見出し画像

「鬼滅の刃」の魅力はどこから来るのか?

「鬼滅の刃」22巻が出ましたね。23巻が最終巻になるとか。今から最終巻が楽しみですし、近日公開予定の無限列車編、楽しみですね。

かく言う私は子供の影響で最近見始めたライト勢ですので恐縮ですが、今回は「鬼滅の刃」の魅力を語ってみたいと思います。

鬼滅の刃のベースは少年漫画の王道

先ず、鬼滅の刃のあらすじですが、主人公・竈門炭治郎が仕事で外出中に家族全員が鬼に襲撃され惨殺、一人生き残った妹の禰豆子は鬼に変えられてしまい、その禰豆子を人間に戻すべく旅に出るストーリー、となっています。

ベースになっているのは少年ジャンプの定番、「友情・努力・勝利」です。鬼と剣で戦いますので、リアルでややグロい表現もありますが、基本的には少年漫画の王道を継承しています。

鬼滅の刃の特異性①:主人公=最強ではない

一方で、そこから逸脱というか、寧ろ進化と言うべき変化も見られます。まず、主人公・竈門炭治郎が最強ではない、それどころか味方のチームの中でもトップ層には入れない発展途上の人物であるということ。勿論、成長過程を描く上で、最初は弱いけど努力により強くなり勝利する、という流れは定番で、鬼滅の刃も同じ流れではあります。ただ、主人公は最終的に一番活躍し、一番強くなるのが常ですが、本作は必ずしもそうではないということ。上には上が結構早い段階から居まくるし(それは敵だけではなく味方にも)、足らない自分というのが随所に描かれます。落ちこぼれのように見えて実はめちゃくちゃ凄いっていうパターンはありますが、今回はそれでもない。比較的強くて凄いんだけど、特に飛び抜けた能力は無く(強いて言えば鼻が利く)、常に発展途上で描かれています。ともに行動する伊之助や善逸と比べてもやや炭治郎が強いと思われるが、ほぼ互角の実力。悟空やルフィは一歩抜けていましたが、それほどの差が無い主人公となっています。

鬼滅の刃の特異性②:主人公が選ばれた血統キャラではない

ある意味少年漫画の王道ともなっているのが、遺伝のチカラ。これは特に今の時代は色々問題があると思います(優生思想が含まれうる)。悟空は最強の戦闘民族・サイヤ人(の落ちこぼれ、ではあるものの、地球人より強い血が流れている)、ルフィも華麗なる一族の子。要するに、凄い祖先が居て、強い血があり、それを受け継いでいるので、最初は力不足であってもどんどんその眠った才能が開花していく、という流れになっています。RPGでもドラクエシリーズはこの血統主義は強いですよね。

だけど、炭治郎はそうじゃない。先祖代々炭を扱う家系であり、たまたま伝説の剣士と懇意にしていたくらい。血としては決して他のキャラに比べて恵まれていない。

なお、作品全体には優れた血統を持つキャラは描かれています。伝説の剣士の末裔はやはり柱になっていて最年少ながら非常に強い剣士ですし、伝説の剣士の兄もやはり凄い。煉獄家は見た目含めて明らかに遺伝子が濃いです(笑)そもそも、鬼の頂点たる鬼舞辻無惨は血を分け与えることで鬼を作ったり強化しますし、無惨と産屋敷家は親類であり、産屋敷家には血の呪いがあり長生きできなかったりもします。血や遺伝の役割を重視する姿勢には大きく変わりませんが、主人公が選ばれた血筋ではないという点が興味深いですね。

鬼滅の刃の特異性③:最強の敵が最強ではない

なんだか禅問答のような言い方ですが。通常、最強のライバルは主人公よりも強い設定がほとんどです。それを友情と努力で勝利する。これが定番中の定番。ドラゴンボールの場合、成長に合わせてもっと最強が出てくるパターンでした。RPGのゲームも似たような手法ですよね。ピッコロ大魔王が最強で、漸く倒すとベジータが出てきて、やっとのことで勝つとフリーザが出てくる、といった具合に。

鬼滅の刃もそうではありますが、少し変化球をかけてきます。無惨は最強であり、柱が束になっても敵わないレベル。確かにその時点では最強ですが、それよりももっと強い男が居ました。そう、継国縁壱です。この設定の巧みさは時間軸で最強をずらしているということ。これは面白い。無惨もまた、自分より強い最強を知っていて、それがコンプレックスであったりもして、キャラの魅力付けに一役買っています。また、ラスボスを倒す方法は、単に最強の剣士になることではない、という点も非常に面白い流れです。

