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アスタミューゼの未来予測手法~『2060 未来創造の白地図』の舞台裏~(前編)

前回の記事ではテクノロジーインテリジェンス部の部長、川口伸明さんに全世界193ヵ国・39言語・7億件を超えるイノベーションデータから近未来のライブシーンを描き出したベストセラー『2060 未来創造の白地図』(以下、『2060』)を書いたきっかけとその原点について語っていただきました。

今回は、『2060』の世界観がどのようなコンセプトやデータ、ロジックに基づいて導き出されたか、その舞台裏についてお聞きしました。

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世界のイノベーションデータと投資情報

---『2060』で描かれている近未来の姿は、そこで活用されている技術やサービスがとても具体的ですが、これらはどのような根拠に基づいて描かれているのでしょうか?

アスタミューゼは、193ヵ国・39言語・7億件を超える世界最大級のイノベーション関連情報と投資情報(150兆円以上)に関するデータベースを保有しています。

具体的には、世界の特許・論文情報、グラントデータ(日本の科研費や米国NIH・NSFなど、研究開発プロジェクトへの予算配賦情報)やクラウドファンディングの調達金額データ、ベンチャー企業への投資金額データなどがあります。

これらの客観的な情報を組み合わせて分析した結果が『2060』の世界観を描くにあたっての根拠になっています。

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未来を創るためのデータソースと実現までのタイムスパン

---それぞれのデータには、どのような特徴がありますか?

各プロジェクトが取り組んでいるテーマが研究段階~ビジネス段階のどこにいるかという「フェーズ軸」、そのテーマがどのタイミングで実現するか、投資回収までにどのくらいの期間を要するかという「時間軸」でとらえるとわかりやすいと思います。

ベンチャー企業への投資額データは、現在~10年後あたりのビジネスを知るのによいでしょう。実際に事業を行なっているどんなベンチャーがどれだけ資金調達してるかで、新しい事業需要が見えてくるわけです。

ビジネスを始める前の段階で、サービス設計や製品の見せ方などをテストマーケティングしたい場合はクラウドファンディング(CF)のデータが参考になります。CFの多くは未着手段階での提案で資金を募るのですが、どんな発想・提案が、どれだけ資金調達してるか、どんな人が応援しているかで消費者の潜在的需要が見えるのです。

また、5~20年後に実現する可能性のあるテーマを知りたければ、グラントデータを見るとよいでしょう。日本の科研費のように公的研究資金配賦情報の多くは論文や特許になる前の研究提案への投資であり、どの大学のどの先生がどんな発想で研究費をいくら調達しているか、今どの段階までできてるか、次のステップへの課題は何か、いつの完成を目指しているかなどがわかります。そこから未来技術の方向性や達成年代が伺えるため、非常に重要な情報です。​​

2050年以降の予測は非常に難しいのですが、例えば日本政府の進めるムーンショット型研究開発制度は、2050−60年の実装を目指す破壊的なイノベーションと位置付けられていますから、そうした研究テーマや、各種シンポジウムや展示会等で語られる研究者の未来ビジョンが参考になります。

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未来を創る成長領域176

---データを見る、といっても膨大なデータ量だと思いますが、どのような切り口で見ていけばよいのでしょうか?

私たちは「未来を創る成長領域176」と「解決すべき社会課題105」という独自の定義でイノベーションデータを分類しています。

「未来を創る成長領域176」は、今後10年から20年のスパンで大きく成長が見込める技術(xRなど)や事業領域(都市OSなど)、基礎研究(量子光学、人工光合成など)を抽出し、さらに、すでに実用化され、大きな経済効果を生み出しながらも進化を続けている最新技術やサービス(脱炭素・水素社会など)を加味して策定しています。現状、136の分野別(エネルギー、ヘルスケア、情報通信など)の事業領域と40の汎用的な技術領域(AIや素形材など)から構成されています。

この分類は2030年を見据えて設計されており、研究開発動向の変化によって、毎年、定義式の見直しや分類テーマの差し替え、市場の追加などを行っています。

この176の成長領域ごとにイノベーション関連情報を分類・整理することで、どの領域がどのくらい伸びていて、この領域にはこういった取り組みがある、ということが可視化されるわけです。

成長領域

解決すべき社会課題105と“Beyond 2030”

---こうやって2030年までの未来が見えてくるわけですね。では2060年までの未来は、ムーンショット型研究開発制度の研究テーマ以外だと、どういったものを参考にして予測しているのでしょう?

