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【TFCC損傷に対するスプリント療法】

尊敬しているセラピストはいますか?

私自身がハンドセラピストとして切磋琢磨している時にご縁をいただきました 西出義明先生。
ハンドに対する情熱や熱い想いは刺激的。いつか尊敬し私の憧れになりました。

その西出先生からお久しぶりのご連絡いただきました。

「TFCC損傷の正しいスプリントをセラピストに知ってもらいたいので、
情報を共有してもらいたい!」

尊敬するセラピストの西出先生からのご依頼とあれば
「はい か YES 」しかありません♪

そんな西出先生の「TFCCへのスプリント療法」をシェアさせていただきます。

私自身も整形外科でのセラピストをしている時に、
西出先生から教えてもらったスプリントを作り、結果は良好でした。

是非ともこの知識が、ひとりでも多くのセラピストに届きますように!


手関節の装具(スプリント)療法 -熱可塑性プラスチックを用いて-
もり整形外科リウマチ科  西出義明

●はじめに
手関節におけるスプリントは個々の症状にあわせたものでなければならない。熱可塑性プラスチックを使用することは皮膚損傷のリスクも高くフィッティングと効果の評価を細かく行う必要がある。また手関節は支持性に加え、除痛などの効果がなければ日常生活で使ってもらうことが難しい。今回はスプリント作製の留意点と実際について紹介する。

●手関節のスプリント
【手関節固定のためのulnar gutter 型スプリント】
手関節の尺側偏位による痛みやリーチ動作に支障をきたす場合などに適応する。採型図を示す(図1)。

図 1 ulnar gutter型スプリントの採型図

スプリント掌側部の縁を折り曲げることで強化する(図2)。
熱可塑性プラスチックの縁の折り曲げについては先に縁を折り曲げてからmoldingする。

図 2 ulnar gutter型スプリントの強化

また重力を利用した肢位でmoldingすると良い(図3)。
熱可塑性プラスチックは厚さが1.6mmと薄いタイプでも縁を折り曲げるなどの工夫をすれば十分に強化できる。

図 3  ulnar gutter型スプリントのmolding時の肢位

【症例提示】
60才代女性。RA。罹病期間20年以上。 Steinbrockerの分類stageⅣ、Larsen gradeⅤで右手関節の不安定性と痛みがあり、口元へのリーチ動作が困難となる。
Ulnar gutter 型スプリントを装着し、痛みも軽減し化粧やイヤリングの装着が可能となる(図4)。日常生活ではこのスプリントを常に装着して行っている。

図4 左:装着前 右:装着後、顔へのリーチが可能となる

●手関節尺側部痛のためのスプリント
1)スプリントの選択
初回評価時に、DRUJと月状骨間に圧痛がある場合はTFC及びfovea橈側周辺の損傷を疑いcuff(カフ)型スプリントを適応している。ECU腱にそって痛みがある場合にはECU腱鞘床などの尺側支持機構の損傷を疑いulnar gutter型スプリントを適応している。
なお、作製前に、cuff(カフ)型スプリントはDRUJと手根骨の近位列部を、ulnar gutter型スプリントは尺側から手関節軽度背屈位でOTRが徒手的に固定し、それぞれの肢位で自動運動時痛が軽減するかどうかを確認する。
  Cuff(カフ)型スプリントは、DRUJと近位手根列に対し橈尺側より求心性の圧を加えることで、手関節の安定性を得ることを目的としている(図5)。

図5 Cuff(カフ)型スプリント

2 )スプリント作製
Cuff(カフ)型スプリントは熱可塑性プラスチック(オルフィット(パシフィックサプライ)厚さ1.6㎜とベルクロテープを使用している。
おおよそ横20cm、縦6cmの熱可塑性プラスチックで尺側が外側になるようにmoldingする(図6)。

図6 Cuff(カフ)型スプリントの作製

 橈・尺骨茎状突起から手関節中枢部までを包み込み、ベルクロテープで求心性の圧を調節できるようにする。スプリントの橈側の縁は中央ラインをやや越え、尺側の力が加わりやすくする。
橈側の縁にベルクロテープを貼る(図7)。

図7 Cuff(カフ)型splint作製の留意点

 これは皮膚の挟み込みを防ぎ、しっかりと装着できるようにするためである(図8)。

図8  Cuff(カフ)型スプリントの皮膚挟み込みの防止

Ulnar gutter型スプリントは、尺骨三角骨間の固定を目的に作製する。ストラップは3カ所につけ、DRUJに痛みがある場合には中央のストラップにて求心性の圧が加えられるようにする。
8週間以上はスプリントの装着を指示する。2週間に一度のスプリントチェックを行う。

3)スプリントの適合評価
 初回評価時に必ずスプリント非装着・装着下での比較で
握力、運動時痛・安静時痛のVAS、ulnocarpal stress testのVASの評価を行い、スプリントが適合しているかどうか確認する。

4)Cuff(カフ)型スプリントの装着時の留意点
 柔らかいタオルなどの上で反対側の母指にてcuff(カフ)型スプリントの橈側部を押し下げ、反対側の手指にて尺側部をすくい上げながら2本のベルクロテープで交互に張り付ける(図9)。
2回以上、繰り返すことでスプリントの求心性の圧を高めることが一人で可能となる。

図9 Cuff(カフ)型スプリント装着時の留意点   

Cuff型スプリントは軸圧を減少させる可能性を期待できる(図10)

図10 Cuff(カフ)型スプリント の原理 

最後に

手関節のスプリントは、熱可塑性プラスチックを使用することで、水仕事に強く家事、整容、入浴動作などにも継続して装着しやすくなる可能性がある。常時装着することで炎症をより早く抑制し、良肢位の保持にて損傷した靱帯・関節包など軟部組織の改善を期待できる。
しかし皮膚が脆弱な症例も多く、熱可塑性プラスチックを使用することは皮膚損傷のリスクもあり、スプリントをフィッティングさせるために評価を細かく行い、症状の変化にも鋭敏に留意する必要がある。それらをふまえればスプリントは有効な手段になり得ると考える。


●文献
1)原和子:装具作業療法入門.パシフィックサプライ社:1987.
2)西川真史:外傷性TFCC損傷の治療. MB Orthop. 10: 37-42, 1997.
3)稲垣弘進ほか:手関節尺側部痛の原因と鑑別診断.J MIOS.30:2-11,2004.
4)森友寿夫ほか: 手根運動における尺骨手根靱帯の生体三次元靱帯距離変化診断. 日手会誌. 24: 5-8, 2007.
5)麻生邦一ほか: 尺側手根伸筋腱鞘炎の診断と治療. 日手会誌. 23: 393-398, 2006.
6)安部幸雄ほか:橈骨遠位端骨折に伴う手根部軟部組織損傷の分析.骨折.28:414-418,2006.
7) 西出義明ほか: TFCC損傷に対するスプリント療法.日手会誌. 21(4): 359-363, 2004. 
8) 西出義明: 関節リウマチにおける手指・手・肘関節に対するスプリント・装具療法-
熱可塑性プラスチックを用いて-. 作業療法ジャーナル.45:1024-1033,2011. 
9) 西出義明: 手関節尺側部痛に対するスポーツ外傷のリハビリテーションとリコンデショニングの実際:投球障害のリハビリテーションとリコンデショニング.文光堂:233-248, 2010.


以上、TFCC損傷の方へのスプリント療法のひとつとして知っていただけば幸いです。

最後まで読んでくださいまして、ありがとうございます。
わたしもまたそろそろ記事を書いていきますw


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