鬼滅の刃の特異性④:〇〇(ネタバレ注意)

※ここはネタバレも含むので、読みたくない人は読み飛ばしてください。タイトルもあえて伏せます。

最後の特異性は、主要人物が比較的簡単にいなくなる(死ぬ)ということです。近々公開予定の煉獄さん、そして無惨最終決戦での複数の柱たち。通常、重要人物はなかなか殺しにくいところがあります。なぜなら、折角キャラ付けした人が居なくなってしまうからです。例えば、ドラゴンボールなら神龍が生き返らせる事ができるという、結構強引な手法を取りました(笑)結果、主人公の悟空すら殺される訳ですが、こういう荒業無しにはキャラを殺すのはかなりの勇気が要ります。ところが、鬼滅の刃では、最終決戦はさておき、煉獄さんは比較的早い段階で、登場して間もなく居なくなります。これはかなり勇気がいることだと思います。ただ、これによって更にストーリーに華が出たのも間違いありません。僕自身、無限列車編をマンガで読んで、完全に心酔しました。これだけのインパクトを比較的早い段階でやってしまう勇気に感服します。

なぜ、こういう特異なストーリーが描けたのか?

つまり、非常に少年漫画の王道を歩みつつも、ところどころの設定が現代的と言うか、王道からあえて外していて、これがとても面白いストーリーを作っています。

では、なぜこのような思い切った手法が取れたのでしょうか?

まず、キャラ設定の妙技、これが非常に大きいと思います。私自身、マンガは全く描けませんが、マンガに関わる仕事をしたこともありますので知識だけはありますが、通常マンガを描く際にストーリーを考える前にキャラクター設定をかなり綿密に行います。ワニ先生はキャラ設定が最高レベルに丁寧です。完璧なアリバイ工作が困難なのと同じように、通常なかなかそこまで作りこむのは至難の業ですが、僕が見る限り、ワニ先生は完璧に近いところまで練りこんでいます。「大正コソコソ話」はまさにこのキャラ設定の一部をわざわざ教えてくれている部分になります。ですので、実は非常に重要です。読み飛ばした人は是非もう一度読んでみることをお勧めします。

このキャラ設定の妙技がベースにあり、引き込まれるストーリーが次に出てきます。ストーリーもキャラ設定同様緻密です。これはキャラ設定が緻密だから、自然とストーリーも緻密になる、と言った方が良いかもしれません。それくらい、キャラ設定は重要だということです。よく海外の方から日本のMangaはストーリーが素晴らしい、ストーリーの作り方を教えて欲しいと言われることがありますが、実は根幹はストーリーではなく、その前のキャラ設定にあるのです。主人公、サブ、そしてライバル。この三角関係がいかにしっかりと魅力的かつ奥行き深く設定されているか。モブ含めてその周りのキャラ設定に矛盾はないか。ストーリーより前に、先ずこれが大事なのです。(もう1回言いますが、僕はマンガは描けません)

いずれにせよ、ワニ先生は一言で言って「極めて緻密」です。では、その緻密さはどこからくるのでしょうか?

男女差別と言われるかもしれませんが、僕はこれは女性特有の能力だと思っています。勿論、緻密な男性も居ますが、傾向として女性の方が緻密に物事を考えることが多い。ある女性漫画家のキャラ設定を見たことがありますが、やはり極めて丁寧です。また、「大正コソコソ話」の挿絵にあるような、ちょちょっと描いたメモ書きのようなものにも、結構細かく注意書きが書いてあります。キャラ設定書を見るだけで、妄想が掻き立てられ、とても面白いのです。勿論、男性作家も同じことをしますが、そこに女性特有の視点であったり、丁寧さがあったりします。このことが鬼滅の刃の面白さを引き立たせる要因の一つになっているように思います。

ジャンプの方では完結、マンガも次回23巻が最終巻ということで寂しい限りではありますが、ワニ先生の丁寧なキャラ設定とストーリーにより、我々読者の妄想力も発揮されやすい内容になっているようにも思います。また、近々公開の無限列車編は感動必至!めちゃくちゃ楽しみにしています。終わってもなお、まだまだ楽しませてくれる鬼滅の刃に感謝しています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?