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[FC岐阜 0-2 アスルクラロ沼津]の試合を終えて

はじめに

静岡県の愛鷹広域公園多目的競技場で行われたFC岐阜とアスルクラロ沼津の一戦は、沼津が前半の2得点を守り切り、2-0で勝利した。岐阜はアウェイ沼津の地でまた勝利を挙げられず、今季初黒星を喫した。終始沼津のスタミナ度外視のハイプレスに苦しんだことと、前半の入りの悪さが試合を決定づけてしまった。1失点目は沼津・染矢の高精度のフリーキックだったが、それにつながるファールは入りの悪さが生んだもの、2失点目は岐阜GK桐畑のミスだが、沼津のハイプレスと岐阜のパスミスによって生まれた失点だ。前半から選手交代を行い、岐阜も流れを変えようと奮闘したが、後半もポストに弾かれるなど、最後までゴールを破ることはできなかった。岐阜としては3試合目にして初黒星。アウェイで2試合戦ったが、未だアウェイでは無得点と苦しんでいる。愛媛戦に続き、この試合でも岐阜の目指すポゼッションサッカーにおける課題が露呈した。それを次節までに修正できるか岐阜は試されているだろう。

スターティングメンバーについて
両チーム スターティングメンバー

岐阜は今節も4-4-2のフォーメーション。スターティングメンバーも前節と全く同じ11人が並んだ。GKに桐畑和繁。4バックは右に山内寛史、左に前節得点を奪った宇賀神友弥。センターバックにフレイレと藤谷匠。ボランチに庄司悦大とヘニキ。右サイドハーフに前節2得点の畑潤基、左に藤岡浩介。2トップは田中順也とンドカ・チャールスが並んだ。前節からの変更は、ベンチにキャプテンの柏木陽介が怪我から復帰した。
 
一方の沼津は前節から4人変更。フォーメーションも4-1-4-1から4-1-2-3とサイドがより高い位置をとる形に変更してきた。GKは開幕2試合ゴールマウスを守った野村政孝から武者大夢に変更。武者はこれがプロデビュー戦となった。4バックは変更なく、右に安在達弥、左に大迫暁。センターバックに藤嵜智貴と附木雄也。1アンカーに濱託巳。中盤2枚にキャプテン菅井拓也と佐藤尚輝。3トップの右に古巣対戦の染矢一樹、左に今季初出場の鈴木拳士郎、トップに今季初スタメンの渡邉りょうが起用された。前線の並びや菅井を1列前に置いて、アンカーに濱を起用していることから、この試合は明らかに前線からのプレスや連動して岐阜の攻撃をサイドに追い込む動きを作戦としてきた。

データから試合を振り返る
沼津戦 スタッツ

2点を追う岐阜が終始ボールを支配し、シュートも放っていたこともあり、スタッツを比較すると、岐阜が圧倒した。シュート数を見ると、沼津は5本、枠内2本はどちらも得点につながった。一方で岐阜は9本、枠内は3本にとどまった。
 
開幕2試合600本を超えるパスを繋いできた沼津だが、この試合は岐阜にボールを「握らせる」展開で戦っていたこともあり、281本にとどまった。一方で岐阜は今季最高の647本を記録。ただ試合展開と比較すると、攻撃の糸口を探るために、ディフェンスラインでのパス回しが多かったことがこの本数につながった。そこから必然と、ボール支配率でも沼津を圧倒し、67.3%とこちらも今季最高の支配率を記録した。
 
ボールを握りポゼッションでゴールに迫ったことで、30mライン進入回数、ペナルティエリア進入回数では沼津を圧倒。3試合続けて30mラインには20回以上侵入することができ、チャンス構築率では3戦全て相手より高い数値を記録しているだけに、アウェイ2戦で得点が奪えていないこと、勝ち点5を失っていることは非常にもったいない。

沼津戦 前半
沼津戦 後半

15分ごとのボール支配率を見ても分かる通り、岐阜が常にボールを支配する時間が長かった。特に前半、沼津の狙いと戦術がスタッツにも表れている。前半開始から30分、平均的に70%近く岐阜が試合していたが、シュート数を見ると、岐阜2本に対し、沼津3本。そこから2点が生まれている。30%ほどしかボールを握れていない沼津が先制点を奪った開始15分、沼津は、ボランチと最終ラインでボールを回す岐阜に対し、最終ラインを除いた6人が連動した超ハイプレスでボールを奪い取る戦術で岐阜対策をしてきていた。沼津のハイプレスに苦戦した岐阜は15分ごろに2度チャンスを作ったものの、痛かったのが2失点目。ミスから生まれたこの失点が沼津をより勢いづかせるとともに、岐阜にハイプレスへの意識に加えて、2点を追い付かなくてはならないという焦りが加わってしまった。
 
