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レジ前の天使


だいぶ早く上がれたので、足りない食材を買うのにスーパーに寄った。
夕方のちょうど混む時間帯。
レジの前は並ぶことをためらうくらいの長蛇の列。

カートを列の最後尾につけ並んでいたら、会計までもうすぐというあたりで、ひとつ前にいた初老のご婦人がやおら振り向き、この券持ってる?と聞いてきた。むむ。なにかの勧誘?と身構えたが、ご婦人が手にしているのはスーパーの50%オフのチケット。いえ持ってないですと答えると、期限今日までだし、2枚あるからよかったら使ってとわたしの買い物カゴにポンと入れてくれた。え、いいんですかありがとうございます!と言うと、いいのよいいのよという感じで前を向いたままヒラヒラと手を振った。
荷物を詰めるところであのご婦人のところへ行き、再度お礼を言おうと会計を済ませて振り向くともういらっしゃらない。

年齢を重ねて、わたしもこのごろでは割と気軽に他の人に話しかけることができるようになったけれど、こんな風にやさしく、あっさりと、知らない人になにかをあげることができるだろうかと思った。
わたしなら、たとえ50%オフのチケットできっと喜ばれるだろうとわかっていても、ひとつ後ろの他人にこれもしよかったらどうぞとは言わずに、使わなかった分は家のゴミ箱行きだろう。

それに、話しかけられたときのわたしの心は、今日は早く上がれたんだからあれしてこうして、ああこれも済ませておこうこのことはどうしよう、と雑多なことでいっぱい。きっと眉間にはしわが寄っていたかも。
ぎゅっと凝り固まった気持ちがほぐれ、はたと目が覚めて、ああ自分はいまここにいるとわかったような。今はあのひとは天使だったのかも。とすら思う。

こころを亡くさないでと話しかけてくれた、そしてついでにお会計も助けてくれた、天使。

いるんだなあほんとうに。




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