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ここで「アンコンシャス・バイアス」についてちょっと考える

唐突ではありますが、冒頭からクイズです。
次のショートストーリーに登場する外科医と少年は、どんな関係にあると思いますか?
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ある日、父親とその息子である少年が車で出かけたが、途中で交通事故に遭ってしまった。運転していた父親は救急病院への搬送中に死亡。息子の方は意識不明の重体で救急病院へと運ばれた。
病院の手術室で、運び込まれてきた少年を見た外科医はこう言った。
「ああ…この少年は私の息子です!」
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さて、みなさんは読んでみてどんなふうに思いましたか?
「あれ?」という違和感でしょうか?
すぐに答えが分かった人もいるでしょう。
話を最初から読み返した人もいるかもしれません。

いろいろな可能性が考えられますが、もっと妥当な可能性は、「外科医は少年の母親である」というものです。つまり、外科医は女医だったのです。

実は、これはアンコンシャスバイアスを確認する有名なショートストーリーです。「外科医」と聞いて「男性」と思い込んでいると話のつじつまが合いません。まるで死んだ父親が生き返ってきたホラーストーリーのように思えてしまいます。

死んだ父親が継父で、外科医は実父という答えもないわけではありませんが、「女医」である可能性を思い浮かべるかどうかがこの話の鍵となります。つまり、職業と性別とを強く結びつけていないかどうかをチェックするのがこの話の狙いなのです。

■アンコンシャスバイアスとは
アンコンシャスバイアスは「無意識の偏見」と訳されています。「外科医=男性」のように、無意識のうちに人々が抱いている思い込みのことを言います。

人は過去の経験則によって何がしかの思い込みを作り、それをもとにスピーディーな意思決定を可能にしています。こうした思い込みは誰もが持っているものです。たいていの場合はその意思決定は間違ってはいませんし、日常生活を円滑に進めるためには不可欠であるともいえます。

今回の調査で透けて見えてきた、子どものいない人についてのアンコンシャスバイアスには以下のようなものがあります。

「誰もが子どもは欲しいに違いない」
「子どもがいない人は、楽をして自由気ままに生きている」
「子どもを育てる経験を経て人間は一人前になる」

こうしたアンコンシャスバイアスは、社会規範から培われたものであったり、過去の自分の体験から生まれたものであったりします。

アンコンシャスバイアスを持つこと自体は自然なことです。また、上のような例は個人的には一言申し上げたくなるものではありますが、個人でそうしたバイアスを持つことは他人がとやかく言うことではないと思います。ただしこうしたバイアスが、相手に対する歪んだ評価をもたらすことは大いに問題です。

たとえば、上の例でいえば、以下のような評価をしていることになります。真実かどうかはわからないにもかかわらず、です。

「誰もが子どもは欲しいに違いない」→「だから子どものいない人は子供のいる人に嫉妬している」
「子どもがいない人は、楽をして自由気ままに生きている」→「だから子どものいる人の苦労がわからない」
「子どもを育てる経験を経て人間は一人前になる」→「だから子どものいない人は人間としてどこか欠けている」

やっかいなのは、「無意識」のうちに反射的に、この判断が発動することです。いちいち自分の推測が正しいか確認していては物事が進みません。アンコンシャス・バイアスの問題の本質はこの「無意識性」にあります。無意識であるからこそ、それが偏っていたとしても、問題に気付きにくく、自分ではコントロールしにくいのです。

■アンコンシャス・バイアスがいま注目される理由
アンコンシャス・バイアスへの問題提起は米国から始まりました。長年ダイバーシティ推進に取り組んでいる成果として、企業の中で女性や少数民族などのマイノリティの存在感が増し、中間管理職に占める比率も増えてきました。しかし、上級管理職はなかなか増えません。その大きな理由としてアンコンシャス・バイアスの影響が指摘されたのです。

その裏付けとなる研究結果をご紹介しましょう。米国の大学が1996年に発表したものです。

一般(レベル1)から最も高い上級管理職(レベル8)まで階層が8つあるとします。社員数は男女同数です。細かな条件は割愛しますが、評価スコアは男女ランダムに割り当て、レベル8への昇格者は男女同数となるように設計します。

ここに、男性への評価に1%の正のバイアスを加えます。つまり女性は1~100点のスコアで評価されるのに対し、男性は1~101で評価されるようにしたのです 。

この条件で20回の昇進シミュレーションを行った結果、女性の昇進数は少しずつ減少し、レベル8の最高位の役職に占める女性の割合は35%になってしまいました。わずか1%のバイアスが、結果として大きな影響を及ぼすことになってしまったのです。
(出典: http://www.ruf.rice.edu/~lane/papers/male_female.pdf/, ”Male-Female Differences: A Computer Simulation”/ February 1996 / American Psychologist)

日本でも男女雇用機会均等法の施行から30年以上経ち、企業内で働き続ける女性の存在はあたりまえのものになりつつあります。しかし課長以上の役職をみると、30年間、制度整備や施策に取り組んできたにもかかわらず、女性比率はやっと11%を超えた程度です。(平成 30 年度雇用均等基本調査/厚生労働省)。


その大きな原因が、人々が持つ「アンコンシャス・バイアス」にあることが徐々にわかってきました。ここ最近、この言葉が注目されているのには、そうした背景があるのです。

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