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それ以降それは無くなった

3年くらい前、私が大学2回生だった頃。

授業中にBからLINEが来た。
「どうする今夜。駅で待ち合わせて一緒に行こうか?」
心当たりがなかった私は、授業が終わった後、すぐにBへ電話を掛けた。
「もしもし?何の話?さっきのLINE。」

Bは焦ったように話した。
Aがバイクで交通事故を起こした事、今夜がお通夜である事。
私は出来るだけ冷静になろうと努めた。
「分かった、じゃあ20時に駅で。」

AとBは大学の友達で、サークルに入っていなかった私たち3人はよく授業や遊びを共にした。ゲーセンやパチンコ、飲みにも一緒に行ったし、Bの友達の女の子も交えて一緒に遊んだりもした。
1人ではできない”大学生らしい事”を3人なら体験出来ている気がした。
「お疲れ」

Aの通夜は、同じ通夜でも大往生でなくなった祖母のものとはまるで違っていた。場所に慣れていない私とBは、悲しみよりも通夜の作法についていくのが精一杯だった。
だが遺影のAを見た瞬間には涙が一気に込み上げた。心から笑っている時のAの顔だった。その時にようやく実感が沸いた。
夏休みに3人で旅行をしようという話していた事は、Aと一緒に消えた。帰りの電車の中でBがつぶやいた。
「辛いな。これ」

それから1ヶ月程経った頃、レポートも片付いた蒸し暑い夜。
私は大学生らしく深夜まで起きていた。寝る前にスマホを見ると、いつの間にか不在着信のアイコンが表示されていた。スマホは何も鳴らなかった事を不思議に思いながら着信履歴を確認した。

そこには不在着信を表す赤い文字で「A」の名前が表示されていた。
だが、その時は「変だな?」思っただけで、不思議と怖さや気持ち悪さも感じなかった。だから当たり前のように掛け直したが、通話中の「ツーツー」という音が流れただけだった。
Aの親族による何かの確認か、それとも何かの電話会社の手続きの都合か……その程度に思った。
「Aの電話番号から着信があったけど、お前にもあった?」

3日後くらいに何気なくBに聞いてみた。
「は?あるはずないだろ」Bは少し怒りを含めて答えた。Bに申し訳なくなり、私はその話題をそれ以降避けた。
しかし、その後もAからの不在着信は3日に1回くらいのペースで続いた。
自宅で課題図書を読んでいる時、お風呂に入っている時、寝ている時。
毎回、自分がスマホを触っていない時に限ってAからの不在着信はあった。
普段あまり電話がかかってこない私の着信履歴には、Aの名前がチラチラと赤く表示されていた。
「なんなんだろうな?これ」

Aからの不在着信が3週間ほど続いた頃、私は久しぶりに実家に帰った。
ガラケーが壊れたから買い換えたいという父親と一緒に、実家から車で5分ほどのケータイショップへ同行した。
父親はスマホには抵抗があったが、美人のお姉さんの勧めもあってか初めてのスマホに喜んでいるように見えた。
「右に親指を動かすだけで天気予報が見れるのはすごいな!」

手続きが終わり、父がトイレに行くと席を外したら、私はお姉さんと2人きりになった。その空気が気まずく、何か話さないと思い考え、そういえばと思い立ち
「あの、変な事なんですけど……いいですか?」

お姉さんは、眉毛をクイと上げて「どうぞ」という表情をした。
私は2ヶ月ほど前に亡くなったAの話を簡単に話したうえで話した。

「自分が見ていない間に不在着信があるんです。その友達から。」
「不在着信の時間から考えても、ご家族とも考えられないですし。」
「仲が良かったヤツだから、怖くはないんですけど、ちょっとやっぱり。」

そこまで話したところで冷静になった。
変な客だ、と思われているに違いない。
だから『やっぱり何でもないです。』と言い出そうとした時だった。
「その着信履歴見せてもらってもいいですか?」


そう言われて、私は焦ってジーンズからスマホを取り出した。
Aからの不在着信、赤く残るその不在着信。
着信履歴を見せれば、自分の話が嘘ではない事の証明が出来る。
それをお店で調べてもらえれば、何か分かるかもしれない。
「あれ??ちょっと待ってくださいね。」

私は更に焦った。
お姉さんの表情を見る余裕はなかった。
私はスマホの中を必死で探した。
私の焦りを十分に感じたお姉さんは、私を助けるように言った。
「もしかして、お友達からの着信履歴、消えてませんか?」


「え?あ、はい。確かにあったんですけど……。」
「よくあるんですよ、それ。」


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