後半開始も岐阜が80%近く支配し、後半開始時間で猛攻を仕掛けたが、得点は生まれず、そこからトーンダウンしてきて、シュートチャンスも少なく、前線に効果的なパスを少しずつ減ってきてしまった。

沼津戦 前半ホットゾーン
沼津戦 後半ホットゾーン

2つの図は、上が前半、下が後半のプレー割合を表すホットゾーンである。前節の愛媛戦よりも、やはり岐阜のプレーエリアが中盤低い位置に集中していることが分かる。前半は特にサイドの高い位置でボールをキープすることはできず、ボランチとセンターバックのボール回しのエリアで攻撃のチャンスを窺っていた。
 
後半は岐阜がより攻撃的だったので、沼津のプレーエリアはセンターバックのあたりからより右サイドに集中している。岐阜も左サイドとボランチの2人がパスを回していたことから、より左サイドの色が濃くなっている。

戦術面から試合を振り返る

ボールを支配する時間を長くして、中盤と前線の連携からゴールに迫るポゼッションサッカーを目指す今季の岐阜だが、そのサッカーをより強固なものに仕上げるために、大きな課題がこの試合で表れた。技術よりも運動量がより重要となるJ3の戦いにおいて、沼津のようにハイプレスから得点チャンスをものにし、相手にボールを支配されながらも、ゴールは破らせない戦術は、かなりの効果があるということが明らかとなった。ただ、岐阜は、ここ3試合以上のハイプレスを目指すことよりも、今のサッカーを継続し、その上で、ハイプレスに来る相手をうまく剥がすパス回しと連動性、オフザボールの動きが求められる。
 
YS横浜戦、愛媛戦は、【攻撃面】・【守備面】と分けて分析してきたが、今回は次のポイントから戦術的に試合を振り返り、改善策を考える。ここで挙げるポイントは3つ。

①    ハイプレスに対するパス回しの課題
②    ①に対する解決策
③    受け手の動き方とGKを使ったハイプレスの逃げ方
④    柏木陽介の前半途中からの投入策について

①    ハイプレスに対するパス回しの課題

この試合はこれに尽きる。沼津のハイプレスに対して粘る強く最終ラインからパスで崩す動きを続けたが、受け手の数が少なく、前線とコンタクトが取れていないロングボールに逃げたり、バイタルエリアでミスが続いたりと攻撃までつなげることができなかった。ここは今後に向けて大きな課題の一つと言える。それはプラン自体の再構築、つまりシステムの変更や、新たな起点の存在など、チーム全体での動きを見直す課題となる。
 
沼津はボールホルダーに対して、連動してパスコースを限定しながら、プレスを仕掛けてきた。前半は特に、2人、3人がプレスに来るため、中盤に隙が生まれるものの、そこに通させないような厳しいチェックでパスのベクトルを横や後ろに向けさせた。前半開始15分のこの超ハイプレスは、かなりの体力を使うが、その効果はとても大きく、必然と岐阜のパスベクトルが横になったり、パスを回す起点が徐々に下がった。最終ラインに対してのプレスではないが、沼津の印象的なプレスのシーンが前半14分。 

沼津戦 ゴール前での沼津のプレス

宇賀神からの縦パスに対し、相手を背負いながら受けたンドカ・チャールスだったが、ここに入った瞬間、ンドカに対し、4方向から一気にプレスがきて、ボールを失った。このようなゴール前でも、岐阜の最終ラインに対しても、複数人がプレスに来ることで、ミスを誘う場面やコースを限定してボールを下げさせた。
 
ただこのシーンで岐阜のプレスも今年は一味違うと感じたところがある。それがボールを奪われた後の縦パスに対して、庄司がすぐにプレスをかけ、ボールを奪い取ったことだ。このプレーによって、2次攻撃を仕掛けることができる。それが次に述べる解決策を生み出すプレーにつながっている。

②    ①に対する解決策

最終ラインにもハイプレスを仕掛ける相手に対しての解決策として、以下がその1つであると考える。下図は前半15分のシュートまでつなげることができた楔のパスを使ったパス回しをアニメーションにしたものだ。

沼津戦 前半15分
前半15分の攻撃シーン

左サイド藤岡のクロスにンドカが合わせ、ファーサイドで畑が詰めていたが、ゴールにならなかったシーン。このシーンのキーとなるのが、最初の藤谷のパスを受けた宇賀神がトラップからすぐに効果的な縦パスを田中に供給したことだ。
 
右サイドでの攻撃をやめ、センターバックに下げたことで沼津がラインをあげ、プレスを仕掛けてきた。藤谷から宇賀神に動かした瞬間、沼津の渡邉りょう、染矢一樹、佐藤尚輝が宇賀神のパスコースを限定するように動いてきたが、それを交わした宇賀神のクレバーなパスと田中の動きがこの一連の流れを生んだ。4-1-4-1の1つのウィークポイントである中盤アンカーの両脇を見事についた。田中がここで受けたことで、センターバックはここまでついてくることはできず、アンカーの濱も守備バランスを考えると、むやみにチェックに来ることはできない。ハイプレスに苦しんだ中で、相手のバイタルエリアにおいて、フリーで前を向くことができた。この位置で前を向くことができると、やはりチャンスにつなげることができる。ハイスピードで2列目と3列目の間をつくパス、そこに入り込むFWの動きが重要な動きとなるだろう。

