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日記

「春になったらまた来ようね」と私に語りかける優しい声の懐かしさに少し泣きそうになった。

心というのは恐ろしいもので、黒い感情に飲まれたとき、本当に大切なものを蔑ろにしてしまう。
今でこそ私はとても環境や人に恵まれていると感じるのだけれど、昔は本気で自分が世界一不幸な人間だと思っていたし周りの人達を憎んだり恨んだりしていた。

憎んで、恨んでそれで自分が報われるような救われるような気がした。
昔の自分を表す言葉を探せば、怒りや憎悪といった決して明るいとは言えないそんな言葉達で作られていたと思う。
私はとてもくだらない人間だった。
だけどそんな私を見捨てた人は一人もいなかったことをふと思い出して、自分が恥ずかしくなった。

先日そんな人達の中で唯一連絡先を知っていた人と会ってきた。 

季節で例えるなら春みたいな人だ。
穏やかな心を持って、暖かい言葉をかける。その人のまとう春のような雰囲気は沢山の人を惹きつけるようで、その人の周りはいつも笑顔が溢れている。
私もそうだ。その人がやってきた途端、頬が緩んで幸せな気持ちになる。

その人がいなかったらきっと私は心の中で人に向かって汚い言葉を吐き捨て、感情に振り回される人間のままだっただろう。
久しぶりに会った時、その人は昔と変わらない態度だった。会えなかった約一年の出来事を語れば、頑張ったね!と笑った。人生について語れば分かるよと少し寂しそうに笑った。

公園のベンチで話していたときの、空が印象的だ。海のように広くて、薄い青だった。なんだか寂しげだと思った。

そして帰り際、「春になったらまた来ようね」とその人はそう言ってまた笑った。
未来の約束をするのが嫌いだった。でもその時とても暖かい気持ちになった。
「そうですね」と笑って返した。




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