2030年以降に関しては、「解決すべき社会課題105」に負う部分が大きくなってきます。

「解決すべき社会課題105」は国連で策定された持続可能な開発目標(サステイナブル・デベロップメント・ゴールズ(SDGs)に基づき、アスタミューゼ独自の視点から社会課題を抽出し、国連が中心的に考える発展途上国の開発が中心の「No one will be left behind」の考えのみならず、先進国も含めて社会全体で中長期的に取り組むべき課題を示しています。

科学技術が目まぐるしく変化し、社会を大きく変えている中、社会構造の変化や気候の変動や、さらには人種や民族やジェンダーやサイバー空間での犯罪なども含めた、幅広く複雑に入り組んだ社会問題に対する課題を好機に変え、より良い「社会を実現する」ビジョンを与えることを意図しています。

社会課題

この社会課題105も成長領域176と同様に2030年までの解決を見据えて設計されたものですが、今年に入って、より未来的・幸福追求的社会課題を増強すべく、”Beyond 2030”として新規課題を追加しました。課題の数は105のままですが、実現目標年代を2030−2060年の範囲で明記し、課題の表現もよりシンプルに整理し直しました。

『2060』の世界観は、この”Beyond 2030”の定義からインスパイアされたものということができます。

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不確かな未来を特許で裏付ける

---こうして『2060』の世界観が出来てきたわけですね。しかし2060年の世界はこうなってますからこんな新規事業やりましょう、と言われても企業は二の足を踏みそうですね。。

そこでより確からしい根拠データとして活用できるのが特許です。

アスタミューゼでは、特許の価値を、その特許が経済活動にどれだけのインパクトを及ぼすか、という観点で評価するために独自の評価ロジックを構築しています。

特許は最大20年間、医薬などでは認められれば最長25年まで権利を行使できますが、権利を失ってからも発揮できる機能があり、それを私たちは「牽制」と呼んでいます。「牽制」は他者の特許出願を「拒絶」させる機能です。ある特許が牽制した他社特許が多いほど、技術的優位性が高いという判断ができます。

アスタミューゼの特許評価ロジックでは、この牽制関係はもちろん、牽制先特許の発行国のGDP(国内総生産)や特許訴訟の損害補償額などもパラメータ化しています。前者は当該国の経済活動の大きさの指標であり、後者は当該国での特許の法的重みを測る指標です。牽制先特許の各出願国ごとに重みは違いますから、この計算によって、特許そのものの技術的優位性だけではなく、その特許が経済活動にどれだけのインパクトを及ぼすかを算出することができ、その値を特許1件ごとの『パテントインパクトスコア』と呼んでいます。

また、企業・大学、業界、国など各集合体の中でどれだけ影響力のある技術資産をポートフォリオとして持っているかを測る指標として、抜きんでた排他力を示す『パテントエッジスコア』、排他力の強さと権利期間の長さで総合力を計算する『トータルパテントアセット』、ポートフォリオ全体での技術的優勢度を測る『トータルパテントポテンシャル』、特許集合の粒ぞろい度や伸びしろを測る『トータルパテントパフォーマンス』などの評価指標もあります。

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有望成長領域レポート_仕様書_210513

さらに、これらのパラメータを評価目的に応じて使い分けることで、特許だけでなく大学の基礎研究(グラント)も同じように定量的に価値評価できます。

特許をベースにグラント・ベンチャー・クラウドファンディングデータからわかる大学・研究機関や企業、プロシューマーの動きを重ね合わせていけば、どのような技術がいつごろ実現しそうか、どのプレイヤーのどんな技術が覇権を握りそうか、注目すべき意外な参入者といった情報が、おおよそ予想できるようになります。

こうして不確かな未来を特許で裏付けることによって、2060年までの大きな未来ビジョンを描くことが可能になるのです。


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