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ナポリタン


美容院ではいつも同じスタイリストさんにカットをしてもらっているが、カラーをやってくれる方も指名できるので、空いていたら和藤さんでお願いします、と伝えた。

カラリストが参りますので少々お待ちくださいと言われて、すこしの間、周囲のドライヤーの音を聞きながら、濡れたままの髪で鏡に映った観葉植物を眺めてぼけらとしていた。
お久しぶりです、お元気でしたか。と細身のわとうさんがふわっと目の前の鏡に現れて、お久しぶりですねえ。とこちらも返す。

わとうさん、どんなお正月でした?と話しかけると、今はあまり出歩けないですから、大人しくしてました。ずっと家にいて。とマスクの上の目が、にっこり。
歳の頃は23歳くらいだろうか。話し方が控えめで、どちらかというと声も小さくて、お客さんと話が盛り上がるというタイプではなく、淡々としているから、
話しづらいと感じる人もいるかもしれない。でも話してみると面白い。っていうのは、会話のセンスが良いとか、そういうことではなくて、なんかちゃんと会話しようとしてくれているなと思う。変に笑わせようとかそういう構えがなくて自然だからだろうか。
あでも確か家にいるのが苦ではない人ですよね。と繋げると、そうなんです、別にどこにも行かなくても平気で、むしろ行きたくないくらい。けっこう生活範囲が小さめで。高校も自転車で通学できるくらい近かったし、今もこのサロンまでちょっと時間かかるけど、基本は自転車で来てます。学校卒業したての時は、ちょっとお洒落な街に憧れて、そういう店舗に配属を希望したんですけど、職場くらいはって。でも今は来店数も多いこの店で経験積めてよかったなって思ってます。

わとうさんは花粉症で、花粉って常に何かしら飛んでいるんですよ。と感染症が流行する前から、一年中マスクをしている。そして指先はカラーに滲んで黒くなってて、それ洗ったら落ちるんですかと聞くと、あ今のはけっこう落ちますよ。まあでもすぐ仕事でまた色がついちゃうんですけど。ぼく特にこれっていう趣味も無いし、お店に出て仕事してるの好きだから、休みがなくても苦じゃ無いっていう感じで。だから指もずっとこんな感じですけど、おっけーです。
自分でうんうんとうなづきながら話す。
仕事はとても丁寧だ。

年末にそこの家電屋さんでおっきいテレビを買ったんですよ。
だから今それでいろいろ観るのが楽しみで。テレビ番組はつまらないからYoutube観てます。動物とか、空とか、景色とか。海外の自分では軽くいけない秘境の動画とか。すごくきれいで。実際見たらすごいんだろうけど、なんか、たぶんホンモノよりきれいに見えるんじゃないかなって。
あとは、料理の動画観て、自分でもできそうだなっていうのに挑戦してます。本当に自分で何も作れなかったんで、今それが楽しいです。
1週間ナポリタンを麺の太さを毎日変えて作ってみて。
友だちは太めの方がいいっていうんですけど、ぼく的には細めの方がケチャップがよく絡まって美味しいかなって。

ナポリタンの試作を食べながら、大きな画面で、遠い国の秘境を観ている、わとうさんを思い浮かべて、なんだかとってもいいなと思って、ふふと笑ってしまった。

細めパスタでナポリタン、わたしも試してみよう。





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