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そもそも漫才とは?(M-1 2020考)

年末恒例のM-1が今年も無事開催され、マヂカルラブリーが前回最下位のリベンジとも言うべき感動的な勝利で幕を下ろしました。一方、マヂカルラブリーのネタは漫才なのか?という論争も起きていて、下記リンクのように審査員も務めた富澤さんがコメントするような流れが起きています。

サンド富澤 “漫才じゃない論争”に「変化と進化を止めないからM―1は、漫才は面白い」

そこで、マヂカルラブリーは漫才じゃないと言えるのかを考えてみたいと思います。

ナイツ塙さんの分析にヒント

この論争を考える上で、この論争が起きる前からナイツ・塙さんがとても冷静かつ的確な分析をしています。著書「言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか」を引用した、以下の記事をご覧ください。

ナイツ塙が明かす「女芸人No.1決定戦 THE W」「R-1グランプリ」が“つまらない”理由

ハライチ・岩井さんのコメントが的を射ていて秀逸です。

「岩井はM-1で自分たちのネタを披露することを、古典落語のコンクールで新作落語を発表しているようなものだと語っていたことがあります。」

これを受けて塙さんはM-1は「吉本流」の大会だと評しています。まさにその通りだと思いますが、この表現だと陰謀論者が湧いてきそうな危険な香りもしますので、僕はもう少しマイルドに「上方漫才」の大会だと表現したいと思います。

今回、マヂカルラブリーに疑問を呈している人のコメントを読んでみて下さい。その全てが、あれは漫才ではない=あれは”上方”漫才ではない、で語られています。では、それこそナイツやハライチ、サンドウィッチマンの漫才は漫才ではないのでしょうか?

これら関東芸人の漫才はやはり上方漫才とは一線を画しています。ハライチのノリボケスタイル、ナイツのヤホー漫才、サンドウィッチマンに至ってはほぼコントです(実際、漫才のネタをそのままコントでもやっていたりする)。ですが、ハライチもナイツも優勝こそ逃したものの、確かな爪痕を残し、サンドウィッチマンについては伝説のチャンピオンとなりました。

「M-1=上方漫才の大会」で本当に良いのか?

漫才=上方、と考えたくなるのは十分に理解できます。事実、漫才師の多くはやはり上方ですし、吉本興業が圧倒的最大勢力です。ですので、結果的に決勝進出者や優勝者が上方勢(吉本勢)になるのは当然のことです。

それでは、やはりM-1は上方漫才の大会であるべきなのでしょうか?

関西圏に住んでいる方ならご存じかと思いますが、関西圏では元々上方漫才(落語)の大会が毎年行われています。ABC漫才・落語新人コンクール(以下、ABC)等です。もしM-1が上方漫才の大会であるべきならば、そもそもこのABCを全国放送すればいいのではないでしょうか?(局も同じ系列)

ですが、それをしなかった。それはなぜか?上方漫才の大会では限度があり、全国的な需要が無いからです。私は関西圏出身で東京に住んでいましたし、今も東日本に住んでいますが、こちらに来ると漫才や吉本新喜劇のような、関西圏の子供たちが日常的に触れているようなお笑いが殆どありません。東日本出身の私の妻は漫才の面白さが全然分からないと言います。そういう世界の中で、上方漫才は必ずしもキラーコンテンツになり得ないのです。

しかも上記ABCも今は「ABCお笑い新人グランプリ」と名を変えています。漫才、落語に関わらず面白ければOKと門戸を広げているのでしょう。上方漫才の本場・大阪でもそういう動きになっています。最初から全国区で勝負をかけたM-1であれば、何をかいわんや、です。

漫才の多様化こそM-1の強み

ナイツ・塙さんは著書タイトルを「関東芸人はなぜM-1で勝てないのか」とやや刺激の強い表現にしていますが、必ずしも関東芸人が勝てない訳ではありませんでした。上述サンドウィッチマンを筆頭に、アンタッチャブル、トレンディエンジェル、とろサーモン、更にはパンクブーブーも上方圏ではない王者となっています。審査員の中にも上方代表格の上沼さん、巨人さん、松本さんが強烈な個性で鎮座されていますが、富澤さんや塙さん、志らくさんが入っているのも、その多様性を受け入れる姿勢からでしょう。M-1は上方の大会ではなく、全国区の大会となっているのです。これこそが、M-1がM-1たる所以だと考えます。ただ、審査員にせよ出場者にせよ、最大勢力は上方なので、どうしても上方が有利になってしまうということです。

上記のような流れの中で、今年はマヂカルラブリーが見事な優勝を成し遂げました。最初のリンクの富澤さんのコメントの通り、これこそ漫才の進化系であり、漫才全国版だと思います。マヂカルラブリーのお二人には是非雑音に左右されることなく、自分たちの漫才道を突き進んで欲しいと心から願っています。

マヂカルラブリーさん、おめでとうございます!

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