
課題を挙げるならば、まずは「データから試合を振り返る」ところで挙げた2つ。シュート精度とクロスの精度だ。この試合に関して言えば、この2点がより高ければ複数得点は挙げられただろう。ただし、2点ともに試合を重ねるごとに増していくことに期待できるし、選手のコンディションも上がっていけば、大きな心配にはならないと感じる。
選手個人の部分で言えば、ンドカの競り合いのところでの手の使い方が少し気になるのが正直なところだ。この試合も効果的に最終ラインからのロングボールを収め、チャンスを演出。自らもフレイレからのロングボールを胸でトラップし、シュートまで持ち込んだ。ただ手の使い方によるファールが少し目立った。ここも試合を通して改善していく事だろうが、課題というポイントではあげさせてもらった。
そして、岐阜にとって大きすぎる収穫が他にもあった。それは大卒ルーキー山内彰のプロデビュー戦での活躍ぶりだ。山内彰は後半開始からヘニキと交代で投入された22歳のボランチ。昨季途中から二種登録という形で岐阜に入団したが、これがプロデビュー戦だった。デビュー戦のプレッシャー、そして開幕戦の難しさがある中で、とても初試合とは思えない落ち着きぶりでチームをコントロール。タイプとしてはパスで攻撃を組み立てる庄司と似たタイプで、おそらく前線での渋滞を避けるためにも、中盤をパサー2人にする事で、バランスをとりやすくする狙いがあり、投入されただろう。先ほど話した通り、後半は両サイドがサイドに張る動きが中心だったが、それは、山内を庄司のような立ち位置に置き、中盤高めに庄司がポジショニングを取る事で、サイド高い位置でサイドハーフとサイドバックと人数をかけることができるようになったことが要因だった。山内彰の出来は見事だったし、それを見抜いていた三浦監督の采配もお見事だった。横浜の状態を見極め、後半開始から先手をうった。他の交代として、窪田稜と菊池大介をサイドに配置した後の布陣が下図の通り。
前半の庄司の役割を山内彰が務め、パサー庄司をトップ下のポジショニングをとり、両サイドに人数をかけた。そして、流動的にこの2人の配置は変わり、庄司が最終ラインで組み立てに参加して、山内彰が前線に走り込むようなシーンもあり、こういった試合中にポジショニングを変えるなど効果的な動きも多かった。
さいごに
開幕戦はポジティブな要素が多く、昨季までとは見違えるように90分通して連動した動きで相手ゴールに迫った。もちろん勝てる試合を落としてしまったという印象もあるが、アウェイの地で多くの収穫と勝ち点1を獲って岐阜に帰ることができる。フィニッシュ精度とクロス精度が高まっていくことに期待したい。そして次節は、強敵・愛媛FC。開幕戦でカターレ富山に敗れ、敗戦スタートとなってしまったこともあり、愛媛も初勝利を目指して強力なメンバーが襲いかかってくる。今節のような連動した守備と攻撃のバリエーションを発揮しながら、ホームで今季初勝利を飾りたい。
参考文献
Football Lab, [サッカー×データ]データによってサッカーは輝く, 2022-03-15, 閲覧日 2022-03-16,
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