沼津戦 ハイプレス

沼津のように4-1-4-1や4-1-2-3のフォーメーションを採用するチームに対しては、アンカーの脇を突くこと、そして2列目と3列目の間に前線の選手が入り込む動き、そして、相手サイドバックを釣り出すようにサイドの選手が降りてきて、その背後にFWや味方サイドバックが走る。これは愛媛戦であった動きだが、この試合はほぼ見られなかった。
 
相手のシステムにもよることではあるが、中盤のバランスに対して、そのギャップを突く動きとパスはどのシステムであっても狙いにすべきだ。ここで述べる解決策は、「相手中盤の隙に入り込む前線の動きとそこに対してスピードの速い縦パスを供給する」ことだ。

③    受け手の動き方とGKを使ったハイプレスの逃げ方

②で述べたように、相手のギャップを突くことは解決策だが、それに加えて、ポゼッションをする上で重要となることがGKを効果的に使うことだ。しかし、必ずGKが受けた際に、受け手も連動して動くことが必須の動きとなる。

沼津戦 キーパーを使ったパス回し

例えば②と同じような状況で、上記のコースが狭く、パスの供給が難しい時、高い位置をとっているサイドバックが降りてきてパスコースを作り、GKを使って逆サイドに展開する動きはこの試合ほぼなかったが、これはポゼッションで相手を崩すためには重要な動きである。J1屈指のポゼッションからアタッキングフットボールを構築した横浜F・マリノスのようにパス回しにキーパーを使うことは難しいが、それによって、相手のプレスをより緩和できる。キーとなるのは、キーパーが同サイドによることと、逆サイドでセンターバックとサイドバックがパスコースを作ることだろう。開幕3試合センターバックとボランチの庄司が起点となって攻撃を組み立ててきたが、その3人の動きに対して、沼津は特に庄司に前を向かせないようにプレスをかけてきたが、常に前を向いて状況が把握できるキーパーも使うことで起点は低くなるが、相手のプレスを掻い潜ることができるはずだ。

④    柏木陽介の前半途中からの投入策について

④は柏木の投入を含めた監督・コーチのマネジメントについてだ。個人的には柏木の前半投入はそこまで疑問の采配ではないと感じる。2点リードを許し全体的な動きが悪い中、あの状況で流れを変えるためには、やはり選手交代が1番の策。2列目から奮闘するも、全体との連動が合っていなかったヘニキの交代もやむを得ないという中で、ベンチに入っているボランチ起用可能な選手は、柏木陽介と山内彰。4-4-2のシステム自体を変える策もあったが、三浦俊也監督は4-4-2の使い手。システムは変更せず、柏木を投入した。確かに柏木は今季初出場となるため、コンディション面で不安要素があるものの、敵のプレスを交わすパスワークの起点となる動きとチーム全体に落ち着きと奮起をもたらすメンタリティと複数の役割が求められる。落ち着きとパスワークは山内彰も兼ね備えているが、劣勢の展開でどのように動けるかなども不透明であり、より確実な交代は、柏木だっただろう。
 
試合全体としては大きな改善とはならず、90分通して難しい展開だったが、柏木はボールサイドに常に顔を出し、後半はシュートも放つなどコンディション面では問題ないように感じる。数試合でトップコンディションに持っていってくれるはずだ。

さいごに

早くも3試合目で黒星を喫してしまった岐阜だが、早い時期に今季目指すサッカーのウィークポイントが課題として分かったことはこの試合の大きな収穫と言える。これからの岐阜にとって必要なのは、「連敗しないこと」と「連勝すること」だ。34試合という試合数を戦い抜いて優勝するためには、連敗は絶対に避けなくてはならない。この敗戦から前を向き、次節のガイナーレ鳥取戦、内容が悪かったとしても、勝ち点3が必ず欲しい一戦となった。そしてそこから連勝することが重要だ。「連勝」の持つ意味は、相当なものであると感じている。岐阜は、昨年6月の福島ユナイテッドFC戦(○2-1)、テゲバジャーロ宮崎戦(○3-1)の2連戦以来、連勝がない。やはり、連勝できないと、上位に食い込むことは難しい上に、チーム全体の状態もなかなか上向きにならない。鳥取戦後、カターレ富山、松本山雅FCと強豪が続くが、ここで「連勝」することができれば、メンバー層も厚い岐阜は上位を引っ張る立場になることができるだろう。


参考文献

Football Lab, [サッカー×データ]データによってサッカーは輝く, 2022-03-29, 閲覧日 2022-03-30,

Football Lab

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